勇者③:周りから求められる役割がすべてじゃないって話
――模擬訓練・連携評価記録
記録官:ヴィス=ノア
「セイルくん、私が前に出るから、サポートお願い!」
「りょ、了解です……!」
初めて“誰かと一緒に戦う”日だった。
模擬訓練、2人1組での対ダミー戦。
セイルの相棒は、前衛型の訓練生・タリア。
彼女は素早くて、剣の振りも鋭い。でも少し、動きが荒い。
セイルは、離れた位置から全体を見て、タイミングを見計らって叫んだ。
「回り込んできてる! 右、注意して!」
「わかった!」
その一言で、タリアはダミーの攻撃をギリギリでかわし、反撃に転じた。
「……あれ?セイルくんの声、結構聞き取りやすい」
「えっ……ほんとに?」
「うん。落ち着いてるし、ちゃんとタイミング合ってる」
「よ、よかった……!」
自信なさげに笑うセイルに、タリアが笑い返す。
「最初“勇者”って聞いて構えたけど──
“支えてくれる勇者”って、正直、めちゃくちゃ助かるね」
セイルは言葉に詰まり、それから、少しだけ背筋を伸ばした。
「……俺、誰かの背中を守るなら、頑張れる気がします」
訓練後、ヴィスが手元の記録に追記していた。
──連携適性:B+
──指示のタイミングと内容に信頼性あり
──“突出しない勇者”として、チーム支援における安定運用候補
「セイル」
「は、はい!」
「修了後の希望先、整理する。ギルド所属希望?」
「はい。できれば、チームで支援役として活動してみたいです」
「了解。推薦に入れる。“支援適性あり”。“勇者”肩書きに依存しない評価を記載」
「……ありがとうございます」
「そのスキル、使い方しだいでは誰よりも厄介になる。
“伝説の存在”じゃなく、“隣にいて安心される勇者”──
それができるなら、お前は間違いなく本物だ」
誰かのためじゃない。
「自分がそうありたい」と思えたことが、
セイル=ミナズキにとって、何よりの救いだった。
彼はもう、《勇者》という肩書きに押し潰されてなどいなかった。
【訓練所記録 第79期生:セイル=ミナズキ】
スキル名:勇者
分類:複合平均型 → 支援型適応/後衛指揮候補
最終評価メモ
単体能力:平均C+基準。突出値なし
行動特性:冷静な状況判断/連携信頼性高/支援継続能力◎
推薦内容:「肩書きに縛られない視点と支援型思考」を評価。ギルド所属向き
教官メモ(ヴィス=ノア)
「“勇者”の定義を外せたとき、この訓練生はようやく自分の道を見つけた。
“人の背中を守る者”としての勇者は、前に出る者よりも遥かに頼もしい。
この子が次に誰と出会うかで、このスキルはさらに深く掘り起こされていくだろう」