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The Sword That Hates Me (But Is Better Than Me)  作者: 神谷嶺心
第2章 機能不全の三人組:24時間忍者、盲目のヒーラー、俳句スライム —— 予言か、宇宙の悪ふざけか?
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第23話 — 静寂さえも疲れる場所で

「眠ることは、忘れることじゃない。

ただ、世界にひとりで喋らせておく時間だ。」




時間はもう、暦に従っていなかった。

カエルは、迷ってから三日目なのか十日目なのかも分からなかった。

太陽は、同じ無関心さで昇り、そして沈んだ。

砂は岩になり、岩は塵になった。

そして塵は——そう、塵だけは常にそこにあった。

まるでサロンのように。


「ここで死ぬなら、少なくともお前を知ってる奴の目には入らないな」

サロンは、慰めと毒を混ぜたような声で言った。


カエルは答えなかった。

答える気がなかったわけじゃない——ただ、力が残っていなかった。

喉は乾きすぎて皮肉すら出せない。

そして皮肉は、今や金属の相棒だけのものだった。


彼らは山道を選んだ。

寒くて、険しくて、容赦がなくて——そして、静かだった。


カエルは、自分が本能で歩いているのか、ただの意地なのか分からなかった。

もしかしたら両方。

もしかしたら、どちらでもない。


「お前の歩き方は、地面に諦めろって説得してるみたいだな」

サロンが鞘の中で微かに震えながら言った。


「お前の喋り方は、宇宙に黙れって言ってるみたいだ」

カエルは、かすれた声で、途切れそうになりながら返した。


「宇宙は俺の声なんか聞かない。

でも、お前は聞く。

それだけでも、ある意味勝利だ。」


風は、まるで訪問者を嫌っているかのように肌を切り裂いた。

岩は、見ているように感じられた。

そして空は——ただ、存在していた。

何の約束もなく。


カエルは立ち止まり、周囲を見渡した。

岩と塵と疲労しかなかった。


「ここが終わりか?」


サロンは乾いた金属音で笑った。


「終わりってのは、もう少し個性があるもんだ。

ここはただの、計画ミスな中間地点だ。」


カエルはしゃがみ込んだ。

戦略ではなく、ただの疲労で。


「鍛冶屋になればよかった。

ハンマーは喋らないし、金床は俺を裁かない。」


「でもお前は剣を選んだ。

そして俺は、オマケでついてきた。

おめでとう。」


沈黙。


道は美しくなかった。

清潔でもなかった。

歓迎もしていなかった。

でも、それは“道”だった。

何日も、岩と皮肉しかなかった後では——それだけでも、ほとんど奇跡だった。


カエルは重い足取りで歩いていた。

まるで地面すら信用していないかのように。

サロンは背中で揺れながら、時折微かに震えた——危険ではなく、ただの退屈で。


「この道が奈落に続いてるなら、少なくとも方向はある奈落だな」

カエルは呟いた。返事を期待していなかった。


「方向付きの奈落ってのは、ただのオシャレな愚かさだ」

サロンは即座に返した。


空はゆっくりと色を失っていった。

急ぎではなく、日暮れだけが知っているあの静かな速度で。

光は影になり、影は疑念になった。


カエルは地平線を見つめた。

遠く、青黒と疲労の灰色の間に、何かが見えた。

高く、不規則で、生きているような形。


「森だ…」

声はほとんど出ていなかった。


サロンが金属音を立てた。


「幽霊でも見たような言い方だな。

でも森は幽霊じゃない。幽霊が住んでる場所だ。」


カエルは立ち止まった。

風が彼を通り過ぎる。まるで会話を拒むように。

道は続いていた。

森は待っていた。


「入るのか?」


「進むだけだ。入るかどうかは結果だ。」


カエルは歩みを速めた。

勇気ではなく、選択肢のなさから。


道は歪で、静かだった。

カエルは重い身体で進み、目は沈み、心は崩れていた。

サロンは背中で揺れながら、黙っていた——彼にしては珍しいことだった。


空はもう空ではなかった。

それは世界の上に広げられた暗い布だった。

遠くの森は呼吸しているように見えた。

だが、呼びかけはなかった。

ただ、待っていた。


そして、カエルは立ち止まった。


道の脇に、それはあった。


倒れた壁。

顔から地面に突っ伏していた。

まるで、生きようとして途中で諦めたかのように。


カエルはゆっくりと近づいた。

サロンが興味深げに震えた。


壁には、皺のようなひび割れがあった。

口——そう見えるもの——は半開きだった。

そして、壁は喋った。


「……いたい……」


カエルは反応しなかった。


「……だいじょうぶ……ただ……かんがえてるだけ……」


サロンが微かに震えた。


「新しいな。落ち込んでる壁か。」


カエルはしゃがみ、一瞬だけ見て、何も言わずに立ち上がった。


「……きみたち……旅人?……たすけがいる?……アドバイス?……ジョークも言えるよ……」


サロンが乾いた声で返した。


「哲学病の戦士と喋る剣がいる。ジョークは優先順位に入ってない。」


カエルは歩き続けた。


壁はもう一度、声を絞り出した。


「……ぼく……奇跡だったんだ……だれかが……いのちをくれた……でも……ここに……おいていかれた……」


沈黙。


カエルは振り返らなかった。

サロンも同じだった。


「……まだ……地面を感じるよ……つめたいけど……やさしい……」


何も返ってこなかった。


「……いっちゃうんだね……?」


サロンが、まるで慰めるように呟いた。


「無視するものは多い。

でもお前は特別だ。

俺たちは、スタイルで無視する。」


壁はため息をついた。

——いや、ただ軋んだだけかもしれない。


カエルとサロンは歩き続けた。

道はまだ続いていた。

森が、少しずつ近づいてくる。


壁はその場に残った。

顔を地面に押しつけたまま。

誰にも届かない言葉を、誰にも向けずに。


森は彼らを迎えなかった。

ただ、そこにあった。

高く、暗く、無関心に。


カエルは、許可を求めることなく森へ入った。

サロンは背中で揺れながら、何も言わなかった——彼にしては、ほとんど奇跡だった。


地面は湿っていた。

葉は重く、空気は必要以上に冷たかった。


カエルは倒れた木の幹を見つけた。

腰を下ろし、数秒後には横になった。

快適さのためではない。

選択肢がなかっただけ。


「今寝たら、お前黙るか?」

目を閉じたまま、カエルが呟いた。


サロンは静かに震えた。


「お前の人生より面白い夢を見たらな。」


カエルは答えなかった。

身体はもう言うことを聞かず、心はそれ以上に沈んでいた。


森は音を立てていた。

だが、言葉はなかった。

それが、少しだけ優しく感じられた。


サロンは黙っていた。

敬意ではなく、計算だった。


カエルはゆっくりと呼吸していた。

まるで、自分の胸に“まだ動け”と説得しているかのように。


「もし…目が覚めなかったら…」

そう言いかけて、言葉は途切れた。


それでも、サロンは答えた。


「森は感謝するだろうな。

運ぶ重さが一つ減る。」


沈黙。


あの壁は、まだ遠くで地面と会話を試みていた。

だがここでは、木々と疲労の間で、誰ももう喋らなかった。


カエルは眠った。

サロンは残った。

夜が、静かに降りてきた。


そして世界は——いつものように、何も気にしていなかった。

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