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The Sword That Hates Me (But Is Better Than Me)  作者: 神谷嶺心
第2章 機能不全の三人組:24時間忍者、盲目のヒーラー、俳句スライム —— 予言か、宇宙の悪ふざけか?
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第19話 ー 問題を植えた癒し

「魔法は失敗しない。 ただ、君が理解できない計画を持っているだけだ。」



森は昨夜の出来事を忘れたかのように静かだった。 澄んだ空気が漂い、葉の隙間から柔らかな光が差し込む。 折れた枝でさえ、安堵のため息をついているようだった。


だが、クロカゼはその幻想を受け入れる気はなかった。


「うん、朝だな。空は綺麗、鳥は歌ってる。で、誰が怪物の残骸を片付けると思う?俺だよ。いつも俺。だってヒーラーは盲目で、スライムは……詩人してるからな。」


彼は影狼の死骸の前にしゃがみ込んだ。 顔には退屈と憤りが混ざっていた。 臭いは最悪、感触はさらに最悪。 仲間たちの沈黙は、もはや耐え難い。


ハイクモがぬるりと近づき、静かに詠んだ。


「影は落ち/忍びは荷物に/栄光幻」


「三行で侮辱してくるとか、犯罪だろそれ。」


ルミは縛られた盗賊たちのそばに膝をつき、慈悲深い表情を浮かべていた。


「彼らは迷っていたのかも……まだ光の道を見つけられるかもしれない。」


彼女は手を差し伸べ、癒しの魔法を唱えた。 だが、狙いを外した。 光は盗賊の隣に倒れていた木に命中した。


木が震えた。枝が持ち上がる。 そして、乾いた音を立てて立ち上がった。


「うわああああ!俺、生きてる?!これが……意識ってやつか?!何すればいいんだ?!剣士になれるかな?!名前欲しい!名前もらえる?!マントも欲しい!」


ハイクモは無表情のまま詠んだ。


「目覚めし葉/剣と栄光夢見て/意味はなし」


クロカゼは三秒間沈黙した。 そして爆発した。


「言わないぞ!考えないぞ!絶対に言わな——って言ってるじゃねぇか!これ全部狂ってる!俺は忍者スパにいるべきだろ!なんで喋る木の劇場にいるんだよ!」


木は枝を振り回しながら、剣の訓練を真似し始めた。 ルミは微笑み、うっとりしていた。


「情熱がある。それって大事よ。」


「それはアイデンティティ迷子の枝だ!」


ハイクモは木のそばにぬるりと滑り、低く詠んだ。


「木の夢/剣士になりたし/運命不明」


クロカゼは背中から地面に倒れ込み、空を見上げた。


だが、日はまだ始まったばかりだった。


盗賊たちは生きていた。 縛られたまま、完全に役立たず。


地面に座り、ふてくされた顔。 歩こうとしない。協力もしない。 クロカゼを見ることすら拒否していた。 彼の忍耐は限界に近かった。


「なるほどな。今や俺は敗北した盗賊たちの公式輸送係か。任務失敗者への罰にすべきだろ、世界救った奴にじゃなくて。」


彼は縄を引き、盗賊たちを雑に縛ったジャガイモ袋のように引きずっていた。 一人は気絶したふりをしていたが、呼吸が深すぎて誰も騙せなかった。


ハイクモはいつものように、苛立つほど穏やかに滑っていた。


「疲れし者/盗賊は荷物に/名誉も沈む」


「お前は俺の痛みを芸術に変える天才だな。 ……ただし、打撲には効かないのが残念だ。」


ルミは後ろを歩いていた。 軽やかな足取りで、両手を差し出して。


「もし誰かが怪我したら、私が癒すよ。誰にも苦しんでほしくないの。……わがままな人たちもね。」


「ルミ、奴らの自尊心を癒せたら、賞をやる。確実に壊れてるからな。」


盗賊の一人が不満げに呟いた。


「街には行きたくない。どうせ引き渡されるんだろ。ここにいた方がマシだ。」


「いいぞ。ここにいろ。ただし、あそこの剣士志望の木が訓練中だからな。お前ら、的にされるかもな。」


ハイクモは立ち止まり、盗賊たちを見つめ、 どこか母性的な口調で詠んだ。


「栄光なし/根になる盗賊/進歩止まる」


クロカゼは地面を見つめ、深くため息をついた。


「この地面が意識持ったら、チームに勧誘するわ。少なくとも文句言わねぇし。俺がリーダーになるべきだろ。詩で喋る奴も、石を癒す奴もいないのは俺だけだぞ。」


ルミは微笑んだ。


「でも、あなたの愚痴って詩的で、ほぼ俳句みたい。」


「それ、精神的いじめだろ。」


文句と皮肉と、ありえないほどの忍耐力で、 ようやく一行は動き始めた。 盗賊たちは引きずられ、押され、詩で脅されて、ようやく歩く気になった。


森の中の空き地が遠ざかり、 木々の間から街の輪郭が見え始めた。


ルミは立ち止まり、深呼吸して、微笑んだ。


「光が導いてくれた。……きっと、もうすぐ家だね。」


ハイクモは前に滑り出て、希望を込めて詠んだ。


「街目覚め/影は森に残り/光を歩む」


クロカゼは街を見て、仲間を見て、そして自分を見た。


「この街に忍者を弟子にしてくれるパン屋がいたら、俺、全部やめる。誓う。」


一行はアンセルムの門へと近づいていった。


街は淡い石の城壁に囲まれ、 控えめな塔が立ち並び、 旗が風に怠けたように揺れていた。 穏やかで安全な場所—— だが、詩人スライム、盲目ヒーラー、盗賊を引きずる忍者を迎える準備は、まるでできていなかった。


門番は遠くから彼らを見つけ、眉をひそめた。 ヘルメットを下げ、彼らが近づくと、堪えきれずに言った。


「これ、冗談か?忍者が盗賊を小麦袋みたいに引きずってる? で、こいつらが負けた相手が……ミントゼリーみたいなスライムと、目線がズレてるヒーラー?」


盗賊たちはうつむき、屈辱にまみれていた。 ルミはいつものように優しく微笑んだ。


「大切なのは、みんな生きてること。癒される可能性があること。」


「癒し?姉ちゃん、こいつら恥ずかしがってるだけだぞ。そんなの魔法じゃ治らん。」


クロカゼは門番を冷たい目で見つめた。


「聞いた悪い冗談の数だけクナイ持ってたら、もう店開けるわ。」


ハイクモは門の前まで滑り出て、 まるで入場を祝福するかのように詠んだ。


「笑いの門/忍びは恥を引く/栄光遠し」


「俺を悲劇のキャラにするな。俺は忍者だぞ。影であるべきだろ、笑いじゃなくて。」


門番はさらに笑った。


「影?お前は盗賊配達員だろ。手伝いに荷車でも呼ぶか?」


「呼ぶなら沈黙を頼む。それが一番助かる。」


ルミが門番に近づき、そっと腕に触れた。


「入れてもらえますか?彼ら、休まないと。……そして、少しでも考える時間を。」


門番は彼女を見て、スライムを見て、そして忍者を見た。


「お前ら、ここを通った中で一番奇妙なグループだな。……まあ、いい。入れ。 ただし、広場の木が戦士になりたいとか言い出すなよ?」


クロカゼはため息をついた。


「……もう遅い。」


ハイクモは静かに詠んだ。


「街は迎え/混沌の隊来る/平和幻想」


こうして、アンセルムの街は知らぬ間に、 その歴史上最も奇妙な章を迎えることとなった。


盗賊たちはまた座り込んだ。


街のど真ん中。通りの真ん中。 まるで風景の一部かのように。


クロカゼは立ち止まり、空を見上げ、深く息を吐いた。


「こいつら、濡れた石くらいの抵抗力しかねぇ。で、俺はそれを引きずるバカ。」


彼は再び盗賊たちを引きずり始めた。 まるで人格を持ち始めた小麦袋のように。


ルミは前を歩いていた。 記憶と希望を頼りに。 そして、つまずいた。


「きゃっ!」


彼女は膝をつき、 角の樽に抱きついて眠っていたドワーフの隣に倒れ込んだ。 ドワーフの手には、かじられたパンが握られていた。


「ごめんなさい、気づきませんでした……」


ハイクモは彼女のそばに滑り寄り、穏やかに詠んだ。


「道を失い/ヒーラーはパンに出会う/方向迷う」


クロカゼは盗賊を引きずり続けていた。 今やさらに重く感じる。 通りは人で賑わい始めていた。 人々は立ち止まり、見つめ、笑い、囁き、 中には「スライムと優しい女に捕まるなんて」と盗賊を罵る者もいた。


「最高だな。群衆。目撃者。……誰か手伝うか?しないよな。もちろん。 俺はこのグループの忍者だぞ。忍者。影にいるべきだろ。昼間に駄々っ子犯罪者引きずる役じゃねぇ。」


誰も答えなかった。 誰も手を貸さなかった。 誰も気にしなかった。


ハイクモは隣に滑り、静かに詠んだ。


「忍び引く/街は笑いで見る/影は晒され」


「お前、ゼリーのデザートにしてやるからな。マジで。」


いくつかの通りを抜け、 ため息の数は増え、 視線の痛みは限界を超えた頃、 一行はようやく街の衛兵詰所にたどり着いた。


それは質素な建物だった。 傾いた看板がかかり、 入口には犬が眠っていた。


衛兵隊長は不在。 代わりに、若くて注意力散漫な兵士が彼らを迎えた。


「えっと……ギルドの依頼の人たちですか?盗賊、連れてきたんですね?」


クロカゼは魂が抜けたようなため息をつきながら、 盗賊たちを地面に押し倒した。


「そうだ。連れてきた。……次から犯罪者捕獲の依頼出すなら、荷車もセットで頼む。 俺の方が恥ずかしかったんだぞ、あいつらより。」


兵士は彼を見て、盗賊を見て、スライムを見た。


「……なんか、違いますね。いろいろと。」


ハイクモは章の終わりを告げるように詠んだ。


「捕縛完了/恥は皆で分ける/任務達成」


一行は衛兵詰所を離れた。 盗賊たちは置き去りにされた。 今や、別部署の問題である。


ルミは振り返り、 その瞳には慈しみが宿っていた。


「彼ら、すごく傷ついてた……癒してあげるべきだったかな?」


クロカゼは歩みを止め、ゆっくりと振り向いた。 そして、人生に疲れた者のような声で答えた。


「ルミ、もしあそこで癒し魔法なんか使ったら、剣が意識持って魔法使いになりたいとか言い出すぞ。 俺たち、魔法権利を要求する武器の組合と一緒に出てくる羽目になる。」


「ただ、助けたかっただけなのに……」


「もう助けたさ。生きてる。それだけで十分だ。」


ハイクモは風を読むようなタイミングで滑り寄り、静かに詠んだ。


「任務終わり/街はため息飲み/ギルドが待つ」


クロカゼはうなずいた。疲れた声で。


「そうだ。ギルド。報告しなきゃな。……それから宿を探す。 森から街まで大人を引きずったんだ。俺にはベッドと風呂と……できれば新しい身分が必要だ。」


彼らは石畳の道を進んだ。 猫が樽で眠り、子供たちは偽のコインで遊ぶ路地を抜けて。


中央広場は賑やかだった。 音程の怪しい音楽家、 存在しない果物の名前を叫ぶ商人、 そして「エルフが浄化した空気」を売ろうとする男。


ルミは立ち止まり、 その活気に目を輝かせた。


「この街、すごく……活気があるね。」


「この街は魚臭くて、期待を裏切る匂いしかしねぇよ」とクロカゼ。


ハイクモは静かに詠んだ。


「声の広場/混沌と香りの間/歩み続く」


そして、ついにギルドに到着した。


建物は古びていた。 傾いた柱、 そして「冒険者ギルド」と書かれた看板。 その文字は、書いた人が書道に怒っていたかのようだった。


中に入ると、カウンターが彼らを待っていた。 そして、その奥に——彼女がいた。


受付嬢。


完璧な身なり。 少し曲がった眼鏡。 背筋は真っ直ぐ。 酸素すら審査しているような目。


クロカゼは、 すでに後悔することを知りながら、 カウンターへと歩み寄った。


彼は巻物を放り投げるように置いた。


「任務完了。これだ。」


受付嬢は巻物に触れなかった。


「……本当の試練は、これから始まるのかもしれません。」


クロカゼは深くため息をついた。


「報酬だけでいい。」


受付嬢は片眉を上げた。


「あなたが……忍者?」


「盗賊二人を三キロ引きずった忍者だ。 三日間眠りたい忍者だ。 今、俳句一つで精神崩壊しそうな忍者だ。」


ハイクモがカウンターに滑り寄り、微笑みながら詠んだ。


「疲れし忍/哲学語る窓口/スライム煽る」


受付嬢はようやく目を上げた。


「あなたが……詩を詠むゼリー?」


クロカゼはルミに向き直った。


「もし彼女が存在論語り始めたら、俺を外に引っ張ってくれ。」


ルミはいつものように優しく微笑んだ。


「彼女も仕事してるだけだよ……」


「彼女は哲学者三人と劇作家一人分の仕事してる。」


ルミは平和を保とうと、さらに微笑んだ。


「報酬を受け取る準備はできてます。」


「……報酬が、さらなる問いだったら?」


受付嬢はカウンターの下から袋を取り出した。 魔法の印が一瞬だけ光った。


金は沈黙を買えるのか?


クロカゼはすでに袋を手にしていた。


「逃げるには十分だ。行くぞ。」


三人は何も言わずにギルドを後にした。 扉は、劇的な軋み音を立てて閉まった。


外では、太陽が通りを照らしていた。 クロカゼはすでに屋根を見上げ、 逃走ルートを計算していた。


「彼女がもう一つ質問したら、俺は煙になるぞ。」


ハイクモは隣に滑り、静かに詠んだ。


「陽と金貨/問いは背に残し/通り静か」

すべての癒しが解決になるわけじゃない。

時には木を目覚めさせ、盗賊を混乱させ、疲れた忍者の忍耐を試すこともある。 ルミは助けたかった。ハイクモは詩を詠んだ。クロカゼは……煙になりかけた。


任務は完了した。 だが、世界はまだ奇妙なまま。 そして魔法は……独自の計画を持っている。

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