雑記 それぞれの癖
――「カリナの制服、昔ほつれてたのよ」
洗濯の合間に制服を繕っていたら、ふと思い出したことがある。
この子、また左の裾ね。歩き癖があるのか、毎週必ず糸がゆるむ。
最初は偶然かと思ってたけど、3週連続で来るとさすがに笑えてくるわ。
人って、案外“癖”が服に出るものなのよね。
そういえば、教官たちもそう。
誰が一番“ほつれやすい”かって? ふふ、決まってるじゃない。
ヴィスは論外。そもそもあの人の黒衣、構造が不明すぎて縫い目がない。
マールは毎日きっちりしてるけど、あれ、3日くらい同じ服着てるわね。たぶん“汚れない理論”とかあるのよ。
シュロは袖をまくる癖があるから、肘が擦れてすぐテカテカになるの。修繕しようとすると「味が出てきた」とか言って止めるのよねぇ。
レオン? あの子はいつも完璧に整えてるんだけど、よくボタンが緩むの。
聞いたら「筋肉で引っ張られんのよぉ♡」って、笑ってたっけ。
見た目はしなやかなのに、実は一番鍛えてるから困っちゃう。
でも──
一番印象に残ってるのは、やっぱりカリナ。
昔ね、訓練のあと、肩口が裂けたまま戻ってきたのよ。
本人は全然気づいてないの。「戦闘服は消耗品」なんて言って。
……違うのよ、生活服は戦うためだけのものじゃないの。
「ちょっと止まりなさい」って、私はそのまま彼女の腕を引いて、針と糸を取り出して──
無理やり直しちゃったの。ほら、あの頃はまだ、若かったから。
いまでもたまに言われるのよ。
「サーシャ、お前、あのとき“戦場の縫い子”だったな」って。
ふふ、失礼しちゃうわよね。
でもまあ──誰かの“ほつれ”に気づけるって、悪くないと思ってるの。
今日も、ちくちくと。
制服をひっくり返して、糸を引いて、布を揃えて。
“ほつれと付き合う”って、案外、人生に似てるのよね。