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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
三、陽炎。 (かぎろひ。明け方、東方に見える光)
17/42

(三)

 ――オイラがノスリで、コイツがカリガネ。覚えてくれよな。

 ――僕たちとも仲良くしてよね、メドリ。

 カッカッカッカッ、カッカッカッカッ。


 ノスリとカリガネ、それと大鷹(オオタカ)は、ボクが〝メドリ〟と名付けた人の子を、アッサリと受け入れてくれた。

 けど、鳥人族の誰もが、彼らみたいにメドリを簡単に受け入れたわけじゃなかった。


 ――人の子を、ここに置くだなんて。

 ――族長は何をお考えなのだ。

 

 メドリを「かわいい、かわいい」と溺愛する父さんに、難色を示す鳥人もいた。人は、鳥人の域である、森を壊し、自分たちの里を作る。森の恵みを奪う。そんな人の一族の娘を大事にする族長。いい気がしないのは当たり前だった。


 ――ナマイキだよな、あのチビ。

 ――大鷹(オオタカ)なんて従えちゃってさ。

 ――あれ、若さまに命じて付けてもらったんだぜ、きっと。


 ボクはそんなこと、大鷹(オオタカ)に命じたことなんてないのに。メドリが大鷹(オオタカ)をつれて歩く姿を見たやっかみが、そんなウワサを生み出した。

 普通では従えられない大鷹(オオタカ)を連れている。あれはきっと、若さまが命じて従わせたんだ。他の鳥人族でも許されない〝鳥の従属〟を認められるだなんて。なんてナマイキな人の子なんだ!

 

 やっかみ、嫉妬、羨望、苛立ち。

 

 「メドリが人の子だから嫌い」というのは、メドリにたいして冷たくあたってくるだけなので、なんとかやり過ごせる。けど、「メドリが優遇されているのが許せない」というのは、メドリに敵意を持って向かってくるのでかなり厄介。


 いつだったか、あの(つき)の木の腰かけに、蛇を仕込まれたことがあった。毒ある蛇じゃなかったけど、それでもヒドいいじめだ。先に蛇を見つけた大鷹(オオタカ)が、〝ゴチソウジャ〟と食べてしまったけれど。

 他にも、遊びふざけながら近づいてきた鳥人族の子どもに、木から突き落とされたこともあった。たまたまボクが近くにいて受け止めたから良かったものの、落ちたら大ケガどころじゃなかった。

 もちろん、そういった危害を加えてくるヤツらには、ようしゃなく怒った。人が嫌いでも、やっていいことと悪いことがある。

 それで、悪質ないじめは一旦無くなるんだけど、だからって、メドリへの不満まで消えるわけじゃない。多分、きっと見えない所でグラグラと煮えてる。


 (やっぱり、人の里に返したほうがいいんじゃないのかなあ)


 七年経って、メドリも大きくなった。

 拾ったときのような、ガリガリの土グモの子みたいなことはない。父さんがつややかって言った黒髪も長く、腰に届くほどに伸びた。体つきだって、少しだけふっくらと女の子らしくなってきた。

 おそらくだけど、あと二、三年もしたらもっと女らしくなって、誰かと(つが)うんだろう。

 夏の夜の歌垣(かがい)。年頃になれば、誰でも参加し、そこで一生を共にする相手を見つけ出す。女性はめいいっぱい着飾って。男性は女性への贈り物を懐にしのばせて。一晩かけて踊り、歌を交わし合って。これという相手を見つけたら、男性は女性へ贈り物をする。女性がそれを受け取ったら、恋は成立する。

 ボクも今年で十五だし、そろそろそういうのに参加しないかって話はある。この夏は、カリガネもノスリも参加するつもりらしいし、ボクもどんなものか見物気分で参加しようかなと思っている。

 その歌垣(かがい)にメドリが参加……。あ、ダメだ。想像力に限界が来た。

 今の、アユの塩焼きかぶりつきを見たら、誰かと歌を交わして踊り合うメドリは想像できなかった。


 (というか、そもそも歌垣(かがい)に参加したとして、誰かメドリに贈り物をくれるヤツなんているのか?)


 族長が養女にしたところで、しょせんは〝人の娘〟。翼のないメドリを嫁にしようなんて酔狂な鳥人族、いるんだろうか。


 (ノスリかカリガネならあるいは……)


 彼らなら、メドリのこともよく知ってるし、大事にしてくれるだろうけど。それでも、人と鳥人の夫婦となると話は別だ。きっと普通ではありえないような苦労が待っている。


 (となると、やっぱり、人は人と(つが)ったほうがいいんじゃないのかなあ)


 声の出せないメドリ。長く鳥人と暮らしたメドリが、人の里で暮らしていけるかどうか、不安もあるけど、それでも種が違うことで生じる苦労、差別は起こらない。


 (どこか人の里で、信用のおける人物を探して、それから……)


 それから、メドリの世話を頼む。やがてメドリが人の世界の歌垣(かがい)に参加して、大切に想ってくれる(つが)いを見つけるまで。――って。


 (なんでボクがそこまで悩んでやらなきゃいけないんだ?)


 軽く頭をふって、考えることをやめる。

 こんなことを考えてしまったのは、父さんが酒に酔って泣き出したから。少し離れた座で、どうやら今年の歌垣(かがい)について年配の鳥人たちと語ってたみたいなんだけど。そこから、ボクの参加がどうとかいう話になって。結果、「娘は、誰にもやらーん!」と訳のわからないことをわめきだした。

 ボクですらまだ歌垣(かがい)に参加してないってのに。さらに年下のメドリの結婚を思って泣くなんて。メドリが、「気になってる相手がいるの」とかそういうことを言い出したのならともかく。まだまだ幼稚なメドリは、食べることに夢中で、今もうれしそうに蒸し栗に手を伸ばそうとしてるのに。

 もう、バカバカしくてあきれるしかない。

 あれでもし、「メドリのことを思うなら、人の里に返したほうがいいです」なんて提案したらどうなるんだろう。きっと、父さんの流した涙で、ここに大きな湖ができるな、きっと。

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