表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
一、野分。 (のわき。夏の終わりの頃、雨とともに吹く暴風。台風)
4/42

(四)

 「で? 逃げ出してきたの?」


 ボクの腰かけた枝より少し下、ガッシリとした枝の根元に座ったカリガネが言った。


 「逃げ出したんじゃない。ちょっと休憩に来ただけだ」


 ムッとして口を尖らす。そう。今はちょっとアイツのそばを離れただけ。


 「それを〝逃げ出した〟って言うんだよ。もしくは、〝放置してきた〟」


 どう言いつくろっても、やってることは同じ。だから、よけいにムッとする。


 「あーあ。オイラ、人の子ってヤツが見れるのかって楽しみにしてたのになぁ」


 残念がったのは、カリガネの座る枝の先に、チョンとしゃがんだノスリ。時折体を揺らし、枝をたわませるもんだから、カリガネが落ちないように身を幹に沿わす。


 「こうやって集まるのにさ、ハヤブサが抱っこでもして、連れてくるかと思った」


 「するわけないだろ。そんな赤子じゃないんだぞ?」


 鳥人で、抱っこされて移動するのは、翼のそろわない赤子だけ。鳥人は歩くよりも早く、空を飛ぶことを覚える。だから、枝を揺すられて、ビビってるカリガネの反応のがおかしい。空、飛べるんだから怖くないだろ? ふつうは。


 「でも、その人の子ってのは、翼を持ってないんだろう? だったら、移動するには、ハヤブサが、抱っこするっ、しかないじゃない、かっ!」


 面白がってノスリが枝を大きく揺らすもんだから、カリガネは座ってるどころじゃなくなって、幹にしがみついてる。話す声だって叫びに近い。そんなに怖いなら、軽く飛んで、別の枝に座ったらいいのに。


 「ボクは、父さんからアレの世話は頼まれたけど、それ以上のことは頼まれてない。着替えもさせたし、キレイにしてやった。メシも食べさせたし、寝床も用意してやった。お世話っていうのなら、それで充分だろ」


 「ええーっ」


 納得しない二人。カリガネは眉を下げ、ノスリはブーブーと口を尖らす。


 「ボクだって、少しぐらい息抜きしたいんだよ」


 ボリボリと頭をかく。


 「だってさ、アイツ、父さんがお世話しろって言ったのを聞いてたのか、ずっとボクの後ろを付いてくるんだぜ?」


 「ずっと?」


 「ずっと。ボクが食事をする時も、着替えの時も。なんなら(かわや)にも付いてくる」


 「ゲッ」


 ノスリが息をのんだ。

 

 「み、水鳥の子どもみたい……だね」


 カリガネが言いつくろう。

 まるで、親鳥の後をどこまでもついてく、ヨチヨチのヒナ鳥。


 「ヒナ鳥なら、かわいいかもしれないけど、相手は人の子だぞ? かわいくもなんともないよ。ただただウルサイ。面倒くさい。ジャマ」


 たとえ、かわいいヒナ鳥であっても、(かわや)にまで付いてきてほしくない。用を足す時ぐらい、一人でゆっくりしたい。


 「なあ、人の子って、やっぱりかわいくないのか?」


 ノスリが身を乗り出した。


 「じっちゃんが言ってたんだ。人ってのは、おっそろしい角が頭に生えてるんだって」


 こんなかんじに。頭の上に、指で角を二本作った。


 「あ、それ僕も聞いたことあるよ。口にはするどい牙が生えてるんでしょ?」


 カリガネが、自分の指で口をウイッと開いてみせた。


 あのツヤツヤの黒い髪の中には、そんな角が隠れているのか。あのノブドウを丸呑みする口の中には、そんな牙が生えていたのか。


 「そんなに見たけりゃ(やしろ)に来いよ。イヤっていうほど人の子を見せてやるよ」


 「え、いいのか?」


 「別に誰かに会わせちゃダメだって、父さんは言ってなかったし。見たかったら(やしろ)に来たらいい」


 バサッと羽根を広げ、いつもの集合場所、(つき)の木の上から飛び立つ。

 

 「おい、待てよ!」


 「わわわっ、僕も行くよ!」


 ノスリが飛び立ち、大きく揺れた枝から、おっかなびっくりカリガネも羽ばたく。


 そんなに人の子に興味があるのなら、これからは、コイツらにアレの世話をしてもらおうかな。そうしたら、ボクの負担も減って、(かわや)ぐらい自由に行けるようになりそうだし。


 そんなことを考えながら、森の空を飛ぶ。森は、倒れた木や折れた枝葉、茂った草で歩きにくい地面の上を移動するより、こうして空を飛んだほうが早く目的地に着く。飛ぶのにつかれたら、止まって休むだけの枝もたくさんある。これが人なら、暗い森の中で、何度も枝や木の根につまづき、湿った土の上では休むこともできずに苦労する。

 だから、うっそうと木々の茂る森は、空を飛べる鳥人のもの。歩きやすい平坦な野は、歩くことしかできない人のもの。

 太古の昔。神々がこの世界を作ったときにお決めになったこと。

 だから。だから、だから、だから。


 あんな、翼のない人の子なんて、ボクの妹でもなんでもないんだからな!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ