表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
三、陽炎。 (かぎろひ。明け方、東方に見える光)
19/42

(五)

 ポタッ。


 頬に滴り落ちてきた水。――雫? どこかの木の葉からこぼれ落ちたのだろうか。


 ポタッ。ポタタタタッ。


 それは何度も頬を叩き、目覚めをうながす。


 「ンッ……」


 雫をさけようと、目を覚ますついでに、体をごろりと仰向けに直す。


 ボタッ。ボタタタタッ!


 「うわあっ、ゴホッ、ゲホゲホッ、ゴホッ!」


 雫どころではない、大量の水が顔に落ちてきた。


 「なっ、ゲホッ、なんっ!? ゴホッ、ゴホゴホッ」


 あわてて身を起こし、あたりを見回す。

 木々にグルリと囲まれた草原。木が鬱蒼と茂る森のなかとは違い、ここは日ざしがよく当たるのか、草がよく生い茂っている。自分が倒れていたのは、その草の合間だった。身を起こしても、草の葉先がジャマをして、あたりを見通すことは難しい。


 (どうしてこんなことろに? それとあの水はいったい……)


 額に手を当て、考える。


 ガサッ、ガサガサ……。


 草をかき分け動く音。その音に、とっさに、腰のものに手をかける。


 「――――!」


 鞘から抜き払った剣の先を、現れたものに突きつける。


 「……なんだ、女の子か」


 草むらから現れたのは、幼い少女。向けられた剣に、ビクッと体を震わせた。


 「すまない。こんなところに人がいるとは思ってなかったから」


 短くわびて、剣を鞘に戻す。体の力もいくらか抜く。


 「水を運んできてくれてたのか?」


 少女が手にしていたのは、桐の葉だろうか。大きな緑の葉から水が滴り落ち、彼女の衣と地面を濡らしていた。きっと、剣を向けたことで驚いて、こぼしてしまったのだろう。

 先ほどの水もきっと彼女が運んできてくれていたのだろう。倒れていた私のために。


 「待ってくれ!」


 クルッと背を向けた少女を呼び止める。


 「喉が乾いているんだ。水のある場所を教えてくれないか」


 また運んできてくれるのかもしれないが、それぐらいなら、こちらから水場に行ったほうがいい。それに。


 「きみは、このあたりに暮らしているのかい?」


 こんな山のなかで?

 言った自分でもおかしなことを問うたと思っている。こんな森の深い山の奥に、女の子が暮らしているわけがない。こんな山に暮らすのは、背に翼を持つ〝鳥人族〟ぐらいだ。だから、この子は山のふもとにある、人の里の子ども。山菜でも採りに来てた子だろう。そう推測つけた。


 コクン。


 少女が首を縦にふった。このあたりで暮らしていると認めた。

 

 「え? 本当に?」


 コクン。


 「でも、きみは〝鳥人族〟じゃないよね?」


 コクン。


 鳥人族でもないのに、山で暮らしている? こんな獣も出そうな森の奥で?


 「――メドリッ!」


 声と同時に、一瞬空が陰る。

 雲が通り過ぎたわけではなく、光を遮ったのは、大きな翼。それが、バサリバサリと風を撒き散らし、草を薙ぐ。


 「無事か、メドリ!」


 翼は、少女に舞い降りる。


 「鳥……人族……」


 声が喉の奥に張り付く。

 (いにしえ)より、空を舞い、山で暮らす、翼ある者たち。人と交わることなく、森のめぐみを(かて)に暮らす伝説の一族。

 それが、目の前に。

 信じられなかった。


*     *     *     * 


 「私は、忍海彦(おしみひこ)と申す」


 目の前に立つ、人の子が言った。

 

 「父に命じられ、捜し物を見つけるため、こうして山に入った次第。お騒がせして申し訳ない」


 年の頃は、ボクより一つ、二つ上だろうか。高い身分の人間なのか、しっかりした口調で話す。髪も、左右に分けて耳の横で結ってある。衣だって、草の汁で汚れたり、ところどころ破れているけれど、元は上質なものだってことはわかる。勾玉や管玉が連なった首飾りも、その身分の高さを表している。


 「その捜し物は見つかったのか」


 見つかったのなら、とっとと山を降りて欲しい。

 山は鳥人族のもの。いくら命じられたから、捜し物があるからといっても、人がずっと居座っていい場所じゃない。そもそも、人がこうして山に分け入ることを、鳥人族は許していない。


 「いや、まだ見つかっておらぬ」


 忍海彦(おしみひこ)が首を横にふった。


 「ならば、こちらで探し、人の里へ持ってゆこう」


 これ以上、人に森のなかを歩き回られたくない。


 「いや、そのご厚意には感謝するが、あれは我が手で見つけねばならぬものゆえ、遠慮いたす。あれは、大君(おおきみ)神宝(かんだから)。他の者に触れされることはできぬ」


 大君(おおきみ)神宝(かんだから)

 鳥人族の主は、〝族長〟。人族の主は、〝大君(おおきみ)〟。

 その主たる人物の、神宝(かんだから)

 そんな大切なものが、なぜ森のなかに?


 「十年前、それはとある男によって盗み出されてしまったのです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ