雑記 サーシャと子供たち
――「これは、サーシャのとある休日」
休日の朝。
訓練所の台帳には、教官サーシャ=ベルモンドの姿がなかった。
けれど彼女は、ちゃんと“いつもの場所”にいた。
王都郊外の小さな施設。
木造の建物には、笑い声と足音が満ちている。
「サーシャ先生、おんぶ!」「わたしのくつ下見てー!」
「ちょっとまってね〜、順番にやるからね〜!」
子供たちに囲まれて、サーシャは忙しく立ち回る。
エプロン姿でミルクを温めたり、手洗い場で袖をまくったり。
でも、その表情はとても自然で、あたたかかった。
「ほんと、サーシャさんには助けられてばかりです」
保育士の先生が言った。
「いえいえ、私はほんとに……できることしか、できてませんから」
「それを“続けてる”のがすごいんですよ」
サーシャは笑って、少し照れたように鼻をかいた。
「……昔ね。私も、ここで育ったんです。
だから、“少しでも”って思って。
温かいごはんとか、お風呂とか──そういうの、思い出に残るから」
湯沸かしの鍋を見ながら、
サーシャは手のひらでミルク瓶をくるりと回した。
「熱すぎると、赤ちゃん泣いちゃうでしょ?
でもぬるすぎても、飲んでくれない。
だから……この“ちょうどよさ”が、大事なのよね」
手を拭いたサーシャが、最後に残っていた赤ちゃんの髪を、
そっと撫でた。
「みんな、強くならなくていいの。
笑っててくれたら、それで、いいのよ」
その言葉に返事をする者はいなかったけれど、
小さな寝息が、満足そうに響いていた。