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The Sword That Hates Me (But Is Better Than Me)  作者: 神谷嶺心
第2章 機能不全の三人組:24時間忍者、盲目のヒーラー、俳句スライム —— 予言か、宇宙の悪ふざけか?
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第20話 ー 宿と嘘とネズミのソース

「忍者は金を選び、ヒーラーは信じ、スライムは詠む。街はそれを笑う。」



「腹減った。宿が欲しい。風呂も。できれば、新しい人生も。」 と、クノカゼはぼやきながら通りを歩いていた。後ろには二人の仲間がついてくる。


ルミは微笑みながら、前に手を伸ばして優しく道を探っていた。 ハイクモは静かに滑りながら、それなりの方法で世界を観察している。


角を曲がると、樽を抱いて歩道で高いびきをかいているドワーフがいた。 ハイクモは立ち止まり、ぽつりと呟く。


「樽の抱擁 夢見るドワーフ 酒と忘却」


クノカゼは眉をひそめる。


「…詩的だな。でも、ルミはどこ行った?」


ハイクモはゼリー状の体を使って、横道を指す。


「光は迷い 通りを渡り 目的なく進む」


「今言うのかよ!?」クノカゼは苛立つ。 「なんで先に言わねぇんだよ!」


ハイクモはまた一句。


「ドワーフ眠り 魂さまよう 深きいびき」


「お前、スタイルだけはあるな。役立たずだけど。」


三人は急いで横道へ向かう。そこには、ルミが膝をついて、小さく毛むくじゃらな存在の手を握っていた。優しく語りかける。


「大丈夫よ…お母さん、きっと見つかるから。怖がらなくていいの。」


クノカゼが近づき、目を見開く。


「ルミ…それ、子供じゃねぇぞ。コボルドだ。しかも年寄り。」


コボルドは目をパチパチさせ、焦った様子。


「か、母ちゃんが…病気で!助けるために金が必要なんだ!」


「はいはい、そういうことね。」クノカゼは目を回す。


「かわいそうに…」ルミは優しく言う。 「心配しないで、私たちが助けるから。」


「ルミ、騙されてるぞ。金目当てだ。母ちゃんなんていねぇよ。詐欺だ。」


ハイクモが冷たく一句。


「魂の盲 目より深く 哀れは欺き」


「お前のせいで頭痛くなってきたわ、ハイクモ。」


クノカゼはコボルドの襟を掴む。


「この辺にまともな酒場あるか?飯、ベッド、静けさ。案内しろ。」


「あるある!『蛇の目』って酒場が!この先の通りにある!案内するから、通報だけは勘弁して!」


「安心しろ、誰も通報なんかしねぇよ。」ルミはコボルドの頭を撫でる。 「子供には罰よりも優しさが必要なの。」


「だから子供じゃねぇって!」


ハイクモがまた一句。


「蛇の目は 愚者と純者 眠りへ導く」


三人と一匹は、狭い通りを進み、古びた木の扉の前で立ち止まる。 歪んだ看板にはこう書かれていた――『蛇の目』。


酒場の扉にたどり着くと、クノカゼはコボルドに向き直り、指を突きつけた。


「消えろ。次に会ったら、その汗臭い毛皮でコート作ってやる。」


コボルドは目を見開き、くるりと背を向けて走り去る。 逃げる途中、ポケットからシュリケンが落ちた――明らかに忍者から盗んだものだ。金属音を聞いて、さらに加速する。


「この野郎…俺のシュリケン盗みやがった!」 クノカゼは拾い上げて、ため息をつく。 「ルミに治療させてから、ぶん殴ればよかった。」


「かわいそうに…母親を助けたかっただけなのに…」 ルミはまだコボルドの無実を信じている。


ハイクモが横に滑りながら呟く。


「忍の道具 毛皮の盗人 コボルドに」


「黙れ、詩人スライム。」


三人は酒場に入る。腐ったビールの匂いが鼻を突く。床は靴にくっつくほどベタついている。 盗賊風の連中がテーブルを占領していて――笑っている者もいれば、こちらを睨んでいる者もいる。


空いている席を見つけて座る。クノカゼが立ち上がる。


「なんか頼んでくる。戻らなかったら、地下室で足縛られてると思え。」


彼はカウンターへ向かう。 その奥には、色褪せた鱗を持つ老ゴルゴンがいた。歯の間に葉巻を挟み、クノカゼが近づくと床に唾を吐く。


「タルガ。ここの女主人だ。」 彼女は咳き込みながら言う。 「お前ら…ゴホッ…食うのか?」


「ドブから拾ってきたもんじゃなけりゃ、考える。」


「怪しい料理、安いけど飲める酒…ゴホッ…あと、料理より信頼できる情報もある。」


「最高だな。じゃあ、怪しさ控えめな料理と、トイレの蛇口から出てない酒をくれ。」


「気が向いたら、テーブルに持ってく。」


クノカゼは皮肉な笑みを浮かべる。


「五つ星の接客だな。殴って宿代請求するなら、今がチャンスだぞ。」


「ここで寝かせてやってもいいぞ。もちろん、料金はいただく。」


「ありがたい。酔っ払いゴブリンの匂いがする場所で寝るのが夢だったんだ。」


彼が席に戻ると、ハイクモが一句で迎える。


「忍の愚痴 老ゴルゴンより 床より少し」


「ぶっ飛ばすぞ、スライム。」


「落ち着いて、クノカゼ…」 ルミが優しく言う。 「彼なりに表現してるだけよ。」


まもなく、タルガがジョッキを持ってやってくる。 テーブルにドンと置き、床に唾を吐きながら言う。


「出るなら…ゴホッ…床に気をつけろ。客が滑って死んだことある。」


「私、お酒は飲めないの…」 ルミはジョッキを見て不安げに言う。


「じゃあ、俺が飲む。お前の分も。死んだ客の分も。」


少しして、タルガが料理を持って戻ってくる。 湯気の立つ皿――匂いは怪しい。


「山のトカゲの尻尾だ。ソースは、ここで仕留めたネズミの内臓で作った。気に入らなきゃ、床に捨てろ。次のネズミが来たら太らせて、また出す。」


クノカゼは皿を見て顔をしかめる。


「これ、生物兵器って書いとくべきだろ。」


それでも、クノカゼは食べ始めた。 ハイクモは音も立てず、静かに消化している。 ルミはゆっくり食べながら、目に涙を浮かべていた。


「このネズミさん…私のために死んだのね…」 彼女はほとんど泣きそうに呟く。


しばらくして、三人は食事を終える。 クノカゼは首を鳴らして立ち上がる。


「金払って、宿探すぞ。ここで寝たら、鱗が生えてそうだ。」


三人はカウンターへ向かう。


クノカゼはまだ口にネズミの味が残るまま、カウンターに肘をつく。


「この辺にまともな宿あるか?それとも、壁にもたれて立ったまま寝るか?」


タルガは床に唾を吐き、葉巻を吸い込みながら咳混じりに答える。


「上の階にある…ゴホッ…階段が壊れなければ、泊まっていい。明日出る前に払えばいい。払わなかったら…ここの料理人になる。そこのスライムは次のスープの具材だ。」


ハイクモが前に滑り出て、また一句。


「裏切る階 払わぬ者は スライム煮」


「かわいそうなハイクモ…」 ルミはスライムを撫でながら言う。


「決まりだな。ここに泊まるしかねぇ。」 クノカゼは目を回す。 「ノミと寝る方が、スープになるよりマシだ。」


彼は数枚のコインをカウンターに投げる。


「これで飯と宿代だ。余ったら、ネズミの仕入れにでも使え。」


タルガは唸りながらコインを回収し、酒場の隅にある歪んだ木の階段を親指で指す。


「幸運を…ゴホッ…落ちても叫ぶな。助けに行かねぇから。」


三人は階段へ向かう。 一段ごとに、最後の力を振り絞るような軋みが響く。 ハイクモは滑るように登り、ルミは慎重に足を運び、クノカゼは罠かのように一歩ずつ確認する。


階段の上には、狭くて薄暗い廊下があり、三つの扉が並んでいた。 下の階よりも、カビ臭さがむしろ安心感を与える。


部屋は質素だった。 薄いマット、怪しいシミのあるシーツ、開かない窓。 ハイクモは古いバケツに収まり、ルミは枕を優しく整え、クノカゼは運命を受け入れるようにマットに倒れ込む。


「朝起きて鱗が生えてたら、ネズミのせいだ。」


夜は軋む音、下の階からの咳、酔っ払いの合唱―― 「オーガとの喧嘩で歯を失った歌」が響いていた。


翌朝、三人は身支度を整える。 ルミはすべてを乗り越えたように輝きながら、笑顔でタルガに近づく。


「宿泊ありがとうございました、タルガさん!今日が光に満ちた日になりますように。咳も少なめで!」


タルガは床に唾を吐き、片目を細めてルミを睨みながら唸る。


「さっさと出てけ、薬局の妖精。舌で床を掃除させる前にな。」


ルミは後ずさりしながら、まだ笑顔を保っていた。


「…愛情表現が、ちょっと…独特なのね。」


クノカゼは額の布を整えながら通り過ぎる。


「ギルドに行くぞ。できるだけ遠くに行ける依頼を受けたい。もう一度この場所で飯食ったり寝たりするくらいなら、剣なしでドラゴンと戦う方がマシだ。」


三人は酒場を出る。 朝の太陽が汚れた通りを照らし、ギルドへと向かって歩き出す。


三人は通りを進んでいた。 樽を避け、騒がしい露店商をすり抜け、盗んだパンを持って走る子供たちをかわす。


すると、歪んだ建物の間にある暗い路地から、囁くような声が響いた。


「おい…シッ…忍者。そこの間抜け。」


クノカゼは立ち止まり、ゆっくり顔を向けて深くため息をつく。


「当然だよな。昼間っから暗い路地で“シッ”って呼ばれて、いいことが起きるわけない。」


彼は仲間に向き直る。


「ギルドに行っててくれ。そこで待ってろ。三十分以内に戻らなかったら、引退か誘拐されたと思え。」


ハイクモは静かに滑り去り、ルミは優しく手を振る。


クノカゼは路地に入る。 そこには、フードを被った三人が待っていた。顔は隠れ、雰囲気は怪しい。


「“間抜け”って呼んでおいて、礼儀正しい会話を期待する奴がいるか?」


一人が前に出る。


「情報を買いたい。」


「買う?」クノカゼは腕を組む。 「ますます怪しいな。まあ、話してみろ。」


「ある戦士についてだ。喋る剣を持っている。見たことあるか?居場所を知ってるか?」


クノカゼは片眉を上げる。


「先に金だ。情報はその後。」


一人がコインの袋を投げる。 クノカゼは振って重さを確かめ、金属音を聞いて頷く。


「知ってる。あいつは“カエル”って呼ばれてる。弱い。お前らでも勝てる。」


「カエル?」一人が聞く。 「そんな名前の奴がいるのか?」


「名前は知ってるが、理由は知らん。剣の方が俺より文句言うから、ある意味すごいぞ。」


三人は背を向けて、ひそひそと話し始める。 数秒後、一人が呟く。


「情報は…値段に見合ったな。」


クノカゼは袋を振りながら路地を出ようとする。 だが袋を開けた瞬間、笑みが消える。


「コインが…六枚。あとは石。石かよ!」


彼が振り返ると、三人は走って逃げていた。振り返りながら。


「殴って請求すりゃよかった…」


ぶつぶつ言いながら、彼はギルドへ向かう。 中に入ると、ハイクモとルミがカウンターにもたれて待っていた。


ハイクモが呟く。


「石とコイン 忍者は騙され 怒り顔」


「黙れ、スライム。」クノカゼは唸る。


まだ怒りを引きずりながら、二人に向き直る。


「まともな依頼、見つけたか?」


ハイクモは目を上げずに一句。


「報酬少なく 臭い魔物 金はなく 残るは嘆き」


「よし。じゃあ、明日また挑戦だな。」 クノカゼはそう言って、さっさと背を向ける。


ルミは微笑みながら頷く。 三人はギルドを出て、中央広場へ向かって歩き出す。 太陽が強く照りつけ、露店商たちが怪しい品を大声で売り込んでいる。


クノカゼは自信満々で語り始める。


「喋る剣を持った戦士の情報を売ったんだ。フードの怪しい三人組にな。ちょっとした小遣い稼ぎだ。楽勝だったぜ。」


ルミは眉をひそめる。


「その戦士…かわいそう。」


ハイクモはいつもの穏やかな口調で一句。


「忍の自慢 袋の中身は パン屑のみ」


「黙れ、スライム!」クノカゼは憤る。 「詩が聞きたいなら、酔っ払いバードの歌でも聞くわ!」


だが、彼の愚痴が続く前に、広場に響き渡る叫び声が遮る。


「忍者!そこで止まれ!」


巨大なミノタウロスが現れる。 輝く鎧をまとい、鋭い眼差しで三人を睨みながら突進してくる。


ハイクモは動じずに一句。


「輝く角 衛兵隊長 逃げる時」


クノカゼの顔が青ざめる。


「終わった…街から逃げるしかねぇ!」


ルミはまだ希望を捨てずに言う。


「もしかしたら…情報が欲しいだけかも…」


「情報?あいつは俺の首を狙ってる!」 クノカゼはルミの手を掴み、全力で逃げ出す。 ハイクモは優雅に滑りながら、詩的に後を追う。

英雄的な逃走なんて、そうそうあるもんじゃない。 時にはただ、権力に問題のあるミノタウロから逃げる忍者と、呼吸より嘘がうまい相手を信じるヒーラーと、混沌を詩に変えるスライムがいるだけだ。


今回のエピソードは、また一つの眠れぬ夜、また一皿の怪しい料理、そして誰もちゃんと学ばなかった教訓だった。


でも、だからこそこの旅は面白い。 スタイリッシュな失敗、語りがうまい不運、そしてすべてが腐ったビールとネズミのソースの匂いに包まれていても、なぜか顔を出す希望。

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