ひとり上手①:ヒトリボッチ
――面談室・記録開始
面談官:シュロ=ハーン
被面談者:第79期訓練生 モノ=ヒトリボッチ
「……で、何ができるんや?」
開口一番、面談官のシュロ=ハーンは椅子にどかっと座りながらそう聞いた。
モノ=ヒトリボッチは少しだけ間を置いて、小さな声で答える。
「……一人で、何かを、作ったり、組んだりするのが、得意です」
「ふむ。具体的には?」
「紙細工、裁縫、木彫り……あと、ちょっとだけ、金属細工も……。
一人で黙ってやってると、集中できて、手が止まらなくて」
「ほう」
「でも、誰かに見られると、気が散って……
班で作業すると、集中できなくて……それで、前の職場は……」
そこまで話して、言葉が小さくなる。
「……ああ、無理せんでええ。誰にでも“向かん場所”はあるもんや」
シュロは笑った。
「“一人のほうがええ”ってことは、“一人でしかできん”ことがあるっちゅうこっちゃ。
せやけどな──それを“みんなの中で”どう活かすかが、訓練や」
モノは顔を上げた。
「え……でも、そんなの、できるんですか?」
「おう。実技訓練で、やらせてみたらわかるやろ」
シュロは机の上に置かれた道具箱を、軽く叩いた。
「次からの課題やがな──“チーム作業の中で、あえて一人に任せる”ってパターンで試してみるで。
“誰にも見られずにできる環境”も、こっちで工夫したる。心配せんといてええ」
モノは、それを聞いて少しだけ目を見開いた。
「……ありがとうございます」
その言葉の裏には、「見られずに、ちゃんとできる場所がある」という安堵があった。
【訓練所記録 第79期生:モノ=ヒトリボッチ】
スキル名:ひとり上手
分類:集中力特化型スキル(単独行動時限定)
初期面談・観察メモ
効果:一人での作業中、集中力・作業精度が顕著に向上
弱点:視線や声かけにより集中が大幅に低下/対人時のパフォーマンス差大
傾向:自己否定的傾向/過去に“協調性不足”を理由に孤立経験あり
教官メモ(シュロ=ハーン)
「一人で“できすぎる”子ってのはな、周囲が追いつけへんのや。
その結果、協調性がないように見える。
けどそれは“合う環境がなかった”だけや。
彼には、“黙って集中できる場所”をまず作ったげなあかん。
そこから始めたら、きっとチームに還元できる力になるで」