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ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~  作者: 若松だんご
一、野分。 (のわき。夏の終わりの頃、雨とともに吹く暴風。台風)
1/42

(一)

 「今日からこの子はお前の妹だ。仲良くしてやってくれ」


 突然どこかへ出かけていた父さんが、突然妹をつれて帰ってきた。

 急に、どこに行ってたんだよ。とか。どこに行くかぐらい言い残して行けよ。とか。勝手にいなくなったせいで、仕事がたまってるんですよ。とか。

 そういう文句を言いたかったのに。

 

 妹?

 ボクの?

 この子が?


 ちょっと出かけて、めずらしいおみやげを持って帰ってきた、みたいな調子で父さんは紹介したけど。


 「この子、翼がない!」


 ボロボロのみすぼらしい服。髪もボサボサで肌も汚い。服からのぞく腕も足もガリガリで……って、そこはまあいい。けど。


 翼がない。


 ガリガリの体だから、翼もちょっぴりで、隠れて見えないとかじゃない。羽根をむしり取られたとか、そういうのでもない。

 もとから、その背中には、翼が生えてない。


 「当たり前じゃないか。人の子なんだから」


 なにをバカなことを言ってるんだ? キョトンとした父さん。


 「えっと。ちょっ、待って。人の子が妹って……」


 理解が追いつかない。


 「父さんは、族長だよね」


 「そうだな」


 「立派な翼を持つ、鳥人族(とりひとぞく)(おさ)だよね」


 「そうだな。というか、〝立派な〟って。照れるね」


 「その族長の子がボクだよね」


 「そうだな。お前も、なかなかいい翼を持ってるぞ、ハヤブサ」


 「そのボクの妹が、翼を持たない〝人の子〟ってどういうことなんですかっ!」


 説明! 説明してください、父さん!


 「しかたないだろう。森で拾ったんだから」

 

 「拾った?」


 思わず、顔をしかめる。


 「かわいそうになあ。森でさまよってたんだよ、この子は」


 うーんと、父さんがあごに手を当てた。


 「人に捨てられたのか、なんなのか。あまりにかわいそうだから、拾ってきたんだよ」


 そんな。

 森で、巣から落ちたヒナ鳥を拾ってきましたー! みたいなかんじで、軽く言われても。


 「なら、人の里に返してくればいいじゃないですか!」


 森のものは森に返す。人のものは人に返す。


 「薄情だなあ、ハヤブサは。こんなに弱ってるのに、助けてやろうって思わないのかい?」


 「助けてやるのと、妹にするのは別の話です! 助けるのなら、ちょっと食べ物を分け与えるだけでいいじゃないですか!」


 そうして、無事に人のもとに返してあげれば。妹になんてしなくても。


 「母さんや、わが息子はどこで育て方を間違ったんだろうねえ」


 大げさにため息をついた父さん。


 「こんなかわいい子を、ちょっと食べ物与えただけで、また捨てろって言うんだよ。母さんや、わしがふがいないばかりに、ハヤブサは、こんな冷たい子に育ってしまった。男親一人、仕事にかまかけてたのが、いけなかったのかねえ」


 ヨヨヨヨヨ。

 父さんの泣き真似。


 「かってに、死んだ母さんにすがらないでください、父さん!」


 「だってねえ。こんな冷たい息子に育ったことを、母さんにわびなければいけないじゃないか」


 「ボクは冷たくもなければ、母さんにわびなきゃいけないような子じゃないです!」


 「なら、この子の世話をまかせた」


 え?


 「わしは族長として、なにかと忙しいからな。やさしいやさしいお前が、この子の世話をしてやってくれ」


 ハメられた――!


 気づいたときにはもう遅い。

 「じゃっ!」と、軽く手を上げ、翼をはばたかせて飛んだ父さん。

 残されたのは、ボクと、人の子。


 これが妹?


 チラリと、盗み見るように、それを見る。

 ボサボサの髪、ボロボロの服、ガリガリの体。肌は土で汚れて、目ばっかりギョロギョロしてて。〝土グモの子ども〟って言ったほうが納得できそうな姿。

 なにより、その背中には翼がない。人の子ども。

 

 こんなのが妹だなんて。ボクは、絶対認めませんからね、父さん!

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