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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
一、野分。 (のわき。夏の終わりの頃、雨とともに吹く暴風。台風)
2/42

(二)

 人は、野や里で暮らす。

 鳥人(とりひと)は、森や山で暮らす。


 それが神が決めた約束事だった。

 土には土グモ。海には竜人。

 

 だけど、その太古からの約定(やくじょう)をこわしたのは、人だった。

 人は、与えられた平らな大地に里を作った。土グモの暮らす地まで掘り起こし、田を作って稲を植えた。追いやられた土グモは、山で暮らすようになった。収穫した米を食べるため、暮らす家を建てるため、人は森の木々を切り落とした。米だけではまかなえないほど増えた人は、海の魚をとった。

 そして、自分たちこそ、天から下りた神の一族なのだと言い出した。

 この世界はすべて人のもの。

 なぜならば、自分たちは神の一族なのだから、と。


 その傲慢(ごうまん)さに、竜人は海の底深く身をしずめ、人との関わり合いを断った。土グモは生きる場所を奪われ、数を減らし、森の土の中へと潜っていった。鳥人は、森の恵みをうばわれ、木を奪われながらも、なんとかここまで暮らしてきた。

 いつかは、土グモのように生きる場所を奪われ、竜人のように、恵みも奪われるかもしれないけど、さいわい、この世界に森はたくさんある。ここがダメならあそこで暮らす。鳥人はその翼をもって、あちらの森、こちらの森へと移動を続け、静かに暮らしていた。


 そんな鳥人族のところに、人間の子ども?

 それも、族長のむすめ、ボクの妹?

 

 父さんの頭がおかしくなったのかと思った。

 鳥人族の子どもなら、まあかわいそうだろうってことで、拾ってきても許すけど。


 人間。人間をだなんて。

 それも、その世話をボクにまかせるだなんて。


 チラリと、視線をそれにむける。


 ガリガリの体に、ボロボロの服。髪もボサボサ。どっちかというと、人間の子っていうより、土グモの子。顔も泥で汚れてる。

 父さん、よくこんな子を抱いて飛んできたなって思うぐらい汚い。


 「ハァァァァ……」


 体の中の息をすべて吐き出すぐらい、大きなため息を吐く。

 しかたない。


 「ついてこい」


*     *     *     *


 人の子を連れてきたのはお湯屋。

 もともと鳥人族は、川で体を洗うことしかしなかったんだけど、父さんが(やしろ)を建てる時、「これもなかなかいいぞ」とお湯屋を建てた。冬の川は冷たくて辛かったので、温かいお湯屋は、鳥人族でも大人気の場所となったのだけど――。


 「こら! あばれるな! キレイにしてやるだけだ!」


 バッシャン、バッシャン。沸かした湯が湯船からあふれる。お湯屋で働く湯女(ゆめ)に、子どもの体を洗わせたんだけど。

 

 「おとなしくしろ! 別に、ゆでて食べるとかじゃないんだから!」


 年老いた湯女(ゆめ)だけじゃ押さえきれず、ボクもその体を押さえ、洗うのを手伝う。そうでもしないと、人の子は、ロクに洗えてないのに、湯船から逃げ出してしまう。

 子どもが暴れるたび、ボクまで頭から湯を浴びて衣がビッタビタに濡れる。

 お湯屋なんて、いつ入っても気持ちのいいものなのに。人の子はお湯屋を知らないのか? だから、こんなに暴れるのか?


 「若さま、ここに」


 若い湯女(ゆめ)が、ボクと子どもの着替えを用意してくれた。子ども用には、髪をすくクシもそろえてある。


 「ありがとう、――ってこら、イテッ!」


 暴れた人の子の手が、ゴンッとボクの顔をなぐる。

 

 「おとなしくしろよ! 洗ってやってるんだから!」


 このままお湯にしずめてやろうか。本気で思った。

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