光合成①:光の下で
――面談室・記録開始
面談官:ヴィス=ノア
被面談者:第79期訓練生 ソラ=フォトン
「……ええと、つまり、食べなくても平気ってことか?」
ヴィスが書類をめくる手を止め、顔だけをソラに向ける。
「うーん……“平気”ってほどじゃないですけど、だいたい日なたでぼーっとしてると大丈夫になる、って感じですかね」
ソラ=フォトンは、相変わらず脱力した笑顔でそう答えた。
「食べ物の支給も少なく済みますし、水さえあれば、なんとなく……暮らせるというか……生きていけるなあって」
「スキル名:光合成。太陽光によって微量の魔力変換が行われる……
ただし、栄養変換は限定的、肉体強化効果も希少……」
ヴィスは小さく唸るように呟いた。
「──サバイバル向きか」
「ですよねぇ~。なんか、訓練でも“野営力が高い”とか言われました」
「で、進路希望欄。白紙だな」
「はい。考えてみたんですけど……どこかの組織に属するって、あんまりピンと来なくて」
ソラは肩をすくめた。
「日なたがあって、水があって、静かな場所で……
自分のリズムで暮らせたら、それで十分だなって」
ヴィスは一瞬、ソラの顔をじっと見つめる。
「……理解した」
そのひとことで、ソラは少しだけ驚いたように目を丸くした。
「え、いいんですか?」
「君のスキルは“生きる”ことに特化している。
無理に“働く”ための用途を探すより、“生き延びる”ほうが向いているタイプだ」
「……ほかの人には、変だって言われますけどね」
「変かもしれないが──理には適っている」
ヴィスは静かに立ち上がった。
「報告書には記載しておく。『進路指導は不要。本人の希望による自立進行』と」
「わあ……ありがとうございます!」
「ただし、もし“人との関わり”が必要になったら、門は開いている。
戻るなら、入所申請ではなく、“ただいま”でいい」
ソラはしばらくぽかんとしたあと、にへらっと笑った。
「……じゃあ、また日が恋しくなったら、帰ります」
【訓練所記録 第79期生:ソラ=フォトン】
スキル名:光合成
評価:低燃費型サバイバル特化
進路:本人希望により“自由行動/就職希望なし”として記録済
教官メモ(ヴィス)
「生き延びるだけで価値がある。
働かずとも、生きることを選べるなら、それもまた自由の形」