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旅の始まり 世界は違えど、あつさ対策!

 「アーデーは史上最も多くのダンジョンを開拓した数少ない冒険者、旅の覇者(ライズエオベラ)の1人なんだからよ。」

 「らいずえおべら?なんですか、それ?」

 「それについてはわたくしメルが、説明いたします。旅の覇者(ライズエオベラ)というのは言わば冒険者の最終的に行き着く領域、全ての冒険者の憧れです。初代覇者(エオベラ)インデは齢40を超えて冒険者を始めましたが、十六年の時を経て齢56にしてその境地へと辿り着いた史上最年長の冒険者です。それ以来、彼の伝説はワシはもう歳だからだめじゃけぇと弱音を吐く熟年の冒険者世代の方達を勇気付けるだけでなく、冒険者を志す以外の方たちにも鼓舞するきっかけとなったのです。そして代々この話は現代まで受け継がれており、その称号もまたアーデーさんを含む覇者の方達に受け継がれています。」

 「随分とパワフルな人が初代覇者(エオベラ)だったんですね。すごいなぁ〜。ところでアーデーさんの世代って何代目なんですか?」

 「俺の世代だとそうだなぁ、二代目になるかな?」

 「え!二代目?って事は初代が出てからそれまで年月が経っていない?」

 「実は覇者(エオベラ)が初代の覇者が誕生したのが今から三千年前で、たった数人くらいだったそうなんだ。そして今にいたるまで覇者の誕生はなかったらしい。だから二代目。」

 「三千年前って、そこまでいくともはや伝説級どころか神話級の存在なんですね覇者って。そして今その存在が目の前にいる。」

 「ハッハッハ、やっぱ驚いちゃう?」

 「えぇ、まさか助けようとした人が神話級に優れた冒険者だったとは思いませんでした。冒険者でもない僕に助けられてお気を悪くされてなければいいんですが。」

 「そうよそよそしくしないでよ〜。今まで通りに接してくれれば良いから。」

 「あ、はい。」

 「まぁ僕の事はさて置き、どう?冒険者なってみない?」

 「なります。」

 「おっと、即答だね?何か理由でも?」

 「僕夢があるんです。」

 「夢?」

 「この世界を気の向くままにどこまでも旅がしたいんです。世界を一周したいんです。アーデーさんを見て冒険者って色んな所を冒険してダンジョンに行って、町に帰って来たらたくさんの人が迎えてくれて、なんというか良いなって。僕はそういう冒険者になりたいです。だからアーデーさん、改めてですけど、僕を冒険者として推薦してください。」

 その言葉を聞いたアーデーさんは歓喜に満ちた目をしていた。

 「もちろんだよ。歓迎しよう、新星冒険者タツリ!」

 僕たちは洞窟で会った時よりも力強く固い握手をした。

 「てなわけでメルさん、彼を冒険者として登録してほしい。」

 「かしこまりました。ではタツリさん、どうぞこちらへ。」

 僕は一旦アーデーさんと別れ、奥の受け付け窓口と思われる場所に案内された。メルさんは受付カウンターの机を挟む様に僕と対峙する。すると机の下から出した羽ペンと紙を手にした。

 「それでは最初にこの書類に必要事項を記入ください。」

 「はい。」

 僕は渡された羽ペンと紙を受け取り、書くことにした。そしてその瞬間不安がよぎる。今さらだけど僕はこの世界の読み書きが出来るのだろうか?と、こうして話せてはいるけど、神様に異世界語習得とかさせて貰ったわけじゃないし大丈夫かなと思いながら筆を動かし僕の名前を書こうとすると日本語でも英語でもない文字が僕の意思とは裏腹に記された。あと普通にタツリって読めた。こっそりとメルさんの様子を確認するが、何も気に留めていないようだった。これで僕が読み書きが出来ることは証明された。まずは第一関門クリア。文字の読み書き、これが出来なきゃ異世界どころか、外国には住めないってもんだ。名前と職業を書いていく。名前イヅコ・タツリ、職業フリーター、ふとあのステータス画面の事が頭によぎる。「フリーターってカッコつけてるけど、実質無職でしょ笑」と書かれたコメント、今思えばこの世界を治める神のあからさまな悪意を感じる。・・・だが、残念だったな!異世界に来て早々僕は就職したのだ!言っておくが自分から志望したわけではない、伝手?コネ?否、推薦である!しかも生ける伝説(アーデーさん)からの太鼓判付きのだ!これで僕のステータス画面の職業欄をフリーター&あからさまな悪口から、期待の超超超新星冒険者様、に変えざるをえないだろう。フッフッフ、神の不本意だけど仕方ない、でもムカつくという感じの顔が浮かんでくるぜ。顔見たことないからおぼろげだけど。

 「タツリさん、どうしたんですか?そんな自分に対して悪意を向けてきた者に”ざまぁみろ!”と言わんばかりの余裕と優越感に満ちた顔して。」

 「え、いやなんでもないですよ!」

 やばい、顔に出てたか!

 「えーっと、書きましたけどこれでいいんでしょうか?」

 「拝見します、ふん、ふんふん、はい問題ありません。ただ、このふりーたー?というのは初めて聞く職業ですが、どんな職業なんですか?」

 「え、えーっとそれは定職に就かずバイトを掛け持ち・・・じゃなくて、雇われれば色んな仕事を請け負う各地を転々とする職業ですよ。」

 「うーん、非公式的な冒険者的なものでしょうか?」

 「まぁそんな感じですかね。」

 「では書面での手続きは以上になります。次はこちらのギルドカードに血を一滴付けてください。」

 「え?血を付けるんですか?なんで?」

 「まぁそうですよね、いきなりそんなことを言われて戸惑ってしまうのは分かります。ただ聞いてください。ギルドカードは冒険者の身分を証明する物、これがあれば登録日から一年は各国の関所の通行料が免除されます。そして血をカードに付けるのはカードの悪用防止の為です。血を付けた本人が手にしても何も起こらないのがカードの持ち主の証となり、なりすまし兼冒険者以外の通行料不正免除の防止にもなっているんです。」

 「なるほど、そういう理由だったんですね。ん?でも本人以外が手にしたらどうなるんですか?警報が鳴るとか?」

 「いえ、殺意剥き出しでカードが対象者を襲って来ます。頸椎などの急所めがけて。」

 「怖っ!それ、親切で拾ってくれた人も酷い目にあいませんか?」

 「そこは心配ありません。カードはあくまで悪意を持って手にした人にしか反応しませんので。」

 「あぁ、それならまだ良いのか?」

 「では、こちらに手をお出しください。採血はわたくしが行います。」

 メルさんは裁縫に使うような程に鋭利で細い針を取り出し、ここに手を置くようにと指示をした。

 「では手短に終わらせます、動かないで。」

 その採血はメルさんの普段の凛とした印象のせいなのか手術や予防接種の時のような恐怖心は芽生える事はなく、とても流麗で美しかった。針はゆっくりとフワリと僕の指先めがけて近づいてきて、やがて僕の指先を刺すと針に付いた一滴の血がカードの端にポタッと落ちた。

 「はい、終わりました。あっと言う間でしょ?」

 「え?まぁ、そうでしたね。」

 「これで手続きは以上になります。お疲れ様でした。」

 「はい!ありがとうございます。」

 「こちらがタツリさんのギルドカードになります。」

 メルさんは僕の名前とランクFと彫刻された木製のカードを名刺のように両手で手渡す。

 メルさんからギルドカードを受け取った僕はアーデーさんのところに戻り、早速登録が終わったと報告しに行った。

 「お待たせしました。、アーデーさん。」

 「おぉ、おかえりタツリ。無事登録は済んだようだね。」 

 「はい!これで、僕も晴れて冒険者です!」

 「あ、そういえば驚いただろ?ギルドカード登録する時。」

 「ん?何がですか?」

 「メルさんの採血だよ。あの人はこのギルドで1番採血が上手いんだ。」

 「そうですね、痛みを全然感じなかった。」

 「だろ?しかも目にも止まらぬ速さで採血するあの動きには度肝を抜かれただろ。」

 「ん?目にも止まらぬ速さ?メルさんの針さばきはすごくゆっくりで流麗で美しいなと思いましたけど?」

 「・・・え?」

 「え?」

 突然、僕たちの間に一瞬沈黙が訪れる。

 「流麗で美しい?ゆっくり?タツリ、確認の為聞いていいか?」

 「なんですか?」

 「・・・目で捉えたのか?メルさんの腕の動きを。」

 「はい、そうですが?」

 アーデーさんは驚いた顔をしていた。すると僕の耳元に囁いた。

 「そうか。あのなタツリ、メルさんは今は受付嬢をやっているが、前職は多くの悪党に恐れられた暗殺者(アサシン)だったんだよ。その速さは俺でも反応出来るかどうかってくらいだ。」

 僕は何故アーデーさんが驚いたのかを数秒で理解した。僕はアーデーさんが目で追うので精一杯くらいに俊敏なメルさん(元暗殺者)の動きを捉えるどころか「ゆっくりだった」と言った。それはつまり「あれは避けようと思えば避けれたよ〜HAHAHA。」とアーデーさん(先輩兼上級冒険者)及びメルさん(元暗殺者)に言及しているようなもの。しかもそれは悪意もなく、あっけらかんとした気持ちから出たコメント。なんだか今の僕、タチ悪くない?というかなんで僕はその速さに反応出来たんだ?戦闘経験は全くないのに。あ、もしかして”俊敏性”か?確かステータスに”雷神の次に速い”って書いてあったような。そもそも雷神ってなんだ?神なのか?それともただの二つ名?何にせよ少なくとも僕はここにいる人間よりも圧倒的に速いという可能性がある。ほら今も、周りがスロー再生されたかのように見える。恐らく僕が速く動きたい時、対象物を目で追いたい時、思考を巡らせたい時に発動する”思考加速”がさっきも今も発動しているんだ。とりあえず一旦減速。いや、ちょっと待て再び加速!なんて言い訳すれば良いんだこれ!弁明出来ずにこれが広まったら大騒ぎだぞ?そしたらその内「おいお前、めちゃくちゃ速いんだって?俺と勝負だ!」って感じの自分の速さに自身がある人にライバル視されてのんびりと旅が出来なくなる。ヤバい!アーデーさんのスローボイスが聞こえ始めた。あの口の動きは考えこんでいる僕が気になって「どうした?」って言おうとしている。もう考える時間がない!チクショウ〜僕は思考加速を使っても対処出来ないのか。仕方ないここは大人しく減速して素直に事情を説明するしかない。

 「どうした、タツリ?」

 「え?あ、いやえっとそのー、何というかこれはその〜・・・」

 「あー無理に説明しなくてもいいんだぞ?その速さには確かに驚いたし気にはなるが、俺は問い詰めるつもりはないから。ただ純粋にすごいと思ったんだ。でも上手く言葉がまとまったら、話せる時が来たら話してくれ。」

 「アーデーさん・・・ありがとうございます。」

 あぁ、この人に会えて本当に良かった。事情を言えない僕を受け入れてくれた。ならばこの人思いに応えなければ!それならば今すぐに言っても良いのでは?

 「あ、ちなみにだけどメルさんには絶対言わない方が良いよ。」

 「ん?といいますと?」

 「あの人実は以外と負けず嫌いで、現役時代自分と同じくらい速いと思った相手見つけると遠距離戦、接近戦問わずで相手にスピード勝負を挑んでいたんだ。それは今も変わらずで、この前なんて剣技の速さを謳う冒険者に速さの自慢されて最終的にナンパされたらその相手を1秒も経たずにK・Oさせちゃって。それ以来メルさんは「棲む時が違う受付嬢」の二つ名で呼ばれるようになったんだ。」

 悲報、思ったより身近にライバル視してきそうな人がいました。バレたらやばいです。もしあの時採血を避けていたら面倒くさい事に巻き込まれる事間違い無しでした。首の皮一枚繋がった気分です。

 「まぁとにかくおめでとう。世界一周頑張ってよ!とは言ってもそれ以外の目標も考えないとね。」

 「それ以外の目標?」

 「ただ世界一周するって言ってもなぁ、その途中で強い魔物と戦いたいとか、伝説の武器が欲しいとか何かを成し遂げたらどうだ?」

 「うーん、そうですか。・・・じゃあ僕は雷神に会いに行きたいですかね?」

 「雷神?雷神ってあの龍の事か?」

 「っ!雷神の事何か知ってるんですか?知ってたら教えてください!」

 「お、俺が雷神に着いて聞いた事あるのはそれは1匹の龍の事を指していて、もの凄く速いってだけだ。」

 「もの凄く速い龍・・・会ってみたいですね。」

 「しかしなんでまた雷神に会いたいんだ?」

 「んー、好奇心ですかね?」

 「好奇心・・・。」

 それからそれから、町でアイテムと武器を買い揃えて冒険者としての準備を終えた僕は門の前までアーデーさんに見送ってもらった。

 「アーデーさん、ありがとうございました。あなたのおかげ僕は冒険者としていいスタートを切れたような気がします。これから僕は次の町を目指して旅立ちます。」

 「そうか、もう旅立つんだなぁ。あ、そうだこれを渡さなくちゃ。硬貨が入った袋、路銀に使ってくれ。」

 受け取った袋はずしりと重く開け口の隙間から光輝く金貨が見えた。

 「良いんですか?こんな大金?結構ありますよね?」

 「あぁ、大体金貨250枚だ。それだけあれば4人家族でも半年は贅沢して暮らせる。君は1人で使うわけだからもっと保つだろうね。」

 「でもどうしてこんなに?」

 「クツアラシ討伐協力と就職祝いだ。受け取ってくれ。」

 「はい!ありがとうございます。大事に使わせて頂きます。」

 「じゃあ、お別れだな。」

 「はい、では行ってきます。」

 「気を付けて。」

 こうして僕は完璧にプロローグ的なイベントを終え、コヘージの町に別れを告げた。門を出る前にアーデーさんから教えてもらったけど、ここから1番近い町は”ツマオリ”という所で、町というより飲食店、売店、宿屋が一つになった建物が山岳地帯に一軒あるらしい。とにかく僕はそこを目指すことにした。人のいない事を確認してアイテムボックスからロードバイクを取り出した。さぁ大冒険の始まりだ!と意気込んでいたのだが、今日は猛暑日だった。日差しプラス調子乗って全力で漕いだので汗はビッショリ、喉はカラカラ。運良く見つけた木陰で休めたけど、このままだと干からびて死にます。何か使えるスキルは無いかな?清涼飲料水の入ったペットボトル召喚魔法とか・・・これは、水源魔法?ビンゴだ!どんな魔法かは分からないけどさっそく使おう!すると手の平から公園にある水飲む時用の蛇口をちょっとひねった時に出てくる勢いの水が吹き出した。これは水の初級魔法だろうか?

 僕はアイテムボックスから取り出したコップを水一杯に満たし、ゴクゴクと喉が音を鳴らすくらいに力いっぱい水を飲み干し、喉を充分潤すと、溜め息と同時に疲労感も吹き飛ばした。生きてるって思える最高の瞬間だ。かすかに涼しいそよ風が気持ち良い。

 「はぁぁぁ〜!生き返った〜!水魔法あって助かったわ。水魔法ってめちゃくちゃ勢いよく放って武器にするっていうのが定番なんだろうけど、やっぱ基本は水分補給用だよね。ステータス画面の魔法の欄のあれこれって書いてあるところをタッチしたら色んな魔法が表示されたから結構多くの魔法が使えるって事だよな?以外と神って太っ腹なのか?まぁ、とにかく助かったわ。そういえばこの世界の人達ってどんな暑さ対策してんだろ?クーラーも扇風機も冷感汗拭きシートも無いだろうに。打ち水?プール?海水浴?どれもイメージが沸かないな。後は冷たい物食べるくらいか、それだったらありそう。あーこんな事考えてたらアイスが食べたくなっちゃった!とはいえここはそんなのがあるか分からない異世界。今はこのキンキンに冷えた水で我慢しよ。あとは氷魔法とかもあったりするのかなぁ?おや、これって・・・

 その時だった。街道の向こうからカラカラと音が聴こえてきた。後は馬の鳴き声?ということは馬車だ!こっちに来る前にロードバイク収納してと。音が近づくうちに段々とその姿が見えてくる。馬車は一台、乗る場所が部屋のようではなく、オープンカーのような屋根のない荷台だった。馬車に中年くらいの男女が二人乗っていた。男は僕に気づくと手綱を引き馬を止めて馬車を降りて近づいてきた。

 「おまえさん、大丈夫かい?なんだか元気が無いようだけど?」

 白髪で褐色の肌をしたおじさんが話しかけてきた。随分と彫りの深い顔をしている。軽装だけど、背中に剣を携えている。冒険者かな。

 「あぁ、ツマオリまで行くつもりだったんですがこの暑さにやられてしまって。なので休憩していたんです。」

 「え、もしや歩きで?そりゃ無茶だよ。ここからツマオリに行くためには長い長い登り坂を越える必要がある。坂自体はそこまで急じゃないが、馬車無しってなると相当きついぞ?」

 「そうですか。でも僕はここを超えなきゃいけないんです。目的のために。」

 「うーむ、そうか。お前水魔法か氷魔法使えたりするか?。」

 「・・・えーっと、水魔法なら使えます。とは言っても初級ですけど。」

 おじさんはしばらくうーんと唸り顔しかめながら考え込んでいた。

 「よし!乗ってけ。ちょうど水魔法を使えるやつが必要だったんだ。おーいこの兄ちゃん乗っけていくぞ。」

 おじさんは同じ荷台に乗っていた女の人にそう告げて僕を乗せてくれることになった。おじさんは引き続き馬車の運転、荷台に乗っていたおばさんと僕は向かい合わせの席に座った。

 「自己紹介が遅れたね。私はグレン。剣士をしている。冒険者ランクはB、そこにいるのは仲間のフローアで魔法使いだ。ランクはC」

 フローアと呼ばれた結った銀髪に白肌のメガネをかけ紫色のローブを着たおばさんがぺこりとお辞儀をしたので僕もお辞儀する。

 「タツリです。冒険者です。」

 「ほう、おまえも冒険者なのか?」

 「はい、今日なったばかりですけど。」

 「新米冒険者か。てことは私達の後輩ってわけだ、はっはっは!分からないことがあったら何でも聞いてくれ。」

 「はい。あ、じゃあ早速良いですか?」

 「おう、どうした?」

 「グレンさんは雷神って知ってますか?」

 「雷神?あの龍のことか?」

 「はい、もしかして見たことが?」

 「いや、いやいや私は見た事がない。フローアお前はあるか?」

 「いや、あたしも無い。古い文献に雪国に住まう民を困らせたと記述があることしか分からない。」

 「・・・・そうですか。」

 「お役に立てなくてすまない。なんでも聞いてくれと言ったのはこちらなのに。」

 「いえ、良いんです。これから少しずつ地道に情報を集めて続けていきます。その方が財宝も雷神にあった時の達成感も強く感じられますし。馬車に乗せて頂けるだけでなく、情報を提供してもらえるのはありがたいですよ。」

 「そうか!そう言ってもらえるなら良かった。ハッハッハ!」

 「ところでお二人はツマオリには何をしに?」

 「あぁ、そうだったそうだった。それを話そうと思ってたんだよ。私たちはギルドの依頼でツマオリ周辺の調査を頼まれたんだ。」

 「調査ですか?」

 「あぁ、なんでもツマオリの山間部は焼けるような暑さで入った奴が度々倒れ死人まで出たんだとか。それまでは何とも無かったのに今は誰も立ち入らないって話だ。それで何が起こっているのかを調査しに行くわけよ。」

 「それほど暑いってことは炎系の魔物でも周辺をさまよっているんでしょうか?」

 「いいや、どうやらそういう訳ではないらしい。ギルドの報告だとその周辺で暑さが原因で死人が出たのは確認できたが、魔物に襲われて死んだ奴はいないんだとか。まだ憶測に過ぎないが今のところギルド側は魔物の関連性はないと結論付けている。」

 「なるほど。あ!もしかして僕に水魔法が使えるの聞いたのって・・・」

 「そう、今回の依頼に協力して欲しいからだ。タツリはたしか初級の魔法なら使えるんだよな?なら援助を頼む。魔力の続く限り俺たちに水魔法をぶつけて体温が上がらない様にしてほしい。」

 「・・・それは構いませんが、それよりも水魔法でこまめに水分補給して体にできるだけ多く水分を含ませた方が良くないですか?」

 そう言うとグレンさんとフローアさんは驚いた表情を見せた。

 「おいおい、水魔法で水分補給は危ないぞ?」

 「え、ダメなんですか?もしかして水魔法で生成される水って飲むのに適していないとか?」

 「そういうわけではなくてな。飛んで来る水の玉をダイレクトに口でキャッチするのでは効率が悪いだろ?」

 「飛んで来る水の玉?」

 「タツリが使える水の初級魔法は水の玉を飛ばすウォーターボールだろ?」

 「うーんと、多分違うと思いますが。ちょうどここにコップがあるので見てください。」

 僕はアイテムボックスからコップを取り出すと、もう片方の手をコップの上に掲げ、さっき使った水魔法を見せる事にした。手のひらからチョロチョロと出て来る水をコップ一杯に注ぎ込むと二人はまた驚いた表情を見せていた。この魔法がそんなに珍しいのだろうか?

 「これが僕の使える魔法ですが?」

 「な、なんだその魔法は?フローア知ってるか?」

 「いや、私の知る限りこんな水魔法は見たことがない。

 それに貴方魔法の調節をして出て来る水を止めたでしょ?」 

 「えぇ、そうですけど?」

 「あのねそもそも初級で覚える水魔法はウォーターボールで、この魔法ではないの。しかも魔法は詠唱が必要で、詠唱することによって放たれる魔法は威力と放たれる魔法の質量が種類によってあらかじめ決まってるの。つまりあなたがやったように無詠唱かつ自分の好きなように魔法を止めることは普通は出来ないの。」

 「え、そうなんですか?」

 「とはいえ攻撃力にはならなそうだから、グレンに言われた通りあたし達の援助をお願い。」

 「分かりました。ではまずは一杯飲んでみませんか?」

 「えぇそうね、せっかく淹れてくれたんだし。」

 フローアさんはコップを受け取ると水を飲み干したかと思うとまた何か言いたげな顔をしていた。

 「今度はどうかしました?」

 「・・・どうしてこんなに水が冷たいの?」

 「あれ、ぬるい方がお好きでした?」

 「そうじゃなくて、これほど冷たく喉越しの良い水を魔法で出せることに驚いてるの。」

 「普通はこんなに冷えていないと?」

 「えぇ、基本的な水魔法はぬるいってほどじゃないけどこの水と飲み比べるとぬるく感じる。」

 「そんなに冷たいのか!タツリ、私にも一杯くれ!」

 グレンさんがお願いして来たのでもう一杯、今度は波々までコップに注ぎ入れた。グレンさんはすぐさま飲みほし、たっはぁぁぁ〜と大きな溜め息を吐き満足そうな顔をしていた。

 「こんな水は初めて飲んだなぁ!依頼達成終わりに飲む酒を飲んだ時いやそれ以上の満足感だ!」

 水を飲み干したグレンさんをよそにフローアさんがじっと僕を見てきた。

 「まさかとは思うけど同時に氷魔法を使ってたりしないよね?」

 「いえいえ!さすがにそんなことはしていないですよ。」

 僕は両手を小刻みに振って強く否定する。

 「なんでも良い、とにかくこの水は最高だ!まるで飲むために生成されたような調度良い冷たさだ。」

 グレンさんがそのようにこの水を絶賛してくれたので、僕は少し考えた。ステータス画面には水源魔法と書いてあったけど、改名したら愛着が湧くかも。飲んだ人に満足感を与えるかつ出力調整可能な恵みの水。水を提供するから・・・ウォーターサーバーだと機械になっちゃうから、給水魔法(ウォーターサーブ)ってのはどうだろうか?うん、良い!無詠唱でも出来るけど、詠唱するときのイメージがしっくりくる。よし!これからこの魔法の名前は給水魔法(ウォーターサーブ)だ。

 ★タツリは給水魔法(ウォーターサーブ)を習得した!★(自分の心の声)

 「この魔法は今日からウォーターサーブと呼ぶことにします。」

 「良いじゃあねぇか!今から向かう依頼でその魔法を思う存分発揮してくれよ!」

 「はい!」

 しかし、蒸し暑いとか、むせかえるような暑さじゃなくて焼けるような暑さか。ツマオリは火山地帯なのか?いやいや、ギルドからの話だと何事も無かったらしいじゃないか。事の真相は分からないけど、原因が魔物であろうが自然現象であろうが、暑さで人が死んでるんだ。登れば登るほど、なんだか気温が上がってるような気がする。

 ツマオリを目指してどんどん進んでいく馬車。今更だが本当に楽で「この山を越えねば!」という使命感よりも「良い眺めだなぁ」と観光感が湧く。並木のある山道はコンクリートではなく少しゴツゴツした土と岩の合わさった地面。時々ガタッと揺れるものの行手を阻むような小石や岩や枝が落ちていることはなく、定期的に整備されている道なのだろうと思った。そんなことを考えていると馬車が突然止まった。僕はグレンさんに話し掛ける。

 「あれ、もしかしてもう目的地に着いたんですか?」

 「いや、もう少し先だがここからは歩きで行く。この馬車はギルドから用意してもらったものだからな。もしものことがあってダメにするわけにはいかないんだ。それに馬を暑いところに連れて行くわけには行かないからな。」

 「そうですね、この子を巻き込むわけにはいきませんよね。」

 そこから僕らは馬を止めて目的地まで向かうことにした。グレンさんとフローアさん、二人の後に着いて行くように歩いて数十分くらい経った頃だろうか、二人の歩くスピードが明らかに遅くなっている。それと同時に息がなんだか荒くなっている。それは疲れが出始めているというよりかは別の理由があるかのようだ。

 「二人ともどうしたんですか?」

 「どうも、こうもない!なんなんだ!?この暑さは!本当に焼けるようだ!」

 「丸焼きで調理される魔物の気分がなんだか分かる気がする。・・・これは余裕で死ぬ。」

 僕の予想通りここから先は本当に暑いようだ。ふと周りを見るとどこまでも草木は枯れていて、地面にはひびが入っている。これは干上がっているのか?元いた世界では土地開発やらなんやらが原因で砂漠化が起きこのような環境になったという事例があるが、ここも同じなんだろうか?だとしてもここら一帯だけ暑くて干上がっているのは不自然だ。

 「この山ってもしかして雨が降らないんですか?」

 「雨は降るはずだ。この山から流れている川であるバーセ川はちょうどここの山間部辺りで定期的に降る大量の雨水が流れてるはずなんだ。しかし、見たところ完全に降ってないようだな。」

 グレンさんと同じ方を見る、するとそこに道のように並んだたくさんの小石があり真ん中の辺りが深くなっていた。恐らくあの辺に川が流れていたのだろう。それからしばらく進むと、フローアさんが足を止めた。上を見上げていたので、何かを見つけたようだ。

 「二人共、多分元凶はあれだと思う。」

 「え?」

 「何?」

 彼女の指差した方を見ると、そり立つ大きな岩の壁があり真ん中に細長い隙間がある。その奥には漆黒と言うにふさわしい黒い片刃の短剣が選ばれし勇者にしか抜けない伝説の武器のごとく突き刺さっていた。

 「あれが?見たところただの剣のようだが?」

 「間違いない、あの剣に強力な火炎魔法の力を感じる。つまりこの焼けるような暑さはあの剣が出している。」

 「・・・マジかよ。」

 なんとこの暑さの原因は魔物でもなければ、自然現象でもないあの剣だったのだ。原因が分かればあとは対処するだけ。しかし・・・

 「それでフローア、あれは一体どうすれば止められるんだ?あれ自体が熱を放っているんだったら、近づくほど暑さは増すし、近づけたとしても持てないだろ。熱々の料理が入った器をミトンで持ったりすることはあるが、あれはその方法ではなんとかならないぞ?」

 「そうね、だけど方法が無いわけじゃない。」

 「何か方法があるのか?」

「見たところ、あれは魔力を込めると火炎魔法が発動するように作られた剣。熱を放っているのはまだその魔力があの剣に残っているから。魔力の残量がゼロになればあれはもう熱を放つことはない。」

 「じゃあ放っておけばいいのか?」

 「それでも止まるけど、今回は依頼でここに来たんだから。今すぐに対処しないと報酬がもらえないよ。」

 「おぉ、そうだった。じゃあどういう作戦で行く?」

 「私があの剣を氷魔法で剣を十分に冷やす。そして近づき魔力を吸収して術式の発動を止める。今回は魔物の討伐じゃないからグレンは私が暑さで倒れた時の救助をお願い。タツリくんは・・・パーティ全員の水分補給係を任せる。」

 「あぁ分かりました。」

 「き、気を付けろよ。」

 「うん。」

 フローアさんは木の枝のような長さの細い杖を構え剣の方向に向かって杖を突き出した。

 「リフジレーション。」

 フローアさんが詠唱したその瞬間、フローアさんの周りに魔法陣が出現し辺り一面が冷気に包まれたと思ったが今度は白い蒸気が発生し周りが見えなくなった。

 「なんだ?何が起きた?」

 「ごめん、失敗した。氷漬けにするつもりだったのに圧倒的な熱量で逆に気化されてしまったみたい。今度はもっと魔力多めでいく。リフジレーション。」

 それからフローアさんの剣を冷やす格闘が始まった。彼女何度も何度も呪文を唱え短剣を冷そうとしたが、魔法によって生み出される冷気はことごとく気化し蒸気は僕たちを包み徐々にフローアさんの体温を上らせ、ついに彼女は倒れ込んでしまった。それに気付いたグレンさんは急いで駆けつけてフローアさんを両手で抱え剣から遠ざけた。

 「フローア!大丈夫か!タツリ、フローアの水分補給を頼む!急いでくれ。」

 「は、はい!」

 僕は急いで給水魔法(ウォーターサーブ)を使いコップに波々に水を入れグレンさんにわたした。グレンさんは片腕でフローアさんを抱えながら彼女に水を飲ませる。しばらくするとフローアさんは意識を取り戻した。

 「ありがとう、助かった。まさかあそこまで熱いとは思わなかった。あたしの魔法じゃ全く歯が立たない。今回の依頼は断念した方が良さそうかも。」

 「そうか、冷やせないんじゃあの剣はどうにもならないな。今回ばかりは諦めるしか・・・」

 なんてことだ。あの剣は魔法で冷やすことが出来ないのか?しかも二人とも諦めモードに入ってる。これでは目的地のツマオリに行くことが出来ないし、また犠牲者が増えてしまう。でもあの剣の魔法を止められるのはフローアさんだけ。グレンさんも僕だってあの剣の魔力を吸収する術はない。あの圧倒的な熱量に負けない為にはそれすら上回る氷魔法を使わないといけないかつ凍った状態を維持して剣に触れる必要がある。ん?凍った状態を維持?冷えた状態を保つ・・・・ならあの魔法使えるかもしれない。でもその前に確認だ。

 「フローアさん。」

 「ん?どうしたのタツリくん。」

 「もう魔力は使い切ってしまいましたか?」

 「いや、魔力はあと半分くらい残ってる。」

 「フローアさん、その残った魔力を全部使うつもりでさっきの魔法をもう一度使ってください。」

 「残りの魔力を全部?」

 「待て待てタツリ、それじゃフローアが完全に倒れちゃうだろ。お前だって見たはずだ、フローアの魔法があの剣に全然通用しないところを。残りの魔力使っても意味ないぞ?」

 「僕も魔法を使います。それであの剣を冷やすんです。」

 「あの魔法ってまさか給水魔法(ウォーターサーブ)か?」

 「それとは別の魔法です。これは支援魔法みたいなものなのでフローアさんの魔法を手助けする形になります。」

 「一体どんな魔法なの?」

 「申し訳ないけど、説明出来る余裕はありません。説明していたら全員干上がってしまいます。」

 「だが、もしうまくいかなかったら・・」

 「グレン、タツリくんを信じてみましょう。」

 「フローア、いいのか?」

 「確かに彼は会ったばかりだけど、見たこともない魔法をあたしたちに見せてくれた。普段は直感なんて当てにしないけど、なんかこの子なら奇跡を起こしてくれそうな気がする。だから信じる。だからグレン、もし失敗してもタツリくんは責めないこと。あたしからタツリくんの案に賛成したんだから。」

 「ハァ、分かったよ。失敗してもタツリは責めない、約束する。」

 「ありがとう、グレン。」

 「よし、それじゃタツリ・・・」 

 「はい。」

 「失敗してもお前を責めたりはしないが、やるからには成功させろよ。」

 「えぇ、勿論です!」

 フローアさんはふたたび立ち上がり杖を構え僕の合図を待った。

 「じゃあいくよ。これから残りの魔力全部使うから、あなたも全力でフォローお願い。」

 「はい、準備はオッケーです。」

 フローアさんは深く深呼吸をすると凄い剣幕で呪文を唱えた。

 「リフジレーションマキシマム!」

 今だ!魔法陣から出ている冷気に僕の魔法をかける。これで上手く行くと良いが。どうだ?

 「なにこれ、どういうこと?魔法が気化しない?これタツリくんの魔法のおかげなの?」

 良かった、どうやら上手くいったようだ。

 「えぇ、そうですよ。この魔法を使えば冷気が気化することはありません。」

 そしたら剣にも冷気が当たる度にこの魔法を重ねがけしていく。そうすれば・・・

 「おぉ、すごいぞ2人とも!短剣がみるみるうちに凍っていく。これならいけるぞ!」

 「よし、これだけ凍れば剣に触れられる。タツリくん!引き続きその魔法を使い続けて!」

 「はい!」

 僕はまた熱で溶けないように魔法を剣に集中させた。その隙にフローアさんは剣に触れた。

 「ドレイン!」

 フローアさんの手のひらから紫色の光が出て剣はその光に包まれた。あれが魔力を吸収しているのだろう。しばらくすると光は消えフローアさんは息をつき安堵しているようだった。ということは・・・・

 「作戦成功だよ。ありがとうタツリくん。」

 フローアさんは感謝と喜びに満ちた顔でそう言った。

 「二人とも、もしかして上手くいったのか?」

 グレンさんが急いで僕達のもとに駆けつけてくる。

 「えぇ、これでもうこの山が暑さに脅かされることはないでしょう。ひとまず依頼は達成した。」

 「う、うぉぉぉぉぉ!やったなぁ!でかしたタツリ!」

 グレンさんは喜びのあまりハイテンションになって僕の肩を思いっきり叩いた。ちょっと痛かった。

 「それにしてもタツリくん、あの魔法は一体何だったの?あの焼けるような熱さを抑えるなんてどれだけ強力な氷魔法を使ったの?」

 「あぁ、あれは氷魔法じゃあありません。」

 「氷魔法じゃない?」

 「あれは冷たい状態を保持させる魔法、名付けるならば保冷魔法(コールドストレージ)です。」

 「コールドストレージ?」

 「この魔法の効果は、かけた対象の温度が一定時間変わらないというものです。さっき僕はフローアさんの放った冷気にこの魔法をかけて熱で溶けないようにしました。それと同時に剣にもこの魔法を冷気を浴びるたびに重ねがけを何度も行い、徐々に剣の温度を確実に下げることが出来たんです。だから剣を凍らせることが出来たんです。」

 そう!これこそさっきグレンさん達に話しかけられる前にステータス画面で見つけた魔法。氷魔法は書いてなかったから使えないけど、これは使える!さっきこの山に入る前に自分にかけて置いて良かった。お陰で暑さに頭をやられる事なく冷静に対処が出来た。今後とも使っていこう。

 「なるほど、そういうことだったの。やっぱり君はまたとんでもない奇跡を見せてくれたね。でもそんなに何度も使って大丈夫?君は冒険者始めたばっかりなんでしょ?」

 「大丈夫ですよ、まだ魔力は10分の1にも満たないくらいしか使ってないのでへっちゃらです。」

 「ちなみにあとどれくらい残ってるの?」

 「えーっと、600くらいですね。」

 「え、それ本気で言ってる?」

 「・・・はい。」

 「一応聞いとく、最大値はどれくらいなの?」

 「650ですね。」

 その返事を聞いたフローアさんは突然落ち込んだように膝をついた。

 「負けた。魔力量で負けた。アタシは最大でも135くらいなのに。」

 「えぇ!そうなんですか?」

 まだ僕は冒険者はアーデーさんとグレンさんフローアーさんとしかまともに話した事しかないけど、僕って魔力量多い方なのか?多いのかもしれないな。cランク冒険者であるフローアさんより多いのだから確信はないけど多いんだろうな。(僕は上から順のS A B C D E Fの中の最低ランクのF)

 「まぁまぁそう落ち込むなってフローア。ポテンシャルは人それぞれだ、俺たちより若い冒険者が活躍してるなんてよくあることだろ。」

 「まぁ、それはそうね。強くなりたいなら修行あるのみだよね。」

 「そうとも!じゃあ早速お目当ての短剣を回収しちゃいますか!」

 それから僕たちはツマオリ近くのギルドに今回の件を報告しに行った。報告やら報酬の手続きやらで気づけばもう夕方。僕たちはツマオリで名物と呼ばれる鶏の唐揚げのようなものとキンキンに冷えた給水魔法(ウォーターサーブ)の水をたらふく腹に入れた。これが山を登った疲れと火照った体に沁みるんだぁ!

 翌朝、ギルドから呼び出しがあった。一体何があったのかと思い行くと、なんと依頼を達成した特典として回収した短剣を譲ってくれるとの事だった。いや正確に言えば短剣を譲ってくれたというよりかは押し付けられた。なんでもこの短剣は周りの魔力を吸収する性質を持っており、ほんの少し魔力を込めただけでも熱くなってしまうらしくそれは刀身のみならず持つ所まで熱くなってしまうのでギルド側は扱いに困っていたらしい。だからこうして僕たちに特典という形で押し付けてきたということだ。当然グレンさんもフローアさんもその提案を受け入れることはできなかった。魔力を込めて熱くなる剣はロマンがあるが、持つところまで熱くなっては扱いようが無い。剣の処遇をめぐってどちらも引き下がらない様子だったので、僕がもらうことにした。だって自分に保冷魔法(コールドストレージ)かければ熱くないもん。ギルド側も二人もこれには涙を流すくらいに感謝してくれた。

 そして僕はツマオリをそろそろ旅立つことにした。

 「もう行ってしまうのかタツリ?」

 「えぇ、各地を転々としてみたいんで。」

 「そうか。あ、そうだタツリ。お前にはこれをやろう!」

 グレンさんは背負っていた荷物から袋を出すと、中から紫色の液体の入ったコルクで栓をされた丸い形のガラス瓶のようなものを取りだした。

 「これは?」

 「これは弱い闇魔法を付与したポーションだよ。コイツを飲めば全身に物を引き寄せる闇魔法の効果が付与され、体全体で吸収した水分が体から出てくる汗の代わりに体を冷やしてくれるのさ。より暑さ対策の効果が期待できる。沢山あるから持ってけ。」

 「ありがとうございます。」

 これはもしかして元いた世界のスポーツドリンク的な奴かな?スポーツドリンクが体内から水分の吸収の効率を上げるのに対し、これは体外から水分の吸収を行うのか。この世界の暑さ対策も僕のいた世界とは違う方面で結構進んでいるみたいだ。

 「ただこれは魔力の調整が上手く出来ないと水分以外のモノも引き寄せてしまうんだ。俺が飲んだときは魔物の戦闘中でな、フローアが敵に放った直径20cmくらいのストーンバレットが俺のスネに直撃して悶絶したよ。そのあとフローアに魔力の制御も出来ないのに飲むなとキツく言われたよ。」

 「それじゃあ僕も飲んで大丈夫なんですか?それをつかったグレンさんの二の舞を踏むことになるんじゃ。」

 「たしかに最初は使い勝手が悪いかもな。だがお前は私と違って魔法が使える。これは水分吸収率を高めると同時に上手く魔力を制御する練習にも使える。おまえはこれからも色んな魔法を覚えていくはずだ。なら早い内に魔力制御を鍛えておけば、魔法の習得する速さも上がると思うぞ?タツリの場合は持っておいて損はない。」

 そういえば元職場の上司が僕が二十歳になった時、酒は早い内に鍛えておいた方が酒に強くなるんだぞ、とか言ってたなぁあれと同じ理屈だろうか。・・・いや違うか。

 「じゃあこれは魔力制御の練習に積極的に使いたいと思います。」

 「おう。それに高度な魔法を若いうちから使えるようになってれば秀才、奇才、天才と周りから特に女からもてはやすされるかもだぞ?」

 グレンさんがニヤニヤしながら言う。するとグレンさんの後ろにいたフローアさんが分厚い魔導書のようなもので彼の頭を引っ叩いた。

 「変なこと教えない。」

 「ぐっ・・イッタイな〜、冗談だよ。」

 「タツリくん、女の子にもてはやされるかどうかはともかくグレンの言ってた通り魔力の制御は魔法を使える者にとっては必須だよ。君はあたしより魔力量が多くて練習し放題なんだから、伸び代はすごくある。だから頑張って。」

 フローアさんはグレンさんの頭に本を乗せたままにっこり笑った顔でそう告げた。

 「それに魔力の制御がある程度出来るようになると魔力の感知によって他人の気配を察知出来るからね。タツリくんの探してる雷神も見つけやすくなるかも。」

 「アドバイスありがとうございます。ではおふたりともまたどこかで!」

 「おう、またなタツリ!」

 「タツリくん、道中気を付けて。」

 旅の道中出会った人と触れ合い、ともに戦い、最後は互いに手を振って別れる。これぞ一人旅の定番にして醍醐味である。そうだよ、僕はこんな旅がしたいんだ。これからどんな出会いがあるのやら。

 そういえば喉が渇いたな、給水魔法(ウォーターサーブ)を使ってもいいけど魔力の節約したいしな、さっきもらったポーション飲もうっと。魔力制御の練習したいし。

 そして数分後、魔力の制御に失敗した僕は周りの砂を水分と同時に全身に浴びてしまい泥だらけになってしまった。

 「ま、まぁゾウだってこうやって暑さを凌ぐし別に良いかなぁ。」

 このあと給水魔法(ウォーターサーブ)で全身を洗った。暑い日でもキンキンに冷えた水は地獄だった。


 


 


 


 

 


 

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