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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
六、風早。 (かざはや。風が強く吹くこと。風の激しい土地)
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(三)

 「久しぶりだな、忍海彦(おしみひこ)


 「生きて……いたのか」


 「ああ。あれぐらいの矢でくたばるほど、鳥人はヤワじゃない」


 本当は、生死の境をさまようほどのケガだったけど。悔しいから、そこはなんでもないフリをしておく。


 「それより、いいかげん妹を返してもらう」


 「……返すとでも?」


 忍海彦(おしみひこ)が、メドリの腕をつかむ手をグイッと持ちあげた。痛いのだろう。メドリが顔をしかめる。


 「返してもらう」


 自分でも驚くほど、発した声は低かった。体の底でグルッと炎が渦巻くような感覚。


 「でないと、メドリを心配した父さんが泣きすぎて、山のなかに湖を作っちまう」


 悟られたくなくて、わざと軽口を叩く。


 「どうやって?」


 忍海彦(おしみひこ)の周りにいた兵が、こっちに向かって剣をぬいた。槍を構える者もいる。そのせいで、隣に留まっていたカリガネが、ビクッと体を震わせた。ビビんなよ、カッコ悪い。

 ボクはというと、忍海彦(おしみひこ)とにらみ合ったまま、左手を軽く上げる。それから、まっすぐ前へと、忍海彦(おしみひこ)にむけて手を振り下ろす。


 「行け」の合図。


 ピィ――ッ!


 甲高い鳴き声。同時に、夜の闇のなかから、動く(かたまり)


 「うわああっ!」

 「な、なんだっ!」


 忍海彦(おしみひこ)を囲んだ兵が叫ぶ。(かたまり)は黒く大きな蛇のように、うねり、からまり、兵たちの間を縫うように、とぐろを巻くようにして動いた。


 チーチーチーチーツーチー、チーチーチーチーツーチー。

 キョッキョロッキョキョキョロロ、キョッキョロッキョロキョロロ。

 ヒンカラカラカラ、ヒンカラカラカラ。

 ピルピピルピ、ピッキキ、ピルピピルピ、ピッキキ。


 コナガやコマドリたちみたいな、小さな鳥だけじゃない。


 コロコロコロコロコロコロ、コロコロコロコロコロコロ。


 クマゲラのような大きな鳥もいる。


 ピーヒョロロロロ、ピーヒョロロロロ。


 トビのような、クチバシ鋭い鳥もいる。


 カッカッカッカッ、カッカッカッカッ。


 もちろん、大鷹(オオタカ)だっている。

 黒い蛇のような渦の一つひとつは、大小さまざまな鳥で、その先頭を飛んでいるのは大鷹(オオタカ)だった。大鷹(オオタカ)に従った鳥たちが、兵にむかって、鋭いクチバシやカギヅメで攻撃をくわえる。鋭いクチバシを持たない鳥は、翼で兵を叩き、威嚇(いかく)する。


 「うわっ!」


 忍海彦(おしみひこ)大鷹(オオタカ)のクチバシから身を守ろうとして、メドリの腕をつかんでいた手を離す。それを見逃さず、うねった鳥の群れが、メドリの体をさらった。小さな鳥の背ではメドリを支えきれないので、代るがわる交代で、メドリを担いで飛んだ。


 〝フム〟


 メドリをさらった大鷹(オオタカ)たちが、こちらに向かって飛んでくる。その動きはまるで〝軍〟。人間の軍でも、ここまで統率のとれた動きは出来ないと思う。


 「おかえり、メドリ」


 鳥たちの背に載せて運ばれてきたメドリ。軽く宙で放り投げられるように渡された彼女を、空いていた左腕で受け止める。


 「あんまり帰りが遅いから、父さんが心配してる。早く帰って、安心させてやれ」


 それだけ言うと、自然と笑いがこみ上げてきた。どうして笑ってるのか、自分でもわからない。でも、今は笑うのが正解だと思えた。


 「ハヤ……ブサ……」


 驚いたメドリの顔がくずれ、震え、わななき、そして。


 「兄さまっ!」


 大きな声を上げ、ボクに抱きついて泣き始めた。


 「兄さま! 兄さま! 兄さま!」


 泣き声が、肩から伝わる。何度もなんどもボクを呼ぶ声。

 もう片方の手で、軽くメドリの背中を叩く。


 「おかえり、メドリ」


 「無事でなによりだよ」


 ノスリとカリガネの声に、メドリがようやく顔を上げる。その顔が赤いのは、泣き腫らしたからか、それとも泣いてるところを見られて恥ずかしいのか。


 カッカッカッカッ、カッカッカッカッ。


 「……大鷹(オオタカ)、無事だったの?」


 メドリが驚いた。大鷹(オオタカ)は、二度と飛べないかもしれないってぐらいの大ケガだったのだから、メドリが驚くのも無理はない。


 カッカッカッカッ、カッカッカッカッ。


 「『ワシは、あれぐらいでくたばりはせぬ』って言ってる」


 カッカッカッカッ、カッカッカッカッ。


 「『姫のためなら、どこまででも飛んでいく』だってさ」


 「大鷹(オオタカ)……」


 大鷹(オオタカ)がいつものように、メドリの肩にとまる。メドリが、その灰黒色した翼に涙にぬれた頬を寄せると、大鷹(オオタカ)がグルッと喉の奥を鳴らした。

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