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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
二、明時。 (あかとき。夜が明けようとする時。夜明けの頃)
11/42

(四)

 「で? 今日は連れてきたってわけ?」


 いつもの集合場所、(つき)の木の上。

 ちょこんと枝の根元に座らせたのは、ボクが連れてきた人の子。


 「へえ。よかったな、嬢ちゃん」


 人の子が座った枝の先に留まったのはノスリ。カリガネが座った時と違って、今回のノスリが枝を揺らしたりしない。


 「いい兄ちゃんやってるじゃねえか、ハヤブサ」


 「また(きざはし)に立ちっぱなしで、カゼをひかれたら困るからな。父さんにも叱られる」


 ニヤッと笑ったノスリから、プイッと顔をそむけた。


 「でもさ、ずっとここに座らせておくのも危なくない?」


 カリガネが言い出した。

 

 「僕たちは、落っこちそうになっても飛べるから問題ないけど、この子は落っこちたら大ケガするよ?」


 ボクたちの集合場所、(つき)の木。

 長くたくさん枝葉を伸ばしたその木は、ボクの背の何倍も高く、地面に立って見上げれば、首が痛くなるほどの大きさがある。


 「地面の上に置いとくわけにも……いかないよなあ。やっぱり」


 「蛇に噛まれたり、猪に襲われてもいいのならそうする?」


 「やめとく」


 ボリボリと頭をかく。


 「じゃあさ、ここに嬢ちゃんのために床を作ろうぜ」


 目を丸っと開いたノスリ。口角もこれでもかってぐらい上がってる。ノスリが、なにかひらめいた時の顔だ。


 「嬢ちゃんが落っこちないように、座っていられる床。それならいいだろ、ハヤブサ」


 「それは、まあ……」


 「ヨッシャ! あと下にも降りられるようにハシゴもいるかな? オイラ、ちょっとよさそうな枝とかツルとかさがしてくるよ!」


 言うなりバッと飛び立った。


 「アイツ、ホントに新しいこと始めるの、好きだよな」


 「だね」


 ノスリは、なんでも楽しそうなこと、新しいことにすぐに飛びつく。


 「じゃあ、僕もなにか集めてこようかな」


 カリガネも飛び立つ。


 「ハヤブサは、その子が落っこちないように、しっかり見張っててね」


 「おい、まっ――」


 一瞬、「ボクが行くから、カリガネが見ててくれ」って呼び止めそうになったけど、すぐにやめた。熱があっても、フラフラでも(きざはし)へ行こうとしたみたいに、ここで暴れられたら、それこそ枝から落っこちてしまう。


 (しかたない)


 軽くため息をついて、同じ枝に腰をおろす。

 見張ってろと言われたからには、いっしょにいるしかないけど。


 (だからって、何をしてたらいいんだ、ボクは)


 これが相手がノスリやカリガネ、それか鳥人の誰かなら、退屈しのぎにおしゃべりするか、森の中を飛んで追いかけっこでもするのに。

 しゃべれない、飛べない人の子相手じゃ、何もすることがない。しゃべりかけたって返事はないし、抱えて飛ぶのもなんか違う気がするし。


 (あ、そうだ)


 「ちょっと待ってろよ」


 少しだけ飛んで、別の木から、目当てのものを持ってくる。


 「ほら、これでも食べてろ」


 持ってきたのは木に巻きついたツルに成った赤い実。グミ。それを少し衣の裾で拭いてから、人の子に渡す。


 「なんだ。やっぱ自分じゃ食べないのか」


 グミを手にしても、それを口には持っていかない人の子。


 「ほら」


 自分の持ってたグミを口元に運ぶと、今度はパカッと口を開ける。


 「――まったく。ヒナ鳥かよ」


 自分では食べない。食べさせてもらう。ピーピー鳴かない人の子ヒナ鳥。

 モグモグとグミを咀嚼(そしゃく)した人の子が、喉を鳴らして飲み下す。

 すると、ホニャっていうのか、ヘニャっていうのか。ほんわりとほほをゆるめて、こっちを見てきた。


 (もしかして、これが『ありがとう』の代わりなのか?)

 

 持ってた勾玉にヒモを通してやった時もそうだった。熱のある時も、ボクを見て、一瞬だけこんな顔になった。

 これは、声が出ないほど心を砕かれるような目に遭ったコイツの、せいいっぱいの感情表現なのかもしれない。

 だとしたら。


 「うまかったんなら、もっと食べろ。いくらでも採ってきてやる」


 採ってきたグミを一粒づつ、その口に放りこんでやる。足りなければ、ちょっと飛んで新しいグミを摘んでくる。


 (ヒナにエサを運ぶ鳥の父さんや母さんって、こんな気分なのかなあ)


 なんとなく思った。

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