表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/48

経路図作成(通気口限定)①:道しるべ

――面談室・記録開始

面談官:ゼルド=クロイツ

被面談者:第79期訓練生 トーキ=スリット

「……スキルは《経路図作成(通気口限定)》です」


少年は、面談室に入るなり椅子に深く座り、そう静かに告げた。

姿勢は真っ直ぐ。声も明瞭。けれど感情の起伏は最小限。


ゼルドは手元の記録紙に書き込みながら、眼鏡越しに一瞥をくれる。


「通気口限定、というのは、どういう制限か。明確に」


「建物内部にある通気口、あるいは換気経路──

 その“おおよその配置”と“空気の通り方”がなんとなくわかります。

 現場を歩けば、図にできます」


「地図精度は?」


「人に渡して使ってもらえる程度には。

 施工会社の人に“設計図より当たってる”って言われたこともあります」


「ふむ」


ゼルドはメモを取る手を止めずに、小さく頷いた。


「来所理由。正直に」


「……応募しても、落ちるからです」


「ふむ」


「求人には“通気設計に明るい方歓迎”とか“設備保守経験者歓迎”とか書いてあるのに……

 “スキル名が伝わらない”“意味がわからない”って言われて。

 説明しても、“それって便利なんですか?”で終わることが多くて……」


「では、マイスキに何を求める?」


「……ちゃんと“伝わる場所”に推薦してほしいです。

 実力はあるって、自分でも思ってます。でも、それだけじゃだめみたいで」


ゼルドは筆を止め、トーキを見た。


「理解はしている。自己評価に根拠もある。いい傾向だ」


そのタイミングで、面談室のドアがノックされた。


「ゼルドー、ちょっといい?地下資料館の通気見てくれるって子、ここ?」


顔を覗かせたのはカリナだった。


「そう。彼がトーキ。通気口経路作成スキルを有する」


「へぇ……君、地下の構造とか読めるの?」


「ある程度なら。図に起こすのも、得意です」


「それ、警備系でも便利だな……配置とか導線とか、使える場面多そうだ」


今度は背後から、工房服姿のシュロがひょこっと顔を出す。


「わしらのほうでも、古い空調の通りが気になっててな。ほっとくと粉塵が舞って危ないんや」


トーキは驚いたように2人を見たあと、小さく口を開いた。


「……こんなにすぐ、“わかってもらえる”と思ってませんでした」


ゼルドは即座に返す。


「ここは“わかる者が集まる場所”だ。通気を見てきたまえ。君が得意な環境は、すでにある」


「……ありがとうございます」


静かにそう答えたトーキの目には、

少しだけ、張り詰めていたものがほどけたような色が宿っていた。

【訓練所記録 第79期生:トーキ=スリット】

スキル名:経路図作成(通気口限定)

分類:環境構造認識型/補助支援スキル(インフラ・警備系特化)


初期面談・観察メモ

能力:通気構造の把握および図面化。構造予測・再構築に応用可能

認識:本人の実用性理解レベル高。就職活動での不適合経験あり

対応:現地実地訓練にて、価値を“視える形”に転換予定。ギルドまたは自治体推薦視野


教官メモ(ゼルド=クロイツ)

「“使えるスキル”が“伝わらない”という悲劇は、マイナースキル持ちに最も多い。

 だが、彼はそれに挫けなかった。“見てもらえる場所”を求めた。

 我々が為すべきは、記録と証明によって“価値”を可視化することだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ