雑記 配属当初のシュロくん
――「手伝われるの、苦手やねん」
食堂の片隅。
訓練生の夕食が終わり、片付けが進む時間。
教官たちがそれぞれマグカップ片手に集まっていた。
「──でね、“ひとり上手”の子、ずいぶん雰囲気が変わったのよ」
サーシャが、にこにこと目を細めて、隣のカリナに視線を送る。
「ふーん。あの子、最初はずっと壁際にいたんでしょ?」
「そうそう。でも、最近はちょっとずつ、自分から声をかけるようになってて」
「……へえ」
カリナが頷いた直後、サーシャの視線がふっと向きを変えた。
「──あの子、昔のシュロくんに似てない?」
「や、やめてくださいよ……」
マグを持っていた手がピタリと止まる。
向かいに座っていたシュロは、バツが悪そうに苦笑いした。
「そない、僕……そんな感じでしたかね……?」
「うん、そんな感じだったわよ~」
レオンがにやにやしながら口を挟む。
「“俺ひとりでやった方が早い”って顔に書いてたし、
“任せとけ”って空気出してたのよ〜。ね、ゼルドちゃん?」
「記録上は“報連相に難あり”と分類していた」
「うわ、記録残ってる!?」
シュロは額に手を当てる。
「……いや、まあ、正直……誰かに手を出されるの、ちょっと苦手でして。
自分でやった方が、気が楽やと思ってたんですけど……」
「ね。手伝われるの、苦手やねんって顔してたもん」
サーシャがにっこりと笑う。
「でも、それが悪いわけじゃないのよ。
大事なのは、“今”誰かに手を貸してあげられるかってこと」
「……そう言ってもらえると、助かります」
「今のシュロくんがモノくんを見てるの、なんだか安心するのよね。
似た空気だからこそ、丁寧に見てるっていうか」
カリナも、少しだけ口元をゆるめて頷いた。
「彼、“任せたくなる”手つきしてたわよ。細かくて、正確で──しかも、黙ってても進む」
「そういう子こそ、“任せっぱなしにしない”のが教官の仕事やなって、改めて思いましたわ」
最後にそう言ったシュロの声には、照れと、少しだけ誇らしさが混じっていた。