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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
三、陽炎。 (かぎろひ。明け方、東方に見える光)
20/42

(六)

 ――その神宝(かんだから)は、十年前に、とある男に盗み出されてしまったのです。


 (宝……ねえ)


 夜、ゴロリと床台の上に転がりながら、今日のことを思い出す。

 (つき)の木で遊んでいたボクたちから離れたメドリ。一緒に遊んでいた小鳥たちが言うには、ともに食べる野イチゴを探していたのだという。そして、野イチゴの代わりに、草のなかで倒れてた男を見つけた。

 忍海彦(おしみひこ)と名乗ったその人間は、父親に命じられて、盗まれた神宝(かんだから)を探しに森に入ったと言った。


 (神宝(かんだから)大君(おおきみ)のものって言ってたけど……。ってことは、アイツが次の人の主ってことか)


 神宝(かんだから)の持ち主が父親ってことは、そういうことだ。


 (あれが……ねえ)


 大君(おおきみ)の子と、族長の子。人と鳥人。種族の違いはあるけれど、後継者、跡継ぎという意味では同じ立場。


 (シッカリしてる……のかな)


 草の汁まみれの泥まみれ。メドリが水をぶっかけたせいで、びしょ濡れの衣をまとっていたけれど、言動はかなりシッカリしてた。(メドリは、彼に水を飲ませようとして失敗したらしい)


 (アイツなら、話し合いもできるかな)


 アイツなら、何かもめごとが起きても、争いではなく話し合いで解決できるかもしれない。

 人間は嫌いだけれど、だからって、なんでもかんでも敵対するつもりはない。あちらが自分の領域で暮らしてくれるならそれでかまわないし、(たきぎ)や木の実など、少しぐらいなら、森の幸を分けてやってもいい。

 相手を排除するのではなく、ともに助け合って暮らしてゆければ。


 (にしても、盗まれた神宝(かんだから)って、なんなんだ?)


 最後まで、どんなものか口を割らなかった忍海彦(おしみひこ)。大切なものであることはわかったけど、具体的に、どんなものかはわらかずじまいだ。


 忍海彦(おしみひこ)には、これ以上山に入ることを許さず、里に帰るように命じた。神宝(かんだから)を探したいとねばってきたが、どんな事情があっても、人が山にいることを許す気はない。

 それらしいものを見つけたら、そちらに伝令の小鳥を飛ばす。見つけても触れずに置いておく。

 その二つを、翼にかけて約束した。先に見つけ、うばってやろうなどとは考えていない。人のものは人に返す。人の宝など、鳥人にとっては迷惑でしかない。

 ――興味がないって言えば、ウソになるけど。


 パタン。


 室の入り口のほうで音がする。同時に、ゆらめく小さな火が、こちらに近づいてくるのが見えた。


 「なんだ。今日のことを謝りに来たのか?」


 言いながら身を起こす。やって来たのは、灯りを持ったメドリだった。


 「まあ、そこに座れ」


 並んで腰かけるように、灯りを受け取り、床台を軽く叩く。

 言われるままに、ちょこんと腰かけたメドリ。けど、灯りに照らされた顔は、どこか元気がなくうつむいたまま。


 (怒られると思ってるのか?)


 「勝手に離れて!」とか、そういうの。「人に会うだなんて、危ないだろ!」とか。


 「別に、誰かを助けたことを怒る気はないからな」


 沈んだままの頭を、ポンポンっとなでてやる。

 人であれ、鳥人であれ。倒れてる者を見つけてそのままにしておけなかったやさしさは、ほめてもいいと思っている。結局飲ませることは出来なかったみたいだけど、それでも水を運んでやったことは、いいことだと思っている。

 けど。


 「ただ、ああいう時は、誰か助けを呼べ。近くにオレたちもいたんだから」


 メドリのいた草原とボクたちのいた(つき)の木は、そう遠くなかった。鳥人であれば、ちょっと飛べばたどり着ける距離。

 メドリが、コクンとうなずいた。「わかった」ということだろう。


 「そうだ。お前、これを持ってろ」


 懐から取り出したものを、メドリの手の上に置く。


 「天鳥笛(あまのとりぶえ)だ。父さんから借りてきた」


 初夏の草原を思わせる緑の石、翡翠(ひすい)。その翡翠(ひすい)で出来た、小さな笛。手で握りしめられるぐらいの大きさの石に、穴を開け、音が出せるようにしてある。


 「吹いてみろ」


 言われるままにメドリが口をつけ、息を吹きかけるけど。


 「――――?」


 笛は、フーともスーともいわない。何度試しても同じで、メドリが吹いては首をかしげるをくり返した。


 「ハハッ。それは普通に吹いても音が出ないんだ」


 貸してみろと、メドリから笛を受け取る。


 「いいか。――――!」


 室に音は響かない。代わりに、メドリが両手で耳をふさいで顔をしかめた。かなりうるさかったらしい。首も、亀みたいにすくめてる。

 

 「鳥人の神宝(かんだから)だ。呼び寄せたい相手のことを思いながら吹けば、その相手にだけ音が届く」


 言って、もう一度笛を渡す。

 

 「これなら、何かあった時、吹いて知らせればいい。オレが無理なら、大鷹(オオタカ)にでも。音は鳥人だけじゃなく、誰にだって――うわっ!」


 脳天に突き刺さるような、頭の上から叩きつけるような音。メドリが力いっぱい吹いたのだ。

 

「わ、わかったから、もう吹くな!」


 耳を押さえながら、笛を吹くのを止めさせる。


 「とにかく! そうやって伝えることができる笛だから、次に何かあったら、吹いて知らせろ」


 声を出して助けを呼べないのなら、その笛で危険を知らせろ。

 鳥人の神宝(かんだから)をメドリに渡す。

 メドリのことを快く思ってない鳥人からは、反発をくらうかもしれない。族長が認めたとはいえ、メドリは人の子。そんなヤツに宝を渡して大丈夫なのかと。

 けど、これは父さんにも相談した結果だった。


 人の子、それも大君(おおきみ)の子が森に来た。人の神宝(かんだから)を捜しに来ていたらしい。


 今日のことを話して、真っ先に笛を用意したのは父さんの方だった。

 

 ――かわいいメドリが危険な目に遭わないように。ハヤブサ、お兄ちゃんであるお前がシッカリ守ってやれ。


 ……どこまで親バカなんだよって言いたくなったけど、危険だったのは本当。あれでもし、あの忍海彦(おしみひこ)が悪いヤツだったとしたら。


 「おい。なんだよ。どうしたんだよ」


 急にギュムッと体を寄せてきたメドリ。抱きつく……というより、ボクに守ってもらおうと、翼のなかに潜りこんできた……に近い。


 「大丈夫だ。それさえ吹けば、オレや大鷹(おおたか)が駆けつけるから。……守ってやるから」


 だから安心しろ。

 抱きしめてやるのはおかしな気がしたので、そのまま頭を何度もなでてやる。

 大丈夫。大丈夫。

 一応これでも、お前の兄ちゃんだし。守るぐらいはしてやるよ。――父さんにも、メチャクチャお願いされたからな。

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