ときめきは、全人類共通です。
医務室のベッドに座りながら、長井は看護課長の桐谷の前でうな垂れている。
桐谷「何事もなくてよかったね~」
長井「すみません……お騒がせしました……」
桐谷の苦笑いの顔の前で、長井は何度も頭を下げる。
長井<一時はどうなることかと思いましたが、薬を飲んで少しベッドで寝たらすっかり落ち着きました。これも犬山君のおかげではあるけれど……>
気まずそうな表情で辺りをきょろきょろする長井。
長井「あの……犬山君は?」
桐谷「なんか、しらばくパニックになってたけどね。こっちで対応するからって言ったら、待機に戻ったよ」
長井「そうですか。あの、他の職員とか利用者さんは見てないですよね?」
桐谷「ん~、周囲に見かけなかったし大丈夫じゃないかしら」
長井<頼む、誰にもバレないでくれ~! 絶対冷やかされる、気まずくなる、鮫島さんにさらに目をつけられる……!>
桐谷「でもすごかったわよねぇ。まるでドラマみたいだったねぇ」
いつもは気難しい顔をしている桐谷も、どこか嬉しそうに興奮している。
長井「だ、誰にも言わないでくださいね!」
桐谷「分かってるわよ~」
そう答えつつ、まだにやにやしている桐谷。長井は不安が募る一方。
長井<本当に分かってんのか⁈ はっ! ていうか、1番重要な犬山君を口止めしないと……!>
長井「あの、ほんとご迷惑おかけしました! 私、急いで戻らなくちゃいけないので……失礼します!」
長井は医務室から慌てて飛び出していく。
その後ろ姿を見つめながら、桐谷がにこりと笑いながら呟く。
桐谷「若いっていいわねぇ……」