5話 お前が出来る事を他の人間が簡単に出来ると思うな・・・
威流へのアピールチャンスが終わり、後ろ髪をひかれる想いで自席に戻る久城。
なんとか角を立てずに、上手く修正点を伝えられた事に安堵する威流であった。
気を取り直して、仕事に集中する威流。
そんな威流の後ろにまた人影が・・・
「ふっふっふー、見てたぞ、赤音君」
聞き慣れているが、聞きたくない声がする、
この声は無視する事の出来ない相手だ。
僕は振り向きながら応える。
「何かありましたか、白長部長」
「うんうん、営業部のエースと制作部のアイドルなんて良いカップルではないか」
「何をおっしゃってるんでしょうか、根も葉もない噂は相手に迷惑になりますよ」
「そんなに照れなくても大丈夫だぞ、赤音も知っているとは思うが、
うちの会社は社内恋愛を推奨しているからな」
「白長部長も、社内恋愛の末、ご結婚なさったんでしたね」
「その通り、バリバリ働く俺の姿に家内はメロメロだったんだぞ」
「ご馳走様です、僕は仕事で手一杯なんで恋愛している暇なんてないですよ」
「まあ、その気があったら赤音を紹介して欲しいという子もいるから、
俺に相談するんだぞ」
「必要があればご相談させて頂きますが、暫くは仕事に集中したいので遠慮させて頂きます」
「そうかそうか、それじゃいつも通り仕事に集中してくれたまえ」
てめーが邪魔してんだろと叫びたかったが、
家に帰ってからにしようと言葉を飲み込んだ。
話し終えた白長部長が通り過ぎるのを確認してから机に向き直す。
白長部長は事あるごとに話し掛けてきて本当に困る。
しかも、置き土産の様に「赤音を紹介して欲しいという子もいるから」とか余計な事を言うから、誰なのか気になって仕事に集中出来なくなるじゃないか。
ただ、白長部長は適当な事ばかり言ってるから、
あんまり本気にするもんでもないな。
白長部長の飲み会に行くと分かるのだが、聞かされるエピソードが胡散臭い。
「若い頃は営業部のエースは6人いて、その内の1人だった」とか、
「残業代だけで月40万円いってた」とか、
「営業戦略やカリスマ性が評価されて出世した」とか言い出すので、
誰しもが”ホンマかいな!!”と疑いながら聞いている。
話の内容のいい加減さもさることながら、部長のフルネームが白長平起。
どうしても脳裏に浮かび上がる人物像がある。
下僕が立身出世を目指す大人気漫画に出てくる「40万人埋めちゃった人」だ。
どっちもある種のイカレっぷりを発揮しているということで、
誰かが
”40万人 埋め夫”とあだ名をつけ、
呼びやすい様に”埋め夫”と略されていた。
たとえ噂話を聞かれたとしても埋め夫は、
漫画は読まないし歴史にも興味がないので、自分の事だと気が付かないと思うし、
うちの会社には嘱託社員の山崎梅夫さん(63)が居るので、たぶん誤魔化せる。
ともあれ、埋め夫の存在は、休みが欲しい人には実にやっかいだ。
沢山働くことに誇りを持っているタイプの人間だから、
有給とか滅茶苦茶言いにくい。
頑張って働くのは良いことだって、僕だって思っている。
多少の無理をしてでも結果に繋がれば、やっぱり嬉しい。
ただ、頑張れば頑張るほど僕の仕事は増えていき、
かなりの無理をしないと維持が出来ないところまで来てしまった。
どうにかしないと僕は壊れてしまう・・・




