経路図作成(通気口限定)③:みちを読み解く
――最終面談・推薦調整記録
記録官:ゼルド=クロイツ
「ギルド探索部門、受けてみたいと思います」
そう言ったトーキ=スリットは、いつになくはっきりとした声を出していた。
面談室にいたのは、ゼルド、そして推薦調整のため同席していたシュロ=ハーン。
「へえ……てっきりインフラのほうに行くんかと思っとったで」
「最初はそのつもりでした。
でも、訓練所でいろんな場所を歩いて、資料館の地下を調べて……思ったんです」
「思った?」
「“知らない構造を読み解くこと”って、誰かがやらなきゃいけない仕事なんだなって。
僕がやれるなら、それが一番役に立つ場所で働きたいなって」
トーキは言葉を選ぶように、一つひとつ丁寧に続けた。
「通気口なんて、普通は誰も気にしない。でも、僕はずっとそれを見てきた。
“誰も気づかない道”を描けるって、自分の価値なんだと思えました」
ゼルドは、ゆっくりと頷いた。
「意志のある選択だ。推薦状に反映する。“構造把握・経路予測適性あり”。
“補足可能範囲を超えて運用価値あり”の一文も添える」
「補足……?」
「通気口、という範囲に限定されてはいるが、君の応用力はその制限を上回っている。
探索支援における“経路の理解者”として推薦に足る」
シュロも、トーキの地図を覗きながらうなずいた。
「ほんまやで。通れる道がわかるって、ダンジョンじゃ命に関わる。
あんたのスキル、だいぶ貴重や」
トーキは、わずかに目を伏せたあと、照れくさそうに笑った。
「……ありがとうございます。
でも僕、あくまで“調べるだけ”の人間なので、
誰かが通れるように、道を残しておきたいだけなんです」
ゼルドは、静かに記録紙に一文を書き込んだ。
「“通らなくても、道を知っている者”──それは、導く者と同義だ」
【訓練所記録 第79期生:トーキ=スリット】
スキル名:経路図作成(通気口限定)
分類:空間構造解析型スキル
進路決定:王国ギルド探索部門推薦・補佐枠(構造班)
最終評価メモ
志望動機:実務向き職種を希望していたが、訓練中に適性の広がりを自覚し進路転換
適正評価:空間認識力・環境変化感知力・記録精度いずれも高水準
推薦文:ギルド探索部門向き。ルート構築・迷宮補佐において高い適応力を有す
教官メモ(ゼルド=クロイツ)
「このスキルは、目立たず、叫ばず、ただ正確に空間を描く。
だが、“道を知っている”ということは、誰かを導くことと同じだ。
彼は決して先頭に立たない。だが、その後ろには常に“帰れる道”がある」