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The Sword That Hates Me (But Is Better Than Me)  作者: 神谷嶺心
第1章 カエルとタロン──予言か、呪いか?
6/22

第5話 ─ 世界は微笑んだ、でも俺たちにはじゃない

「この世界にはユーモアがある。残念ながら、俺たちがそのオチだ。」



カエルの耳に飛び込んできたのは、まるで殴打のような酒場の喧騒だった。いや、もしかすると、かつては秩序があったのかもしれないが、今はただの混沌だ。笑い声、口論、音痴な吟遊詩人が自分のリュートに殴られている音、そして二つのテーブルでは「これはビールか、それとも下水か」で真剣な議論が交わされていた。


その中心に、彼女がいた。


年老いた鱗はくすみ、時間よりも人生と戦ってきたような顔。サルガ。歪んだゴルゴンで、燃えかけの丸太のような葉巻をくわえていた。


カエルが扉をくぐったその瞬間、彼女は一杯のジョッキを、テーブルでいびきをかいていたドワーフの頭にぶちまけた。


「起きろ、貧乏神! ここは酒場であって、死体安置所じゃねぇ!」 そう怒鳴ると、彼の輝くハゲ頭に乾いた一発をお見舞いした。


彼女はカウンターに戻り、カエルの姿を見るなり鼻から煙を吐き、葉巻を口の端に押し込んだ。


「おやおや……ゴホッ、ゴホッ……街一番の貧乏ガリが来たじゃないか。今日は慈善活動かい? それとも……ゴホッ……噂話でも持ってきたのかい?」 そのしゃがれた声は、鈍った刃よりも鋭かった。


返事も待たず、彼女は奥へと引っ込んだ。


「その骨みたいな尻を椅子に乗せな、ゴホッ……今、喉に流し込むもん持ってくるよ。」


カエルは抗議する気力もなく、比較的マシな椅子に体を沈めた。


「これは痛むぞ、サーロン……」


「痛まなかったら、それこそ驚きだな。」 鞘の中から、剣が苦々しくつぶやいた。

サルガは二分もかからず戻ってきた。手にしていたのは、まるで悪夢から出てきたような料理の皿。それをテーブルにドンと置いた。


「ジャイアントサラマンダーのソーセージ……ゴホッ……バジリスクの卵……茹で加減は完璧さ。」 深く一吸いして、全身の毛穴から煙を噴き出す。 「死んでも知らないよ。厨房に保証なんてないからね。」


カエルは皿を見つめた。


沈黙。


「……これ……こっち見てないか?」


「見てるなら新鮮ってことさ。逃げ出す前に食いな。」 そう言って、彼女は胸を叩きながら咳き込んだ。


サーロンが鞘の中から毒を吐くように響いた。


「それ、多分お前より動くぞ。」


カエルはソーセージを一切れ取り、深呼吸してかぶりついた。 カリッとした食感、ジューシーで、見た目よりはるかにマシな味。鼻が通るほどスパイシーで……それ以上は考えないことにした。


「……悪くない……」 思わず漏れた言葉に、自分でも驚いた。


「文句言ったら、次は唾入りだよ。」 そう言って、彼女はまた一服。二度の咳で締めくくった。 「食え、坊や。それ、アンデッドでも腹持ちするよ。」


皿が半分ほど空になった頃、彼女はカウンターに腕を乗せ、煙を吹きながら言った。


「で……ゴホッ……今度は何だい? 人生に顔面蹴られた? また崖から転げ落ちた? それとも、ただあたしの時間を無駄にしに来たのかい?」


カエルはフォークを置き、首の後ろをかきながら深く息を吐いた。

「金がない。」


「だろうね……ゴホッゴホッ……てっきりビールでも奢ってくれるのかと思ったよ。続けな。」


彼女は舌打ちしながら葉巻をくわえ直した。


「忍者に食い物を盗まれた。で……寝る場所は、厩しか残ってなかった。」


サーロンが乾いた声で響いた。


「あと、キノコも忘れるな。」


「クソキノコめ……」 カエルは額を叩きながらうめいた。


サルガは爆笑したが、すぐに激しい咳き込みに変わり、葉巻が口から落ちそうになった。


「ゴホッ! ゴホゴホ……忍者ぁ? ははっ……ゴホッ……そいつは後でじっくり聞かせてもらうよ、ろくでなしども!」


深く息を吸い、煙を吐きながら、彼女はカエルの腰にぶら下がっている巻物を指差した。


「で、そのふざけた依頼……ゴホッ……場所はもう分かってんのかい?」


カエルは肩をすくめた。


「村だってことしか。」


サルガは片眉を上げ、葉巻を整えながら、まるで朝飯前に世界が二度終わるのを見たような目で見つめてきた。


「ハルンさ。あの丘の向こうの外れにある、うちの台所より臭いとこ……ゴホッ……あの辺りだよ。」 「農夫を知ってる。いい奴さ……ちょっと耳が遠くてな……魂まで玉ねぎ臭いけど。」


彼女は指を突き出した。葉巻で黄ばんだ爪がかすかに震えていた。


「こうしな……ゴホッ……あたしの紹介って言っときな。で……ゴホゴホ……泣き玉ねぎも持ってきな。ちょっとは金出すよ。」 「気をつけな。泣き玉ねぎは、魂がない奴でもしゃくり上げるからね。」


カエルはうなずき、その非公式な契約を受け入れた。


「了解。」


しばらくそのまま、くだらない話をしながら時間が過ぎた。 サルガはサーロンのことを「おしゃべりブレード」「高級ジャンク」「ドラマ用の串」と呼び、サーロンは「精神的虐待で訴えるぞ」と唸り返した。 もちろん、剣がそんなことを言っても説得力はゼロだった。


皿が空になり、ビールすら毒っぽくなく感じ始めた頃、サルガは二人を見て腕を組み、もう一服――からの乾いた咳。


「お前ら、増水の日のマンホールの蓋より詰んでるね……ゴホッ……上がんな。今日は空き部屋があるよ。部屋って呼べるかは知らんけどね。」 「ベッドはある、天井も……壁は三枚、たぶんしっかりしてる。あとバケツ。」


カエルは深く息を吸い、肩の破れたマントを直しながら、あの歪んだ笑みを浮かべた。 まるで“人生ハードモード継続中”の証明みたいな笑顔。


「ありがとな、サルガ。本当に。」


彼女は手をパタパタと振り、まるで鳩でも追い払うように言った。


「さっさと行きな、後悔する前に……ゴホッ……金持った客が来る前に気が変わるかもしれないし。」


二人は階段を上がった。 その階段は、まるで一段ごとに「もう引退させてくれ」と悲鳴を上げているようだった。


二階の廊下は、心理テストの一環かと思うほど狭く、湿っていて、カビと乾いたゲロと失望の匂いが混ざっていた。


サルガはドアを蹴り開けた。


「ほらよ。ベッド、天井、三枚半の壁。そしてバケツ……ゴホッゴホッ……バケツは忘れるなよ。」


部屋は、まるで刑務所の独房からも却下されたような空間だった。 見るだけで軋むベッド、貴族の約束くらい薄いマットレス、空気を通すより希望を逃がすための小窓。 そして、バケツ。用途は……聞くな。


「寝な。できるならな。死んだら、自分で片付けとけ。あたしは死体のメイドじゃないよ。ゴホッゴホッ……」


そう言って、ドアを閉めた。


カエルは荷物を隅に置き、ベッドに腰を下ろした。 ギシッと音がして、今にも崩れそうだった。


「……もっと酷いとこで寝たことある。」 そう言ったが、完全に嘘だった。


「俺はない。」 サーロンが苦々しく返す。 「俺は剣だ。」


沈黙。 そして――今日初めての、静けさ。


目覚めは、まるで昏睡状態から現実の角に頭をぶつけて戻ってきたような感覚だった。


カエルは目を開け、一瞬、自分が死んだと思った。 だがすぐに気づいた。もし死んでいたら、こんなに体中が痛むはずがない。存在すら忘れていた部位まで痛い。


「……路地裏でボコられた気分だ……」 背中を押さえながらつぶやいた。


サーロンが、焦げたコーヒーよりも苦い声で響いた。


「これはベッドじゃない。シーツ付きの罠だ。」


カエルは崩れそうな天井を見上げ、重いため息をついた。


「……それでも厩よりマシ……たぶん。」


数分かけて、「ここにいても何も変わらない」と自分に言い聞かせ、二人は階段を下りた。 その階段は、きしみ、うめき、明らかに助けを求めていた。


一階に足を踏み入れると、サルガがカウンターの奥でグラスを拭いていた。 その布は、正直グラスより汚れているように見えた。


カエルの姿を見て、彼女は舌打ちし、葉巻を口の端に押し込んだ。


「起きたかい? 奇跡だね……ゴホゴホ……死体から家賃取る羽目になるかと思ったよ。」


カエルは気まずそうに服の埃を払いながら、姿勢を正した。


「ベッドも、飯も……本当にありがとう、サルガ。助かったよ。」


彼女は――それを“笑顔”と呼べるなら――笑った。


「……ゴホッ……慣れるんじゃないよ、ガリガリ。慈善ってのは痒くなるんだ。」 煙を吸い込みながら、サーロンに目を細めた。 「で、お前……歩く鉄くず……まだ無事かい? 夢の中で溶かしたと思ったけど。」


「残念ながら、無事だ。」 サーロンが苦々しく返す。 「ご心配どうも。優しいね。」

「優しいのはお前のばあちゃんだよ、イキった剣が。鉄でも梳かしてな。ゴホッゴホッ……」


彼女は咳き込みながら、葉巻を落としそうになった。


カエルはそれ以上言わず、軽く手を振った。


「行くぞ、サーロン。仕事がある。」


酒場の扉を開けた瞬間――ぷちっ。


一滴。 もう一滴。 そして――全部。


雨だった。 あのタイプのやつ。 重くて、冷たくて、横からも下からも、もはや異世界からも降ってくるようなやつ。 魂まで濡らすレベルの雨。


カエルはマントを引き寄せ、無意味な防御を試みた。


「……完璧だな。宇宙は俺たちを嫌ってる。確定だ。」


サーロンがチリンと鳴り、皮肉たっぷりに言った。


「せめて、お前の尊厳くらいは洗い流してくれるだろう。」


二人は肩をすぼめながら歩き出した。 すでに通りは即席の川と化していた。


酒場の裏路地を抜け、中央広場へ向かう。 そして――そこで出会った。

ゴブリン。


背が低く、斜視で……しかも片目。 片方の目には分厚いレンズ、もう片方は革のアイパッチで覆われていた。 白衣を着ていたが、びしょ濡れ。 手には炭で書かれた雑な看板を持っていた。


『ガードスライム――雨の日の革新!』


その横には、透明なタンクのようなものがあり、 中には緑がかったスライムがぷるぷる震えながら、 頭に小さな傘をくっつけていた。


「紳士の皆様! 淑女の皆様! そして……しゃべる魔法の物体の皆様!」 ゴブリンは両手を振りながら叫んだ。 「ご覧あれ! プロトタイプ……ゴホッゴホッ……いや、限定版だ!」


カエルは目を細め、疑いの視線を向けた。


「……それって……傘じゃないのか?」


「違うッ!」 ゴブリンは憤慨したように叫んだ。 「これはガードスライムだ! 雨を防ぎ、風をはじき、夜は光り、孤独を癒し、そして……運が良ければ……肩も揉んでくれるかもしれない!」


サーロンがギシッと鳴り、不信感たっぷりに言った。


「魂を盗まれそうな気しかしないが。」


カエルは腕を組んだ。


「いや……アイデアは悪くない。でも、金がないんだ。」


ゴブリンは顎をかきながら、ズレたレンズを光らせた。


「ふむふむ……商売は商売だ! 勝負しよう。」 地面から石を拾い上げる。 「オレがあの通りの向こうの樽に命中させたら……ガードスライム一体をプレゼント。外したら……二体やる。支払いは一体分だけ。どうだ?」


カエルは樽を見た。 ゴブリンの手を見た。 そして、サーロンを見た。


「……詐欺の匂いがするな。」


「するな。」 サーロンも同意した。 「だが、どこまで落ちるか見てみよう。」

ゴブリンは腕をぐるぐる回し、舌を出しながらポーズを決め、集中して――投げた。

――ポチャン。


……外れた。三メートルはズレていた。


ゴブリンは目をしばたたき、アイパッチを直しながら言い訳を始めた。


「技術的なミスだ。気候の変動、魔力の干渉、そういうやつだ。」 そう言いながら、ガードスライムを二体、カエルの手に押し込んだ。


「取引成立! 返品不可!」


「せめて文鎮にはなるな……」 サーロンがぼそっとつぶやいた。


二人がゴブリンとやり取りしている間に、別の客が近づいてきた。 スライムのタンクを覗き込む、好奇心旺盛そうなノームだった。


そのとき――


「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


甲高い声が広場を切り裂いた。


現れたのは――


衛兵隊長だった。


ミノタウロス。 身長二メートル半。 筋骨隆々。 鎧は完璧。 そして……極度の人見知り。 ただし、声だけはパニック状態のカラスのように甲高い。


「お前ぇぇぇぇぇ!!!」 ミノタウロスがゴブリンを指差して叫んだ。 「また無許可販売か!? 何回言わせる気だ!!」


「時間がなぁぁぁぁい!!!」 ゴブリンは叫びながら全てを放り出し、思考より速く走り出した。


ミノタウロスも後を追い、怒鳴りながら駆け出す。


「罰金だ! 逮捕だ! そして……アアアアアア!!」


ゴブリンは最初の路地で姿を消し、ミノタウロスは自分の足に引っかかって転びそうになりながら追いかけていった。


カエルはその場に立ち尽くし、手にはぷるぷる震えるガードスライムが二体。


沈黙。 雨の音だけが響いていた。


「……ああ。今のは現実だったな。」 カエルが呆れたように言った。


「で、お前はまだそれを持ってる。」 サーロンがギシッと鳴った。 「本気で、人生の選択を見直すべきだな。」


二人は再び歩き出した。 北門にたどり着くと、そこには一人の門番がいた。 年老いた人間で、しかめっ面、びしょ濡れのマント、そして機嫌は最悪。


彼はボロボロのシートの下で座っていたが、カエルと――その手のガードスライムを見ると、顔をしかめた。


「それ、顔面で受け止めてんのか?」


カエルはため息をついた。


「……長い話だ。」


門番は鼻で笑い、横に唾を吐き、濡れた髭をかきながら言った。


「先週の火災税だ。」 そう言って、カエルの手からガードスライムを一体奪った。 「今じゃ、これが地域貢献ってやつさ。」


「でも……」 カエルが抗議しかけたが――


「“でも”は禁止だ。払うか、雨の中で出ていくかだ。」 門番は腕を組んで言い放った。


カエルは深く息を吸い、手に残ったガードスライムを見つめ、そしてサーロンを見た。


「……少なくとも、一体は残ったな。」


「どうせ溶ける。」 サーロンが苦々しく言った。 「俺たちもな。」


二人は歩き出した。


門を抜け、雨を背に、街の城壁が遠ざかっていく。 そして、広がる世界――広くて、濡れていて、おそらく問題だらけの世界が、目の前にあった。


「……なあ……」 カエルがぽつりと呟いた。 「……たまに思うんだ。俺、自分の物語の間違った章に生まれたんじゃないかって。」


「お前は下書きに忘れられた存在だろ。」 サーロンが即答した。


それでも、二人は歩き続けた。 他に道はなかったから。


雨がフードを叩く音が、ぬかるんだ道を踏む足音と重なる。 カエルの手には、あのガードスライム――いや、もはやスライムというより、運命に抗うゼリーのようなものが震えていた。


「……なんか、ちっちゃくなってないか?」 カエルが不安げにスライムを見つめながら言った。


サーロンが乾いた音で響いた。


「ちっちゃくなってるんじゃない。溶けてるんだ。あれはガードスライムなんかじゃない。液体の自殺志願者だ。」


スライムは最後の「ブルプッ」と音を立て、雨から守ろうと必死に伸び―― シュルルッ。 石鹸のように溶け始めた。


カエルは両手でそれを抱え、必死に叫んだ。


「やめろ……やめてくれ、頑張れよ!」


「カエル……もうやめろ。あいつはもう逝った。」 サーロンがギシッと鳴った。 「あいつは、すべての役立たずスライムが行く場所へ旅立ったんだ。」


スライムは最後の「ポロッ」という音を残し、カエルの手から滑り落ち、道端に緑色の水たまりとなって消えた。


「……さらばだ、戦士よ。」 カエルはそう呟きながら、ガードスライムの唯一の遺品――木製の傘の骨だけをそっと地面に置いた。


二人は再び歩き出した。 気まずい沈黙が続く。 それを破ったのは、やはりサーロンだった。


「お前……本気であれが役に立つと思ってたんだな。」 「哀れむべきか……刺すべきか、迷うな。」


カエルはため息をつき、道端の石を蹴った。


「でもさ……少なくとも、あいつは頑張ったよ。俺の友達の大半よりは。」

そんな哲学的(?)な会話をしていたその時――


チャポンッ!!


馬に引かれた荷車が、ものすごい勢いで通り過ぎた。 そして――当然のように――泥をぶちまけていった。


カエルはその場で固まった。 顔、服、魂まで……びしょびしょ。 泥まみれ。


サーロンは怒りで震え、金属が自ら軋む音がした。


「俺は……俺は本来……偉大な英雄に携えられるべき存在なんだぞ!? このザマを見ろ!!」


カエルは口から草混じりの泥を吐き出しながら言った。


「人生、クソだな。」


荷車はすでに遠く、振り返ることもなかった。


二人は歩き続けた。 文句を言い合いながら。 サーロンは運命、天気、そしてあらゆる哲学的概念に対して毒を吐き続けた。


そして―― まるで宇宙が少しだけ情けをかけたのか、あるいは単に飽きただけなのか―― 雨が止み始めた。


雲がゆっくりと割れ、青空が顔を出す。 濡れた土の匂いが、草の香りと陽の光に変わっていく。


カエルは前を見つめながら、顔の泥を手で拭った―― が、手も泥だらけだったので、結局もっと汚れた。


「……止んだな。少なくとも。」


サーロンはまだ怒りで震えながら、叫ぶように返した。


「止んだって!? 全部びしょ濡れで臭くなってから止んでも意味ねぇだろ! 最高だな! 完璧だよ!」


そして――その時、前方の地平線に見えてきた。


緑の丘と小さな森の間に、ぽつんと現れたのは――


ハルンの村だった。


小さくて、素朴で、木と石でできた家々。 煙突からは煙が立ち上り、周囲には畑が広がっている。 そして――


太陽。 青空。 雨? 一滴もない。


カエルはまばたきをしながら、信じられない様子でつぶやいた。


「……マジで? 一滴も?」


サーロンは鞘から泥を垂らしながら、毒を吐いた。


「向こうはピクニック中だってのに、こっちは十回の洪水と内戦をくぐり抜けた地下牢から出てきたみたいな有様だぞ。」


道はまだ続いていた。 二人はまだ少し離れていたが、ハルンの村は明らかに――


平和で、乾いていて、陽気で―― そして、近づいてくる災厄二名にまったく気づいていなかった。


カエルは深く息を吸い、マントを整え、顔を拭いた―― いや、拭こうとした。結局、泥を広げただけだった。


「……よし。行こう。全部計画通りって顔して歩けばいい。」


「お前の計画な。俺は聞いてないぞ。」 サーロンがギシッと鳴った。


そして、二人は歩き出した。 それしか、できなかったから。

ここまで読んでくれたあなたに、まずは拍手を。 カエルは酒場を生き延び、情緒不安定なスライムと、商魂たくましいゴブリンと、個人的な恨みを持った雨を乗り越えました。 そしてサーロンは……相変わらず、毒舌セラピスト系の剣です。


ハルンの村が彼らを待っています。 でも、もしそれが「休息」や「平和」や「温かい風呂」を意味するとしたら―― あなたはこの物語をまだ分かっていない。


次回もお楽しみに。 あるいは、次の災難で会いましょう。

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