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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
四、風巻。 (しまき。激しく吹き荒れる風。雨や雪を混じえて吹く風)
24/42

(三)

 さて、と。


 どれぐらいムラサキの野にいたのか。月がかたむき始めたを見て、腰を上げた。歌垣(かがい)はまだ続いているようだけど、そろそろ戻らないと。いい加減、眠い。


 「メドリ、帰るぞ……って、なんだ?」


 立ち上がった途端、足の裏から感じた振動。――地鳴り?


 「わっ! ――メドリ!」


 闇に沈んだ森から飛び出してきた塊。とっさにメドリを抱え上げ、空に飛び上がる。


 ドドドドドドド、ドドドドドド……。


 「な、なんだあっ!?」


 地鳴りの正体は、いくつもの獣だった。鹿、猪、ウサギ、猿、山犬、熊。

 それらが、唸り声を上げ、ムラサキを蹴散らし、山の頂上へ向かって走り去っていく。地をはう獣だけじゃない。夜に飛ばないはずの鳥も、何かに追い立てられたかよのように、山頂を目指す。


 「――! ――――!」


 その中の一羽を捕まえ、話を聞こうとするけど、逃げるのに必死な小鳥は、どれも上手く捕まらない。普段は、メドリにまとわりつき、さえずりをくり返す鳥たちでさえ、ふり向きもせず、山の頂へと飛んでいく。


 (……? なんだ? 焦げ臭い……)


 獣たちの走ってきたほう、ふもとの方から、かすかに漂う焦げ臭さ。そこに、血のような臭いもかすかに混じる。


 (山火事?)


 それで獣たちは逃げてきたのか?

 目を凝らせば、木々の向こう、黒く染まっていたはずの場所は、どこかほの明るくなっている。


 「マズいな」


 どうして山火事が起きているのか。

 疑問はあるけど、それは後。

 山の火は、遠くでまだ小さいと思って安心していると、思わぬ速さでこちらに向かって燃え広がる時がある。だから、獣のように、火を見たら、すぐにでも避難した方がいい。グズグズしてたら逃げ遅れてしまう。


 「みんなに知らせないと」


 歌垣(かがい)に夢中な鳥人たちは、もしかしたらこの事態に気づいていないかもしれない。

 

 「おぉーい、ハヤブサァッ!」


 「大変! 大変だよぉっ!」


 向きを変えたボクにかかった声。


 「ノスリ? カリガネ?」


 歌垣(かがい)に参加していたはずの二人。その二人が、歌垣(かがい)の衣もそのままに、こちらに一直線に飛んでくる。


 「山火事なら知ってる。みんなは避難したのか?」


 避難を始めたから、そこにいなかったボクとメドリを探しに来た。そう思ったんだけど。


 「あ、あれは、山火事じゃっ、ねえっ!」


 ゼイゼイと息を荒らしながらノスリが言った。


 「あれは、ふもとに集まった〝人〟の軍勢だよ!」


 「人っ!? 軍勢っ!?」


 どういうことだ? 理解が追いつかない。

 山火事でないのはいいとして、軍勢とは?


 「人が襲ってきたんだよ。この山の、鳥人どもが人の宝を奪い去ったって」


 「なんだってっ!?」


 驚く声が裏返った。


*     *     *     *


 「知らせはさっき届いたんだ」


 カリガネが説明した。

 歌垣(かがい)を楽しんでいた鳥人たちに、一本の矢が届けられた。矢には文が結び付けられていて、人の言葉を解する者によれば、「鳥人は、人の宝を盗み、奪い去った。ゆえに、取り戻すため兵を動かす」と宣言されていた。


 「おとなしく宝を返せば、手荒なことはしない。素直に宝を差し出せって」


 「そんな……」


 神宝(かんだから)は十年前に盗まれて、山のどこかにある。

 そう、忍海彦(おしみひこ)は言ってなかったか? 盗まれて、今も山のどこかにあると。

 それを、鳥人が盗んだことにして、ここを攻めてくるつもりなのか?

 にぎりしめた拳に力がこもる。

 とんでもない言いがかり。そして、その言いがかりを元に山を襲う〝人〟。許せなかった。


 「けど、人の宝を返せって。宝がどんなものかわからないのに、どうやって返せばいいんだよ」


 忍海彦(おしみひこ)は、最後まで神宝(かんだから)が何であるか、説明していかなかった。だから、捜して返してやろうにも、今まで見つからないままだったのに。


 「それがさ、人の宝は〝巫女姫〟だって言うんだ」


 「巫女姫?」


 誰のことなんだ?


 「文にはこう書いてあったよ。『薄桃色の勾玉を持った、年の頃十二、三の乙女』だって」


 薄桃色の勾玉? 年の頃十二、三の乙女?


 「それって……」


 ボクたちの視線が、メドリの胸元でゆれる石に集まる。メドリが父さんが拾って来た時からずっと、肌身離さず持っているもの。夜だというのに、ほんのり浮かび上がるように光ってる。ていねいに磨かれ、つややかな石肌をした薄桃色の勾玉。

 ――まさか。


 「そう。メドリのことだよ」


 カリガネの言葉に、ゴクリと喉が鳴った。

 メドリが〝人の宝〟? 〝巫女姫〟?

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