44話 生まれ持った能力の差は、努力で補うしかない・・・
「キューキュー」とこげちゃんの騒いでいる声が聞こえ、
威流は目を開ける。
すると、ヘビーアーマーエルフがこげちゃんを手で掴んでいた。
掴まれたこげちゃんは、嫌がってジタバタともがいている。
すぐさま、威流は飛び起きる。
「すいません。こげちゃんの糞の件ですよね」
両手を合わせ頭を下げ、エルフの前まで行ってから正座をする。
三回目ともなれば慣れたものだと思ってしまう自分が情けなかった。
エルフが手を離すと、こげちゃんはそのまま地面に落下した。
余程怖かったのか、いつも以上の速さで逃げていき、茂みに飛び込んで姿を隠す。
恐る恐る顔を上げる威流だったが、エルフは首を横に振り、
華奢な手を差し出してきた。
威流はちょっと喜びながら、その手を取り立ち上がる。
この後ぶん殴られるんじゃないかと思わなかったのは、
エルフがいつもの仏頂面ではなかったからだ。
手を離したエルフは、腕を組み”うんうん”と頷いていた。
何が何だか?ではあったが、機嫌が良いに越したことは無いと思う事にした。
エルフは威流に ”少し離れろ” と手で合図を送ってきた。
まだ何がしたいのか分からなかったが、
威流は言う事に従い、エルフと距離を取る。
既に青い魔石を持っていた準備万端のエルフは、
祈るような仕草で魔石を起動する。
エルフは右手の甲を上に向け、人差し指だけを伸ばしている。
キュイーンという音と共に指先に電気が溜まり始める。
「何かを溜めてる時に出る音だ」と威流が思った瞬間、
指先の電気が某宇宙戦艦の波動砲のように一気に放たれる。
放たれた電撃は蛇の様にうねりながら、恐るべき速度で進んで行く。
一瞬で池を飛び越え、奥にあった木をどんどん貫通していく。
電撃の先が触れた部分は抉り取られ焦げ付き、
激しい電気の流れが樹皮を引き裂いて、その威力の痕跡を残した。
「あれはライトニングボルト!?」
威流は衝撃を受ける。
今までの電気がそこいらに散っていくだけの ”弱々しい魔法” では無く、
明確な殺傷力を持っている ”強力な魔法” であった。
お前もやってみろと言わんばかりに、
エルフは威流に青い魔石を投げてよこす。
それを受け取り、威流はイメージする。
魔石は割れ、起動と同時に右手の人差し指に電気が集まる。
威流は右手の甲を横に向け、人差し指を伸ばす。
”飛べ”と頭の中で念じた瞬間に指先の光は放たれた。
一筋の電撃は池を越え、奥にあった木に当たる。
電撃の速度はエルフと遜色はなかったが、威力には大きな開きがあった。
電撃が触れた部分に数センチ抉られた焦げ跡はあるものの、
突き抜ける程の貫通力は無く、全体的に木の損傷は軽微なものであった。
「あれ!?火力が全然違う」
やっぱり、そうなのかな?
ゲームだとエルフと人間でステータスの”魔力”に大きな差があったりする。
覚えられる魔法の” 種類 ”や” 量 ”、 ”魔法の威力” や ”効果範囲” など、
魔力の高いエルフが優遇される点はそこだ。
「そもそも習熟度にも差があり過ぎる」
まあ、使い方を教えてもらっている時点で実力が同列なわけないし、
いきなりあんな魔法をぶっ放せる度胸を俺は持ち合わせていない。
ヘビーアーマーエルフが珍しくこっちを見ながらニヤニヤしている。
俺に力の差を見せつけてご満悦の様子だ。
だが、威流はそんなエルフ(魚類)を ”なんか可愛い” と思っていた。
気を能くしたエルフが今度は緑の魔石を投げてくる。
威流はそれを受け取り起動する。
集まった小石を前方に飛ばすと、ある程度飛んだ小石は失速して池に落ちる。
池にはいくつもの波紋が広がり消えていく。
そして、辺りは静寂に包まれた。
その後はご想像の通り、エルフの大爆笑が始まる。
この光景がよほど可笑しかったのか、
エルフは手を叩き声を上げて笑っている。
ひとしきり笑い終えたエルフが、
「手本を見せてやる」と思っていたかは定かではないが、
緑の魔石を起動すると、威流と同様に石が集まってくる。
ここでもエルフと人間の差が顕著に現れる。
集まった石の” 大きさ ”も” 数 ”も威流のそれを遥かに凌いでいた。
だが、エルフの真骨頂はここからだった。
集まった石を纏め巨大な球体を作ってみたり、
長方形の板状にして自身の前に展開し防壁にしてみたりと、
汎用性の高さを披露する。
得意顔をするエルフを「なんか子供っぽい人だな」と威流は思ったが、
それをおくびにも出さないのが大人の作法と弁えていた。
そんなこんなで”魔石の使い方講座”は閉幕となり、
威流はエルフに頭を下げ、丁寧に礼を述べる。
ヘビーアーマーエルフも何かを言っていたのだが、
分からないのでスルーした。
最後に、毎度恒例のモーニングのスターがお出ましである。
威流は背筋を伸ばし腰を曲げ、自ら頭を差し出しすと、
エルフは「良い心掛けだ」と言わんばかりに脳天に一撃。
いつも通り、威流の意識は遠いお空に飛んでいくのであった。
そして、こげちゃんもあれで殴られたかは知る由も無かった。




