糸ほつれ感知③:誰かを守るためも仕事
――推薦面談・記録開始
面談官:サーシャ=ルネフィール
被面談者:第79期訓練生 スレッド=ミシン
「君の制服観察ログ、王都の民間支援物資管理局にも送ってみたの。
そしたら、“一度本人に会いたい”って連絡が来たのよ」
面談室で、サーシャは明るくそう告げた。
ミシンは一瞬、ぽかんとした顔になった。
「え……えっ、そんな……僕なんて……」
「ミシンくん。“壊れる前に見つける力”って、どこでも欲しいのよ。
物資支援、検品、制服の管理……使い捨てを減らすだけじゃない。
その先にいる“人”の暮らしごと守ることになる」
ミシンはそっと、ひざの上のノートを見つめた。
ぎっしり書かれたメモ、報告の分類、統計、気づき。
いつしかそれは、“誰がどこで傷つきやすいか”という、静かな地図になっていた。
「……最初は、ただ、気になるだけだったんです。
でも、それを記録してるうちに、“気づいてほしい場所”なんじゃないかって思えてきて」
「うん。それでいいのよ。
たぶん君の目は、誰かの“助けて”を、服越しに拾ってるの」
ミシンはそっと笑った。
「僕、これからも、たぶん目立たないです。
でも、“気づける人”にはなれた気がします。
それで……十分だと思ってます」
サーシャが穏やかに頷いた。
「じゃあ、推薦状にはこう書いておくわ。
“糸のほつれから、人の癖と弱さを記録できる訓練生。
物を通して人を見る目に優れる。──支援現場での即戦力として推薦”ってね」
「……ありがとうございます」
ミシンは、丁寧に礼をした。
それは今までのどんな報告書より、きれいに折り畳まれた一礼だった。
。
【訓練所記録 第79期生:スレッド=ミシン】
推薦先:王都支援物資管理局(制服・作業着管理部門)
補足:“摩耗の傾向記録による使用者支援”を目的とした新設職種に適性あり
教官メモ(サーシャ)
「暮らしの中に“痛みの兆し”はある。
それを拾える目は、たとえ派手じゃなくても、必ず誰かを守ってる。
──この子は、“黙って見守る”という形の支援者なのよ」