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雑記 この2人はよく似ている

――「マールとゼルドはよく似ている」

午後の報告会議。

訓練所の面談室を少し広げたような会議室には、教官数名が集まっていた。


サーシャが紅茶を配り、マールは魔導筆で空中に文字を書きつけている。

ゼルドはその隣で、別フォーマットに淡々と転記作業中。

視線は交わらず、リズムだけが合っているのが少しおかしかった。


「フワリの実習、決まったのね」

カリナが口を開くと、サーシャが軽く頷いた。


「うん。回復院に一日だけ、付き添いって形で。本人も“行ってみたい”って言ってたしね」


マールは魔導筆を止めずに口を開いた。


「現場観察としては妥当な判断だね。

“転倒を恐れない子”を、リハビリ施設に送る……。

事故予備軍の中に、ひとつだけ安全策を置いてみる。

実験としては、非常に理に適っている」


「人を“安全策”扱いしないの」

サーシャが笑って返す。


マールは肩をすくめた。「冗談だよ」と言いながら、冗談ではない顔をしていた。


カリナはその様子を見て、静かに紅茶を啜る。


マールとゼルドは、よく似ている。


理論に強く、観察に鋭く、

そしてどこか、“記録の中で安心している”ような空気をまとっている。


だが、ふとした瞬間に思うのだ。


「……でも、やっぱり違うのよね」


「なにが?」とサーシャが聞き返す。


「マールは皮肉で包んでくるけど、ゼルドは皮肉を“聞こえていても聞き流す”の。

どっちも理屈の塊だけど、質が違う」


「うん……わかる気がする」


「それに、マールは“面白いと思った対象”にだけ深く入るでしょ。

ゼルドは“全員を同じ目線で見ている”。少しだけ、冷たくも見えるけど」


「それ、観察じゃなくて診断よねぇ……」

サーシャがくすっと笑った。


マールは筆を止めて、ようやく紅茶に手を伸ばす。


「でも、どちらにせよ──あの子は“記録に残る動き”をした。

他者を巻き込んだ転倒は、衝撃緩和系スキルとしては観測難度が高い。

本来、事故でしか起きない挙動だからね。

……いや、ほんと、貴重だよ」


その言い回しに、ゼルドが少しだけ視線を上げた。

だが何も言わず、また記録に戻っていく。


「やっぱり似てると思わない? あの2人」

カリナが言うと、サーシャが首をかしげる。


「うーん、似てるような、似てないような。

でも、“ふたりが揃って面白いって言った子”は、たしかに伸びるね」


「でしょ?」


「……でも、私としてはね」

サーシャが一拍おいて言った。


「“誰かのために転んだ”って、ただそれだけで、もう十分すごいと思うのよ」


「同意。あとで、推薦資料にそのまま書いておくわ」


マールは小さく笑った。

その笑顔は、資料よりもずっと静かで、あたたかかった。

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