表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
四、風巻。 (しまき。激しく吹き荒れる風。雨や雪を混じえて吹く風)
27/42

(六)

 ――だから申したではないか、(おさ)! 人の子など迎えたら、ロクなことにならぬと!


 誰かの声が聞こえる。


 ――哀れに思って助けるのはよい。だが、その後は人の里に返せばよかったものを。

 ――なぜ、あれを娘として迎え入れたのです、(おさ)


 誰だ? 誰が父さんを責めているんだ?

 ボンヤリした意識のなかで、その声を聞く。

 声は複数あって、そのどれもが父さんを強く非難する。


 ――人の子など災いのもと。

 ――あの娘のせいで、若が射られることになってしもうた。


 娘とはメドリのことか。

 人が軍を引き連れ、森を襲ってきたことに腹を立てているんだろう。メドリを拾って、メドリを娘にしたから襲われた。メドリさえいなければ、こんなことにならなかった。


 ――あの娘を、とっとと人に渡してください! そうすれば、人は去っていく!

 ――翼を持たぬ娘など、この森にはふさわしくなかったのじゃ!


 待て。

 メドリがこの森にふさわしいかどうかなんて、誰が決めるんだ。

 胸の奥に熱く渦巻くような感情が沸き起こる。

 そりゃあ、メドリは翼を持たない人の子だ。空を自由に飛ぶこともできなければ、翼にくるまって寝ることもできない。

 けど、だからって、森にふさわしくないってなんだ? メドリは、誰よりも小鳥たちに好かれているし、翼の代わりになる大鷹(オオタカ)とも仲良くなった。

 人の子など災いのもと? メドリが何をしたっていうんだ? メドリは普通に、静かにこの森で暮らしていただけだ。それを勝手に取り戻すとかなんとか言いがかりをつけて、襲ってきたのは〝人〟だ。メドリの責任じゃない。


 どうしようもなく、心を壊してしまうだけの出来事が、この()の子の身の上に降りかかったんじゃろうなあ。


 いつだったかイヒトヨさまに言われた、メドリのこと。

 メドリは、心を壊すほど悲しくつらいことを経験している。その壊された心が喉をふさぎ、声を出せずにいる。

 森をさまよい、ガリガリのボロボロになっていたメドリ。父さんが助けなけりゃ、とっくの昔に死んでいただろうメドリ。

 助けられてからも、ボクにだけ懐いて。笑うようになったけれど、それでも声を出せなくて。

 そんなメドリのどこが悪いっていうんだ! メドリは人の里にいて、その心が砕かれるような目に遭ったのかもしれないんだぞ? それなのに、人のもとに返せっていうのか? せっかく笑えるようになったのに。またメドリの心を砕くのか?


 以前のボクなら、鳥人に災いをもたらす人の子なんて、サッサと里に返せと叫んだかもしれない。人なんて大嫌いだ、人同士で争っても、そのせいで人の子がどうなろうと関係ない、と。

 でも今は。今は……。


 「メ、ドリ……」


 かろうじて浮かび上がってきた意識。なんとか声を絞り出してみたけれど、声というより、かすれた風のような音しか出なかった。


 「ボクが、守って……やる」


 意識が戻ってくると同時に、全身が燃えるように熱いことに気づく。熱い。どうしようもなく熱くて、体がきしむ。特に、背中が火のついたように熱い。

 息も苦しい。大きく吸いたいのにうまくいかなくて、浅く荒い息をくり返す。

 体は水底に沈んだように重く、指一本動かすことができなくて、どうにか開いたまぶたの先を見る。


 「メドリ……」


 かすむ目でとらえたのは、メドリの姿。その向こうには、見慣れたボクの室の壁。

 ノスリとカリガネが、ボクをここまで運んでくれたのだろうか。あの場所からボクを。矢を射られ、傷ついたボクを。


 大鷹(オオタカ)は、どうなった?


 あの時、矢で射られたのはボクだけじゃない。肩羽を射られた大鷹(オオタカ)のほうが、傷は重かったはずだ。

 目の前のメドリに、そのことをききたかったけれど、うまく声が出ない。あたりを見回したいけど、それもできない。目がかすむ。

 床台に横たわるボクのそばにメドリ。目を真っ赤にして、唇を噛み、肩を震わせたメドリ。

 それしかわからない。

 メドリが手に持っていた布が載せられたんだろう。痛む額にヒンヤリしたものが覆いかぶさる。

 その心地よさに、まぶたを閉じると、また意識が奥へ下へと沈んでいく。


 メドリ。

 泣くなよ。

 今泣かれても、ボクはその涙を拭ってやることすらできないんだからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ