ひとり上手③:一人の強さは誰かのために
――訓練所・記録更新日
記録官:シュロ=ハーン
「おう、ちょっとええか? 最後の確認や」
訓練棟の外、夕方の木陰。
訓練が終わったあと、モノ=ヒトリボッチはシュロに呼び止められた。
「はい……?」
「実習評価は上々や。モノくんの集中力と作業精度は、ギルドでも通用する。
それだけにや、改めて聞かせてほしい。
“ひとり上手”──このスキル、君にとってどういうもんや?」
モノは、少しだけ視線を落とした。
一言では言い表せない時間が、彼の中にあった。
「……最初は、“一人でしかできない”って、そう思ってました。
誰かと一緒にいると、失敗するし、変に思われるし……
それなら、最初から一人の方が、いいって」
「けど、今は違う?」
モノはうなずいた。
「一人が悪いことじゃないって、わかって。
でも、“一人でいる”と、“一人にされる”って、ちがうんですね。
あの作業のとき、手伝ってもらったことが──うれしかったんです」
「ほう……“うれしかった”か」
「はい。……でも、いちばんうれしかったのは──
“僕の作ったものが、誰かの役に立った”って、思えたことです」
シュロは、ニヤッと笑った。
「ええこと言うやん。
それやったらもう、“ひとり上手”やのうて、“ひとり前”やな」
モノは思わず小さく笑って、それから照れたように下を向いた。
【訓練所記録 第79期生:モノ=ヒトリボッチ】
スキル名:ひとり上手
分類:集中型スキル → 対話適性付き共同作業対応可
最終評価メモ
内面的変化:自己認識の肯定傾向、他者との協力意欲に改善傾向あり
チーム内ポジション:設計・細工など“任せて安心”な単独パートに適性
将来候補先:ギルド制作部門/少人数職場/個人工房運営候補
教官メモ(シュロ=ハーン)
「“一人が好き”って気持ちは、変えんでもええ。
ただ、“一人でしかできない”と信じ込むのは、もったいないわな。
この子はもう、“一人の強さ”を“誰かのため”に使える段階に来とる。
それができるようになった時点で、立派な“一人前”や」