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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
二、明時。 (あかとき。夜が明けようとする時。夜明けの頃)
13/42

(六)

 それからというもの。

 あの(つき)の木に遊びに行く時は、必ず人の子も連れて行く。それもボクが抱えて飛んでいく、というのが仕事になった。

 あの二人と人の子が仲良くなったら、あわよくばボクは抜け出して、少しはノンビリできるかなって思ってたのに。


 (これじゃあ、ボクの仕事が増えただけじゃないか!)


 人の子を歩かせて(つき)の木に向かってもいいけど、それだとものすごく時間がかかってしまう。だって、チビだし。森は歩きやすい場所じゃないし。うっかり転んでケガでもしたら、それこそ遊びに行くことすらできなくなる。

 なのでしかたなく、本当にしかたなく、ボクが人の子を抱きかかえて(つき)の木へ向かうことになった。


 (こんなの、ボクが疲れるだけじゃないか!)


 納得いかない。

 その上(つき)の木は――


 「嬢ちゃんが降りやすいように、ハシゴも作ってやったぞ!」


 「これで、いつでも森で遊ぶことができるよ」


 と、ノスリとカリガネが、勝手にハシゴを作った。

 人の子は、腰かけと同様に、それらも喜んだけど、ボクは納得がいかない。なんで、こんなヤツのために、ボクらの木が改造されてかなきゃいけないんだ?

 どうせ二人に文句をぶつけたって「しかたないよ、この子のためだよ」とか言われて、「なんでダメなの?」ってききかえされるだけだから、言葉を飲み込む。


 でも。

 少しだけ良くなったこともある。


 「お、来た来た」


 先に(つき)の木に来ていたノスリとカリガネが、枝に立ちながら、グイーッと体を乗り出す。

 「来た」のは、ボクと人の子ではなく。


 チーチーチーチーツーチー、チーチーチーチーツーチー。

 ヒンカラカラカラ、ヒンカラカラカラ。

 キョッキョロッキョキョキョロロ、キョッキョロッキョロキョロロ。


 「今日は、コナガとコマドリとルリビタキかあ」


 「よく集まるよねえ」


 別に〝鳥寄せ〟をしたわけでもないのに、勝手に集まる小鳥たち。小鳥たちは、ボクが人の子を連れて来たことに気づくと、どこからともなく集まってついていくる。最初はすごく驚いたけど、そのうち小鳥が集まってくれたほうが楽だって気づいた。

 なぜなら。


 「……よっと」


 かけ声とともに、運んできた人の子を、カリガネたちが作った腰かけに降ろす。とたんに、さえずりながら近づく小鳥たち。人の子の周りを軽く飛んだり、肩にとまってさえずったり。なかには、花を摘んでくる小鳥もいて、なにかと人の子の世話をしてくれる。

 ようするに。

 ボクが少しだけだけど、自由になる時間ができたってわけだ。


 小鳥たちが相手をしてくれている間、ボクはノスリやカリガネと速さを競って飛んでみたり、追っかけっこをしたり、木の実を採ったり、空高く舞い上がったり。

 とにかく、以前と同じように、たくさん遊ぶことができるようになった。


 「なあ」


 川辺でくつろいでいたら、ノスリが言い出した。

 今日一番の遊びは、誰が一番川面スレスレで飛ぶことができるか。速さももちろんだけど、一番スレスレで飛べたものが勝ちって遊び。


 「いいかげんさあ、お前も受け入れてやれよ、ハヤブサ」


 「そうだよ。あそこまで小鳥たちにも気に入られてるってのにさ」


 言いながら衣の裾を絞ってるのはカリガネ。飛んでる途中、ノスリの「わっ!」に驚いて、ボチャンと川に落ちたのだ。(もちろん、これはノスリが悪い)


 「鳥寄せしなくても、自然に鳥が集まってくるなんて、よっぽどだよ?」


 鳥と鳥人族は違う生き物。

 同じように野山を飛び、空を舞う翼を持つ者として親しくするけど、それだけ。食べる物も違えば、生きる環境も違う。鳥は巣で暮らし、鳥人は木の上に建てた館で休む。鳥はさえずるが、鳥人は言葉を交わす。

 だから、〝鳥寄せ〟に従ってくれる鳥であっても、ああして誰かに懐くとなると、鳥人族であっても、そう起きることじゃない。げんに、今もボクたちの周りに鳥は近づいてこない。遠巻きに、「何してるんだ?」ぐらいに見てるヤツはいるけど、あんなふうに、近づいてさえずったりはしない。


 「嬢ちゃんを受け入れてねえのは、ハヤブサぐらいだぜ?」


 「そうだよ。どうしてそこまであの子を嫌うんだよ、ハヤブサ」


 二人の目がボクを見る。

 鳥たちだって受け入れた。〝鳥寄せ〟しなくても勝手に集まってくるぐらい、慕ってくれてる。なのになぜ?


 「うるさい! ボクは、ああいう平然と他人の縄張りに入ってくるような、厚かましいヤツが大っきらいなんだ!」


 ボクがこいつらと遊ぶのにつどうだけの場所だったのに、いつの間にか、アイツが居座る場所になってしまった。立派な族長を目指す毎日だったのに、アイツのお世話に時間を取られるようになった。

 ジワリジワリ。

 自分のものが、アイツに侵食されていく感覚。

 どうせ二人に話したところで、「大人げない」とか、「ガキかよ」って笑われるだけだろうし。だから、口をつぐむ。


 「あ、おい、ハヤブサ!」


 ノスリが止めるのも聞かず、バサリと翼を広げる。


 「待ってよ、ハヤブサ」


 あわてて、カリガネとノスリも飛び立つ。

 不愉快な気分は、空を飛んで忘れるに限る。けど――。


 「あれ? あれって、ルリビタキと、コナガと、……コマドリ?」


 「嬢ちゃんのとこに来てたやつか?」


 「なんか……あわててる?」


 こっちに向かって飛んでくる小鳥。ルリビタキ、コナガ、コマドリ。今日の人の子の世話係。


 (何かあったのか?)


 大きく翼を震わせ、(つき)の木を目指して飛ぶ。


 「お、おい! こいつらから事情、聞いてけよ!」


 ノスリが叫ぶ。

 

 「ダメだよ、ああなったら、ハヤブサは何も聞きやしない」


 「まったく。なんだかんだ言って、アイツが一番やさしくて、一番世話焼きで、一番面倒見がいいんだよな」


 「うん。一番素直じゃないけどね」

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