光合成③:光のある場所で
――面談室・記録終了日
面談官:ヴィス=ノア
被面談者:第79期訓練生 ソラ=フォトン
「──で、やっぱり就職はしないと?」
「はい。なんかこう、“求められる場所に行く”って考えたら、逆にしんどくなっちゃって」
ソラはいつもと同じ、ゆるんだ笑顔のまま言った。
ヴィスは黙って書類をめくり、最後の項目にサインを入れる。
「君に対するギルド側の関心は薄い。“使い方が難しい”とのことだ」
「でしょうねぇ~。回復も剣技もないし、火も水も出ませんし」
「だが、シュロの観察記録にはこうある」
ヴィスは読み上げる。
「“周囲を巻き込む生存ペースを持つ者。
危機を危機としない空気が、逆に支援力として働いている”──と」
ソラは目を丸くして、そして苦笑した。
「……支援っていうか、巻き込んでるだけですね、それ」
「それでいい。
他人を助ける意志がなくても、結果的に助けているなら、それも一つの形だ」
ヴィスはペンを置いて、言った。
「推薦は出さない。“進路なし”として記録し、保留申請も行わない」
「はい。……なんか、気持ちが軽くなりました」
ソラは立ち上がって、ふわっとお辞儀をする。
「“何もしなくても、生きていい”って、証明された気がします」
「証明ではなく、“許された”と考えろ。
──だがそれは、“戻る場所がある”という前提のもとに許された自由だ」
ソラは一瞬目を瞬かせてから、くしゃっと笑った。
「じゃあ……もし日陰で迷子になったら、また来ますね」
「……その時は、入口は開いている」
【訓練所記録 第79期生:ソラ=フォトン】
スキル名:光合成
卒業判断:推薦・配属なし/進路自主選択による自由行動
備考:“生活自立・自然適応特化”として訓練所内記録に残留
教官メモ(ヴィス)
「生きることを選んだ子は、それだけで“推薦に値する”と思う。
職務ではない。存在が価値である者が、時にいるのだ」