表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/48

魔力眼(緊張限定)①:覗き見る

――面談室・記録開始

面談官:マール=エトワール

被面談者:第79期訓練生 ネーヴ=アイミル

「君のスキル、“緊張状態の魔力だけが見える”という理解で間違いないかね?」


面談室に響いたのは、やや鼻にかかったマールの声。

机の上には開かれた観察記録。隣には、すでに2度読み返したネーヴの初期訓練ログが置かれていた。


ネーヴ=アイミルは、姿勢を正したまま小さく頷いた。


「はい。……魔力を持っている人だけですが、緊張すると、揺れが……こう、光のにじみみたいに見えるんです」


「ほう。視覚型魔力感知スキルは珍しくないが、“緊張”に特化とはな……」


マールは興味深げに眼鏡の奥を光らせると、ペンを走らせながら続けた。


「ただ、“緊張”は必ずしも嘘ではない。“怖い”“嫌だ”“怒ってる”でも同じ反応になるはずだ」


「……はい。だから、よくわからなくなります」


ネーヴは目を伏せた。


「相手の心がわかるようで、何もわからない。

 気づいたことを言えば、相手は驚いたり、怒ったりする。

 僕は……怖いんです。自分の見るものが、ただの“気のせい”かもしれないって」


マールは手を止め、書類から視線を外した。


「君のスキルは、活かし方次第で非常に価値がある。

 尋問補佐、裁定補助、交渉場面での観察係──

 緊張の揺れを拾えるのは“突破口”の発見につながる」


ネーヴは小さく身じろぎした。


「……でも、それは、“他人の心を覗く”ってことじゃないんですか?」


マールは、ふっと鼻を鳴らした。


「違う。あくまで“反応の兆し”を見るだけだ。

 感情を読むわけじゃない。“ゆらぎ”を捉えるだけ。

 それをどう解釈し、使うかは訓練で決まる。君自身の課題でもある」


ネーヴは唇を噛んだ。

理屈は、わかる。

でも──“見てしまったこと”に責任がある気がして、いつも言葉を選んでしまう。


「……僕は、人の揺れを見て、動ける自信がありません」


「その自信のなさも、“相手に何を見ているか”に自覚がある証拠だ。

 君の観察力は信頼に足る。あとは、それを“使う”覚悟を育てるだけだ」


マールは書類を閉じた。


「まずは、“揺れる場面”を実地で見る。そこからだ。訓練に入ろう」


ネーヴはゆっくりと立ち上がる。

その目には、わずかな迷いがあった。

【訓練所記録 第79期生:ネーヴ=アイミル】

スキル名:魔力眼(緊張限定)

分類:視覚型感応スキル/魔力反応読取型(限定条件付き)


初期面談ログ

魔力保有者に限定されるが、“緊張時の揺れ”を視覚化できる

嘘とは限らないが、“反応の瞬間”を捉えることで補佐的価値あり

本人は判断を避ける傾向が強く、解釈と運用への不安を持つ


教官メモ(マール=エトワール)

「彼のスキルは“読心”ではない。

 しかし、“心が揺れる瞬間”を切り取る力は確かにある。

 それは判断材料であり、感情の引き金でもある。

 この力をどう扱うか──“冷静さ”が試される訓練になるだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ