ひとり上手②:集中するということ
――実技訓練・共同作業観察記録
記録官:シュロ=ハーン
「モノくん、ここの組み立て、一人でお願いできるか?」
班のリーダー格の訓練生が、ためらいがちにそう声をかけた。
訓練内容は、木工での小型棚の製作。
四人一組の作業だったが、モノ=ヒトリボッチは、班に入りきれていなかった。
──自分は、チームで動くのが苦手だから。
その理由を、自分自身がいちばんよくわかっていた。
「……やってみます」
その声に驚いたのは、周囲の訓練生たちだった。
それまで彼は、必要最低限しか口を開かなかったのだ。
モノは、手渡された部品と工具を抱え、作業場の端に座った。
目線を遮るパーティションと、最低限の照明。
それだけで、彼の世界は変わる。
カン、カン、カン。
誰の声も届かない。視線も感じない。
木の繊維に、音に、手の中の道具に、ただ没入する。
「できた……」
モノが立ち上がったとき、周囲はすでにざわついていた。
班の他の訓練生たちが作業に手こずっている中、
モノのパーツだけが、明らかに精度が高かったのだ。
「うわ……これ、ピッタリ合ってる。ていうか……すごいな」
「マジで一人で全部やったの……?」
シュロは少し離れたところでそれを見て、口の端を上げた。
「“一人で集中する”ってのはな、こういうことや。
ほんまは、ええ道具ほど一人で使わせなあかんのや」
他の班員たちは、モノの手元をのぞき込むようにして言った。
「……えっと、その……次の工程も、お願いしていい?」
モノはしばらく黙っていたが──
「……うん。
もしよかったら、その代わり……僕、あんまり説明うまくないから……
固定とか、手伝ってくれると、助かるかも」
その言葉に、班の子たちが笑った。
「いいよ、それぐらい! わたし、クランプ持ってる!」
「じゃあ俺、木ダボ取ってくる!」
チームの形が、ゆっくりと変わり始めた瞬間だった。
【訓練所記録 第79期生:モノ=ヒトリボッチ】
スキル名:ひとり上手
分類:集中型スキル(単独作業適性)→ 共同作業内パート最適化傾向
実技訓練観察
班内作業:視線・環境調整により集中スイッチ発動を確認
結果:班内トップの精度/周囲からの信頼向上あり
発言:少数だが自主的な協力依頼があり、初の“対等コミュニケーション”成功
教官メモ(シュロ=ハーン)
「“一人が得意”っちゅうのは、チームの中で浮くいう意味やない。
“任せて安心”って思ってもらえたら、それだけで居場所になるんや。
モノくんの作業は、もう“孤立”やのうて、“信頼”やったで」