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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
三、陽炎。 (かぎろひ。明け方、東方に見える光)
18/42

(四)

 「でさ、結局、ハヤブサは参加するのかよ」


 帰ってきた翌日。いつものように集まった(つき)の木で、ノスリが言い出した。


 「参加って、なにが」


 「歌垣(かがい)だよ、歌垣(かがい)!」


 「今年はハヤブサが参加するのかどうか、みんな注目してるんだよ」


 「なんで、ボ……オレが参加することが注目されるんだよ」


 〝ボク〟と言いかけたのを、〝オレ〟と言い直す。最近は、自分のことを〝オレ〟と言うように心がけてる。そのほうが、大人っぽいし、将来の族長っぽいし。考えてる中では〝ボク〟でも、声に出す時は〝オレ〟。そのうち、考えの中でも〝オレ〟に変更していくつもり。


 「族長の息子のお前が参加するのとしないのじゃあ、()の鳥たちの気合の入り方が変わるんだよ」


 「なんで?」


 「なんでって……。お前なあ」


 「自覚してないって、なんか腹立つよね」


 ノスリとカリガネが呆れる。


 「あのさ、ハヤブサは族長の息子、つまり次期族長だろ? ()の鳥たちからすれば、お前と(つが)ったら族長の妻っていう、鳥人族最高の地位につけるってので、人気なんだよ」


 「族長の妻ぁぁぁっ!?」


 そんなもの、なりたいのか?

 声がひっくり返った。


 「それに、ハヤブサって顔もいいし、羽根もキレイだし、誰よりも速く飛べる。ようするに、カッコいいんだよ」


 「オイラよりチビだけどな」


 ニシシとノスリが笑う。


 「うるさいやい」


 あれから背が伸びたノスリ。ボクも伸びたんだけど、ちょっとだけ、ほんのちょ~~っとだけノスリのほうが背が高い。髪の毛一本分ぐらい。


 「性格だって、やさしいし、面倒見がいいし。これで族長の息子なんだから、()の鳥たちがほっとかないのは、当たり前だよ」


 そう……なんだろうか。

 思わず、自分の翼を広げ、羽根を見る。翼の上面は青みがかった黒い羽。そこから裾にむかって徐々に白くなっていき、一番下の風切のあたりは、淡い灰色になっている。

 生まれ持った羽根をキレイだどうだって考えたことなかったけど……。そうか。この羽根、キレイなのか。速く飛べることしか自慢に思ってなかった。


 「()の鳥だけじゃないぞ。男たちだってそうだ。お前が参加すると、お目当ての()の鳥が、ふり向いてくれなくなるかもしれないからな」


 「そんなこと言い出したら、オレはいつまでたっても参加できないじゃないか!」


 今年は、ちょっと見学気分で参加しようと思っていたけど。もし本気で嫁探しに参加しようと思ってたら、どうしてくれるんだ? 今はよくても、もう少し大人になったら、嫁も必要になってくると思うし。


 「ハヤブサは、歌垣(かがい)以外のところでお嫁さんを探してきてよね」


 「そうそう。それなら目当ての()の鳥も取られなくて安心、安心!」


 「無茶言うなよぉ」


 笑う二人に、頭を抱えたくなる。

 歌垣(かがい)っていう男女の出会いの場だからこそ、なんていうのか、そういう勢いもついて、「好きです!」とか「結婚してください!」ができるわけで。そうじゃない、普通の日常の中で、唐突に「好きです!」とか「結婚してください!」ってやるのはムリすぎるだろ。()の鳥のほうだって、歌垣(かがい)っていう、その場の雰囲気にのまれてるからこそ「はい!」って答えたりするわけで、そうじゃないときに言われても困るだけだと思う。


 「まあ、別に目当ての()の鳥がいるわけじゃないからいいけど……」


 参加を控えてくれって言われるなら、まあ、今回はそれに従うとするか。今すぐどうこうしたい相手がいるわけじゃないし。今はアイツのこともあって、それどころじゃないし。


 「って、あれ? メドリは?」


 さっきまで、勝手にやって来てた小鳥たちと遊んでいたはずだけど。


 「その辺にいるんじゃないの?」


 メドリが木の上から降りてどこかに行くぐらい、最近じゃ珍しくもなんともない。


 「大鷹(オオタカ)がついてるから大丈夫じゃね?」


 「いや、小鳥たちがいたから、大鷹(オオタカ)はどこかに行ってるはず」


 メドリと遊びたがる小鳥たちは、大鷹(オオタカ)が怖い。大鷹(オオタカ)がちょっとその脚を動かして、鋭い鉤爪(かぎづめ)でヒョイッと引っかけられたら、小鳥などひとたまりもない。

 だから、小鳥が遊びに来た時は、大鷹(オオタカ)は少し場を離れて、別のところに飛んでいってる。小鳥とメドリが遊ぶのをジャマしないためだ。


 「……しかたない。少し探してくる」


 この森で、なにか大変なことが起こるとは思えないけど。なにかあれば、大鷹(オオタカ)が駆けつけると思うけど。

 バサリと翼を震わせ、木の上から飛び立つ。どこに行ったか知らないけど、歩いて探すより、空の上から見つけたほうが早い。


 「……アイツの嫁になる()の鳥ってさあ、すっげえ大事にされるかもしれねえけどさあ」


 見送ったノスリが言った。


 「うん。その前に、あの〝妹大事!〟を乗り越えて、ハヤブサの〝一番!〟にならなきゃいけないから、大変そうだよねえ」


 カリガネがうなずく。

 ハヤブサの妻になった者は、何かあったら、妹のために飛んでいってしまう夫を、つなぎ止めなくてはいけないのだから。


 「それか、あっちも大事、こっちも大事でハヤブサが目を回しそうだけどな」


 あっちへこっちへグルグル飛び回って。


 「ハヤブサ、心労で早く老けそうだよね」


 二人が笑った。

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