7話 ”これはいいものだ”と思っているのは他人だけ・・・
柾黄 蓮について、少し話をしよう。
柾黄 蓮は、
国内に多くの企業を持つ、柾黄 財閥の次男として生を受け、
幼少の頃より勉学は勿論のこと、スポーツや武道、ピアノや舞踊など、
金持ちっぽいことは一通りこなしてきた文武両道のエリートである。
俗に言う良家のおぼっちゃんであり、電参へ中途入社した時も、
誰しもがコネで入社したと噂をしていた。
これで、見た目が悪いとか足が臭いとか何か露骨な欠点でもあれば、
特に騒ぎ立てられる事もなかったのだが・・・
面倒なことに、眉目秀麗の爽やかイケメンときたもんだ。
イケメン御曹司の登場に、女子社員の黄色い声が会社中に飛び交い、
同時に残念男子の黒い怨嗟の声も沸き上がる。
普段から女性にはよく声を掛けられる蓮だったが、
男性からは距離を置かれ、なかなか友人になれる者がいなかった。
学生時代にも同じ様な経験があり、こんな事には慣れっこな蓮ではあったが、
流石に社会に出ても同じ様なことが起きるのは、大人としてどうなのかと思ってもいた。
淡々と日々を過ごしながら、仕事をそつなくこなし、
周りから”柾黄 財閥の御曹司は伊達じゃない”と実力を認められてきた時だった。
蓮は仕事でミスを犯した。
小さなミスではあったが、そのミスの影響は決して小さなものではなかった。
納期が迫っている中、対応に奔走する蓮。
男性社員から距離を置かれていたことが災いし、同僚で進んで手伝おうという者はおらず、普段よりも際立つ孤独感がより焦燥感を掻き立てる。
この時、いつも飄々としている蓮にしてはめずらしく表情に苛立ちが見て取れた。
そんな時に、フラっと手伝いに現れたのが赤音威流だった。
特に恩に着せることも無く、ただ手伝いに来た威流に驚きを隠せなかった蓮。
そこから、威流に関心を持った蓮が強引に絡む様になってから、
二人はなんとなく友人の様な関係となっていたのだ。
だから蓮にとって気の置けない友人である威流との時間は、
他の何にも代え難い大切なものになっていた。
「ふぅ~、食った食った、美味かった」
蕎麦を食べ終え、腹をさすりながら満足そうな威流。
「美味かったんなら、良かったな」
そう言う蓮の蕎麦は、まだ半分ほど残っていた。
貪り食うお行儀の悪い威流とは対照的に、
背筋を伸ばし、ゆっくりとした動きの蓮。
それは、マナー講師のような優雅さを醸し出していた。
「お行儀が悪いと女性にモテないぞ威流」
「蓮以外との食事は、もう少し丁寧に食べてます~」
「もう少しって、お前・・・」
「そもそも、女と食事に行く機会なぞ無い」
「行く機会があったらどうすんだ、なんかすげー心配」
「それで思い出した。
さっき埋め夫に聞いたんだけど、なんか俺に紹介したい子いるって」
「そうなのか? 俺にも威流を紹介して欲しいって子いるけど」
「えっ、そうなの?」
「そうだぞ、お行儀良く食事をするなら、紹介してやらんこともないぞ」
蓮はニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべている。
「えっえっ、誰、誰?」
「お前、俺の言った条件をスルーすんな」
「大丈夫、飲み会の時は”常識人モード”だから、でっ、誰?」
「常識人モードって、あの仕事中にやってる”心が死んでる”やつだろ。
それダメね、そういうのは紹介する女性に失礼だろ、まったく・・・」
興奮気味の威流を呆れ顔で見る蓮であった。




