六時半ごろ
掃除が終わると、朝食の支度だ。
あと少しがんばれば、食べ物にありつける。
残念ながら私には、しもべはいない。
がんばれ、わたし自身。
夫はまだグーグー寝ている。
仕方ない。夜遅くまで仕事しているのだから。
そう言えば、誰かの言葉にかぶれたのだろうか。夫が珍しくがんばって朝食を作ってくれた時もあった。
が、私は素直に喜べなかった。
どうだ、うまいだろう、と言わんばかりな態度だったから。
もちろん私の料理なんて、素人料理ですよ。
しかし、夫の料理は、それ以下だ。
いやいや、問題はそこではない。
毎日の、私の労苦に対してのねぎらいがちょっとでもあれば、気持ちが和らいで素直になれるのに。
たった一言、「毎日おいしいよ、ありがとう」とだけでも。
お犬様の世話にしても。
気が向いた時に、ごくごくたまの散歩。
いやがるのを引き寄せて撫でる。
それで夫は世話をしていると思っている。
自分こそが正当な飼い主だと思っている。
だから、お犬様が夫を避けて私にばかり寄ってくるのが気に食わない。
当たり前だ。
犬も子どもも、お金を出せば喜ぶというものではない。
体を張って汚れをきれいにしてやり、食べさせて、遊んで。
時間と体力と気力を捧げて、安心して快適に暮らせるように心を配らねば。
こっちの本気が伝わらねば、本気で愛着してくれるものか。
果物を切り、ヨーグルトをよそい、汁物を作り、卵を割る。
ここでお犬様は台所に顔をお出しになる。
果物や野菜を切る度にカケラを味見するのも、お犬様の数少ない大事なお仕事だ。
一度味見させてしまったが最後、それがルーティーンと化してしまった。
弱腰外交の典型である。
玉ねぎ、ねぎ、ぶどう、イチジク。
種族的に避けねばならない食物もあるが、それ以外はほとんど食べられるらしい。
出せば出しただけ、いくらでも召し上がるが、そんなことをしていたらお腹を壊してしまう。
「もうないよ」「おしまい」と何度も説得されて、やっとしぶしぶクッションに戻っていく。