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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
三、陽炎。 (かぎろひ。明け方、東方に見える光)
21/42

(七)

 「でも、何を捜しに来たんだろうね、その人の子は」


 カリガネが言った。


 人の子がこの山に、何かを捜しに来ていた。


 この出来事は、父さんにだけじゃなく、ノスリとカリガネにも話しておくことにした。

 あの忍海彦(おしみひこ)に捜させない代わりに、自分たちで見つけて、連絡してやると約束した。なら、少しでも早く見つけられるように、他の者の手も借りたい。カリガネたちに話しておいて損はないはずだ。

 

 「人の宝って言ってたけど、具体的に、どんなものかは教えてくれなかったんだ」


 「宝……ねえ」


 ノスリが思案する。


 「鳥の宝って言ったら、キラキラ光る石とかそういうのもありなんだけどなあ」


 「カラスかよ」


 カラスは、光ってるもの、珍しいものを集めたがるクセがある。


 「人の宝っていうんだから、それなりにすごいものなんだと思うけど」


 鳥人の神宝(かんだから)が、誰かを呼び寄せる天鳥笛(あまのとりぶえ)であるように。人の神宝(かんだから)も、それなりのいわくのあるものに違いない。


 「にしても、十年前……ねえ」


 「なんだよ、ノスリ」


 「いやさ、メドリが来たのって七年前じゃん」


 「そうだけど」


 「十年前に人の世界でなんかあったのなら、それとメドリと関係あるのかなって思ったんだけど……」


 「三年ズレてるから、関係ないんじゃないの?」


 「だよなあ」


 人の神宝(かんだから)が盗まれたのは十年前。

 メドリが声を失って、父さんに拾われたのは七年前。

 三年も時が違う。


 「人の世界のことってだけで、かんたんに結び付けられないよ」


 「ちぇー。メドリが話せるようになる、キッカケになればいいって思ったんだけどなあ」


 ノスリがボリボリと頭を掻く。

 人の神宝(かんだから)を見つけてやることと、メドリの声のことがどうしてつながるのかは知らないが、何か動くことで変わることがあるならと、ノスリは思ったらしい。


 「とにかく、その人の宝とやらを見つけないことにはね。いつまでも見つからないでは、また人の子が山にやって来るかもしれないし」


 約束したものの、見つからないままでは、しびれを切らして山にやって来ようとするかもしれない。前回は、忍海彦(おしみひこ)一人だったけど、次も一人とは限らない。

 何度も人が山に来たら。それも大人数で来たら。鳥人と衝突(しょうとつ)することだってあるだろう。それは困る。


 「そうだな」


 言って、唇を閉じ、指をあてる。


 「――――! ――――! ――――! ――――!」


 広く、遠く。

 大きな鳥にも、小さな鳥にも。


 「……森や山で、不審(ふしん)なものを見つけたら教えるように命じておいた」


 空高く舞うものは、あらゆる場を見渡して。地面近く飛ぶものは、地を掘った形跡すら見落とさずに。

 どんなささいなものでもいい。ちょっとでもおかしいと思ったら、見つけ次第連絡しろ。

 人の神宝(かんだから)だ。森や谷、木々にまぎれてしまうような物じゃないだろう。きっと、そこにあればいやでも目立つ。そういうものだ。 

 ただ、盗まれてすぐ、十年もの間、森にあったのだとしたら、どうして誰もそれに気づかなかったのか。そこが気になる。昨日、忍海彦(おしみひこ)から話を聞くまで、そんな神宝(かんだから)のこと、鳥人族の誰も知らなかった。


 (誰にも気づかれないようなところに、その盗人は隠したっていうのか?)


 でも、どこに? どうやって?


 「とにかく、鳥たちからの情報を待――ングッ!」


 突然、口の中に甘酸っぱい味が広がる。


 「こら、メドリ! モガッ!」


 次から次へと口に放り込まれ……訂正、ねじ込まれていくなにかの実。――木イチゴ?


 〝メドリ姫カラノ、贈リ物ジャヨ〟


 バサリバサリとはばたく音。大鷹(オオタカ)だ。メドリとどこかへ出かけていたのが、戻ってきていたらしい。メドリが手にしていたのは、桐の葉で包んで持ち帰った、大量の木イチゴ。


 「自分で食べるから、ゲホッ、ちょっと、待て!」


 そんな次々に口にねじこまれたら、たまったもんじゃない。息ができない。むせる。飲み込めない。


 「愛されてるねえ、ハヤブサ」


 「いいなあ、ハヤブサ」


 「いいわけあるかっ!」


 息する合間もないぐらい、次々に木イチゴを放りこまれて、うれしいわけがない。


 「とにかく、お前たちも何かわかったら教えてくれ」


 ゲホゴホとむせながら、二人にも頼む。


 「わかった」


 「まかせて」


 みんなで円になって座り直し、その中心に桐の葉に盛られた木イチゴを置く。


 「これは、みんなで食べるぞ。ほら、お前も」


 言ってつまんだ木イチゴを、メドリの口の中に放り込んでやる。

 一瞬、「酸っぱい!」って顔したメドリ。でも、すぐにフニャンとした笑顔になった。


 (しまりのない顔だけど……)


 昨夜のようにおびえてるんじゃなければいいか。

 昨日はあのまま、おびえにおびえ、最後は添い寝を要求してきたメドリ。この歳にもなって、いくらなんでもって思ったけど、カタカタと体を震わせ始めたメドリに、自分の室へ戻れとは言いにくくて、しかたなく、翼で温めてやった。(おかげで、ボクは一睡もできなかった)

 人というものに会って驚いているのか。それとも。


 忍海彦(おしみひこ)の探しているものと、メドリは無関係のはず。なのに。


 ――メドリと、人の宝って関係あるのかな。


 ノスリの勘でしかない言葉が妙に引っかかった。

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