勇者②:チームを引っ張っていく人格にされること多いよねって話
――訓練記録・基礎期間抜粋
記録官:ヴィス=ノア
訓練は、想像以上にきつかった。
朝は外周。昼は基礎剣術、魔力操作、回復呪文の基礎詠唱──
夜は生活訓練で寮の掃除、洗濯、翌日の準備。
「……勇者って、こんなに地味なんだっけ……」
ぼやきながら床を拭いているセイルを、誰かがふと見てつぶやいた。
「でもさ。あの子、ちゃんと毎日来てるよな。
ヴィス教官に何言われても、止めずにやってる」
「あの“外周10周”の人?えっ、まだ続けてんの?」
「あの距離、走ってるの見たときちょっと感動した……ていうか、勇者って根性タイプ?」
「え、なんかちょっと……応援したくなってきたかも……」
そんな声が、本人の知らないところでぽつぽつと出始めていた。
ある日、訓練終わり。
ヴィスは無言で、セイルに紙の束を手渡した。
「……これは?」
「個別評価表。初動反応、集中持続、会話速度、協調傾向、訓練継続率──」
「や、やけに細かく出てる……」
「全てC+〜B−。突出はなし。ただし、“参加率”と“自己調整力”のみ、A」
セイルはそれを見て、思わず呟いた。
「……器用貧乏、ですね、ほんとに」
「違う。“長く続けられる力”は、戦場で最も価値がある」
「……え?」
「他人を支える者は、耐久と判断と継続が命。前に出る者が倒れたとき、残っている者がすべてを背負う」
「俺……そんなタイプ、だったんですか?」
「最前線ではなく、支援と管理、戦況の整理に向く。
《勇者》は、“導く者”ではなく、“寄り添う者”として活きる場合もある」
セイルは目を瞬かせた。
「……なんか、そういう風に言ってもらえたの、初めてです」
「だから記録に残す。“勇者、支援適性あり”。
今後、訓練内容に戦術支援・状況判断・連携訓練を加える」
「……よろしくお願いします」
その声には、小さく、でも確かな“自分の意志”が宿っていた。
【訓練所記録 第79期生:セイル=ミナズキ】
スキル名:勇者
分類:複合バランススキル → 支援・後衛指揮適性あり
基礎訓練観察メモ
能力傾向:突出なし/平均値維持型/対集団耐性B相当
行動記録:訓練継続率A/自主行動・生活管理能力ともに安定
指導方針:戦術支援スキルへの転用訓練開始/状況整理と補助判断訓練へ移行予定
教官メモ(ヴィス=ノア)
「《勇者》という言葉に、誰もが“前に立つ姿”を重ねすぎている。
だが、最前線に立たずとも、戦場は支えられる。
この訓練生は、ただの平均値ではない。“崩れずに立ち続ける”という、
最も困難で、価値ある資質を持っている」