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火起こし(原始型)①:これしかない

――面談室・記録開始

面談官:カリナ=ラインベル

被面談者:第78期訓練生 アッシュ=ロート

面談室は石造りの壁に囲まれていて、少し肌寒い。


向かいに座る少年──アッシュ=ロートは、テーブルの端をじっと見つめていた。


「えっと……何か資格とか、技術とか……?」


カリナが問いかけると、アッシュは少し口をもごもごと動かしてから、蚊の鳴くような声で答えた。


「うん、それはまあ、あるにはあるけど。役に立たないっていうか……」


「差し支えなければ、具体的に教えてもらえる?」


「……火、起こせます」


「火?」


「はい。あの、摩擦式でも、打撃式でも。あと、湿度高くてもなんとか。薪の組み方とかもわりと詳しいです」


カリナの眉がわずかに動いたが、すぐに口元を引き締めて頷いた。


「……ええと、それはつまり、“原始的な火起こしスキルに特化している”という理解でいいかな?」


「はい。自分でもなんでそのスキルにステ振りしたのかわからないですけど、生まれつきの資質みたいで……でも、魔法も使えないし、戦えないし、便利屋にも断られてて……」


「ふーん」


彼女は肘をついて頬杖をつきながら、軽く指を鳴らした。


部屋の隅にあった薪を指差し、補助魔法で空気を暖める。


「ちょっと見せてくれる? 実演」


「えっ、ここで……ですか?」


「ここだからでしょ。うち、そういう訓練所だから」


促されるまま、アッシュは小さく頷いて、薪を手に取った。


ポーチから取り出したのは──削り出された木の棒、火打石、麻くず。


彼の手つきは滑らかで、迷いがない。


磨耗した棒の先を麻くずに当て、一定のリズムでこすり続ける。


……数十秒後、ほんのかすかに、煙が立ち上った。


「……火が……つきました」


「へぇ。早いじゃない」


その目には、わずかな誇らしさが浮かんでいた。


だがそれも束の間、アッシュはすぐに目を伏せる。


「でも……これしかないんです。これだけで、生きていけるとは思えなくて」


カリナは少しだけ笑った。


けれどそれは、嘲りではなかった。


「アッシュくん、ひとつだけ聞かせて。火って、何に使うものだと思う?」


「えっ……料理とか、明かりとか……あと、暖を取るとか……」


「うん。じゃあ、その火を“起こせる”って、実はすごく大事なことだって、言われたことある?」


「……ないです。むしろ“いまどき火起こしって”って、笑われたことはあります」


「じゃあ、言わせてもらうね。アッシュくん。この訓練所に来たのは──正解だよ」


「……え?」


「火を扱える者は、文明の始まりを担う。


“今どき”ってのは、あくまで“都市の今どき”でしかない。


外に出れば、電気も魔法も通じない土地なんていくらでもある。


そんなとこで、“火を起こせます”って言える人間が、どれだけ頼りになるか。……わかる?」


アッシュはしばらく黙っていたが、やがて、ほんの少しだけ笑った。


「……そんなふうに言ってもらったの、はじめてです」


「ここは“そういうやつら”が集まる場所だから。


あんたの火、ちゃんと見せていきな」

【訓練所記録 第78期生:アッシュ=ロート】

スキル名:火起こし(原始型)

分類:環境依存・実技系スキル(基礎生活・サバイバル補助枠)


初回面談・実技確認結果

火起こし成功までの所要時間:38秒(高湿度条件下)

薪の組み方・燃焼効率に対する知見:実践値高

器用度:C/集中力:A

メンタル状態:やや不安定、過去に否定経験複数あり


評価官メモ(記録教官:カリナ=ラインベル)

「技能の精度は高い。ただし、本人が“スキルの価値”を信じきれていない。

 訓練環境内での他者活用シーンを通じて、自己効力感の形成を促したい」

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