第1.5巻への序文
カエルは、誘拐犯に拒絶された。
剣は笑った。世界は答えなかった。太陽は、まるで個人的な怒りを燃やすように照りつけた。
二人が、砂埃と絶望の中で迷っている間——宇宙のどこかで、何かが動き始めた。
でも、それはドラゴンじゃない。予言でもない。新たな任務の始まりでもない。
ただ…世界が、いつも通りに続いているだけ。
英雄たちが自分のエゴにつまずいている間も、アンセルムの街は生き続ける。そして、その命を支えているのは——選ばれし者でも、常習者でも、喋る剣を持つ者でもない。
それは、「その他」の人々。
歌に名前が出ない者。報告書に載らない者。いつもそこにいるのに、中心にはいない者。
この巻は、彼らの物語。
見られずに観察する者。礼も言われずに酒を注ぐ者。誰も読まない書類に判を押す者。他人が流した血を拭く者。
世界を救う者ではなく、世界を支える者たち。
ここにあるのは、断片。切り取り。横からの視点。
一直線の物語はない。明確な運命もない。ただ、主人公の影から一瞬だけ逃れた声がある。
もし、カエルが違う目で見られたら?
たぶん、ただの一人に過ぎない。通り過ぎる顔。失敗する任務。居心地の悪い存在。
でも、もし世界が違う目で見られたら?
冒険では描かれないものが見えるかもしれない。疲れ。皮肉。日常。剣より重い沈黙。
これは、第一巻と第二巻の間の「1.5巻」。
続編でも、番外編でもない。
これは、視点の転換。
背景にも、ひびがある。
そして時に——そのひびから、光が差し込む。




