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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
四、風巻。 (しまき。激しく吹き荒れる風。雨や雪を混じえて吹く風)
25/42

(四)

 山の斜面を駆け下りる。

 翼を使って、木々を間をくぐり抜けるように飛びながら下りていく。


 ――巫女姫を返せ?


 かつて会ったことのある〝人〟、忍海彦(おしみひこ)

 彼は、この山のどこかにあるという、人の神宝(かんだから)を捜しに来たと言っていた。具体的にそれがどんなものかが説明してなかったけど、でも、メドリのような生きている人だとは言わなかった。


 それに、もしメドリが捜している神宝(かんだから)だったのだとしたら、なぜ、あの時メドリのことを話題にしなかった? 「薄桃色の勾玉を持った、年の頃十二、三の乙女」っていうのが宝なのだとしたら、なぜ、メドリに会った時に、メドリこそが捜していたモノだと言わなかった?

 

 人が、甲虫のような黒光りする鉄の〝ヨロイ〟を身に着け、同じ鉄でできた〝剣〟や〝槍〟を持って戦う用意をしているのが〝兵〟。大勢の同じ出で立ちの〝兵〟が集まってできているのが〝軍〟。それが、山のすそ野に集まっているのだという。

 兵や軍を動かせるのは、身分ある者にしかできないと聞いた。なら、今、軍を動かしているのは、人の中でも身分の高い者。人で身分の高いヤツが何人いるのか知らないけど、そこに忍海彦(おしみひこ)は関わっているのか。


 (神宝(かんだから)を捜してるってのは、ウソだったのか?)


 そもそも、そんなモノは存在しなくて。たまたまメドリを見かけたから、それを理由に森を襲おうとしているのか? 鳥人たちの間に、人の娘がいる。あれを助ける、取り返すと言えば、大義名分が成り立つ。鳥人たちにさらわれた、あわれな少女の奪還(だっかん)。悪いのは鳥人であって、自分たちは正義なのだと。


 (チクショー。だから、人なんてものは信用ならないんだ)


 スキあらば、森に入って木々を奪い、山で獣を狩る。食べるものに困って狩りをするのならまだしも、楽しみのために狩りをすることもある〝人〟。鳥人たちが持ったこともない鉄でできた武器を持ち、時として自分たち人同士で戦い、殺し合うこともあるという残虐(ざんぎゃく)な性格の種族。

 今もこうして、メドリを口実に、森を襲おうとしている。


 〝鳥人ノ若子(ワクゴ)ヨ〟


 ボクの翼の音に、別の風を切る音が混じる。


 「大鷹(オオタカ)か」


 〝コウ森ガ騒ガシクテハ、オチオチ眠ルコトモデキヌ〟


 並び飛ぶ大鷹(オオタカ)が文句をもらす。いつもはメドリに寄り添う大鷹(オオタカ)だけど、夜だけは彼の巣に戻って眠る。だけど、森を包む異様な空気は、その眠りを妨げたのだろう。一緒に飛びながらも大鷹(オオタカ)は眠そうで、不満そうな顔をしていた。


 「人が、襲ってきたんだよ。メドリをよこせってな」


 〝メドリ姫ヲトナ?〟


 大鷹(オオタカ)の目がキラリと光った。メドリのことに関して、この大鷹(オオタカ)は誰よりも敏感に反応する。


 〝メドリ姫ハコノ森ノ宝。ソレヲ人ゴトキガ所望スルナド。身ノホドモワキマエズ、オコガマシイ!〟


 キィーッ! キィーッ!


 大鷹(オオタカ)が、翼を広げ怒った。人を威嚇(いかく)するような、鋭い声を上げる。


 ボクは、大鷹(オオタカ)と同じように、メドリを森の宝だなんて思ったことはない。ちょっと手のかかる、翼を持たない妹のようなもの。そういう認識だった。七年前、父さんがいきなり拾ってきて、ボクに預けた子ども。どういう事情があったのか、声の出せない女の子。どういうわけか、ボクにだけ懐いた女の子。

 だから、それなりに大事にしてきたし、いろいろ世話を焼いてやった。この先のことを考えれば、人の里に返してあげるのもいいかもしれない。そう思ったこともある。鳥人たちと一緒に暮らすより、そのほうが幸せかもしれない。

 だけど。


 (こんな、奪われるような形で渡すわけにはいかないんだよ!)


 メドリを連れ去って、どうするつもりなのか。

 メドリを幸せにしてくれるのならそれでいい。けど、物々しい、軍なんておっかないのを引き連れてきたヤツが、本当に幸せにしてくれるのか?

 それに、仮にメドリを引き渡したとして、そのまま素直に軍は引いていくのか? メドリはただの口実で、森を攻撃するために集まっているんじゃないのか? もしそうだとしたら、メドリは渡せないし、鳥人のみんなを守るために、ボクは族長の息子として何か手を打たなきゃいけなくなる。


 どっちにしたって、人の真意がどこにあるのか。ボクはそれを確かめたい。


 「急ぐぞ、大鷹(オオタカ)!」


 地面を蹴り、翼をすぼめて、一気に速度を上げる。

 目指すは、山のすそ野。忍海彦(おしみひこ)がいるかもしれない、人の軍。その(かしら)にあって、すべてを問いただす!

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