五時二十分まで
四時四十分に一つ目の目覚ましが鳴る。
手探りで目覚ましを止める。
もう一つの目覚ましは四十五分に鳴るようになっているが、そっちも止める。
目覚ましを二つも止めると、だいたい起きられる。
起きたくはないのだが、ぐぎぎと体をひねって、うつ伏せになり、尺取虫のように足から体を縮めて、背中で掛け布団を持ち上げる。
脳内には、海面を勇壮に持ち上げるクジラの映像が流れている。
枕元に準備しておいた着替えを、枕の上に置き直して、のろのろと着替える。
だいたい血圧が低いので、朝は弱い。
目覚ましが鳴るのと同時に飛び起きて、ぱっと着替えて動き始められるのなら、もう少しゆっくり寝ていられるはずなのだが、仕方がない。
着替えてトイレを済ませると、二階の寝室で一緒に寝ているお犬様を起こす。
布団は別々なのだが、雷雨の夜は一緒の布団で寝ていたりする。
雷も、ひどい雨もお犬様の大敵だ。
お犬様は、ちょっと撫でるとけだるく薄目を開けて、めんどくさそうに「ほら、撫でるがよい」と腹を見せる。
撫でさせていただくが、いつまでもそうしているわけにもいかないので、抱っこして階段を下りる。
お犬様は自分では階段を下りられないのだ。
一階に下りると、お犬様は居間のソファーの上の、一番いいクッションの上にそっと鎮座いただく。
そして、暑い夏はすぐにクーラーを入れる。
鈍感な人間には耐えられる気温でも、お犬様には耐えられない。
敏感なやわはだをかゆがって舐めはじめたり、はっはっと舌を出して喘ぎ始めたりするから、しもべにも察しがつく。
しもべは一杯の水を飲むと、洗面所で洗濯物と洗剤を洗濯機に入れてスタートボタンを押す。
それから、自分の顔を洗い、帰ってきた時の準備をしておいてから、居間に戻る。
お犬様はすぐに勘づいて、じいっとこっちをご覧になる。
はいはい、そのとおり、お散歩でございます。
気が逸って、ソファーから飛び降りようとなさるので、すかさず抱っこして抱き下ろす。
それならソファーに載せなければいいのだが、こっちが載せないと、自力で飛び乗ってしまう。
それは、お犬様のやわな膝関節によくない。
買い替えたばかりの新しいソファーを死守すべく、あらゆることを試したこともあったが、今ではお犬様のためにソファーに上がる段差の低い階段まで設置している。
階段を使ってくださることもあるが、たいてい無視される。