43話 何かを予感する時、それは偶然じゃないのかもしれない・・・
突如、威流は海岸で集落の少女に出会った。
名前はリリー。
甚く、こげちゃんを気に入ったみたいで、
こげちゃんを可愛がる姿に威流もニッコリ。
殺戮坊主とは違い、この子に敵意が無いのは見ていて分かる。
だが、もしこの子の親に見られたら、その瞬間に事件が発生する。
頭を撫でたりするのも、本来だったら「このロリコン野郎め!!」と、
通報されて御用になるレベルの迂闊な行動だったかもしれない。
だが、ここは異世界だ。
そんな事は無い・・・と信じたい。
しかし、まさかこげちゃんが走り回っている姿を見られるなんて。
あの子だったからまだ良かったものの、殺戮坊主に見つかったら、
”ROUND ONE FIGHT”が始まってしまう。
ボコボコにされた後に、
「国に帰るんだな。お前にも家族がいるだろう・・・」
って事になりかねん。
「そうだよ、国に帰りたいんだよ!!」
威流が気になる事を頭の中で妄想していると、
リリーが拾った貝殻を見せてくる。
その貝殻は、蜆程の大きさの二枚貝の一片。
淡い桃色をした可愛らしい物だった。
「貝殻を集めているのかい?」
威流は、つい普通に聞いてしまう。
だが、何故かリリーは頷いた。
その小さな貝殻を砂浜に置き、その横に貝殻より一回り大きな円を描く。
「なるほど、もう少し大きな貝殻が欲しいんだね」
威流は頷き話し掛けると、リリーも何かを話している。
お互い話の内容は理解出来ていなくても、
なんとなく意思が通じている感覚があった。
それから、威流とリリーは砂浜で貝殻を見つけては見せ合った。
時折走っているこげちゃんを追いかけたり撫でたりと、
ここに来てからリリーはずっと笑っている。
背中が痒いのか、リリーが手を背中に伸ばしている姿を見て、
威流が代わりに背中を搔いてあげた。
そのお礼なのか「かゆい」という異世界の言葉をリリーに教えてもらった。
夢中で貝殻を集めていたリリーが突然、ハッとして立ち上がる。
何かあったのか気になった威流はリリーに駆け寄った。
リリーは集落の方向を指差して、何かを言い始める。
流石に何が言いたいのか威流は分からなかったが、
何かを食べる仕草をリリーがしてくれたので、食事に戻ると理解が出来た。
因みに、その時に「うまい」という言葉も教えてくれた。
威流は近くにあった岩の前に穴を掘り、
二人で集めた貝殻を埋めてリリーに見せた。
リリーは威流の意図を理解し、
手を振りながら集落へ向かって走り出す。
その姿を威流は手を振りながら見送る。
そして、リリーを追いかけるこげちゃんを捕まえ、一旦肩の上に乗せた。
この時、威流は不吉な予感がしていた。
意図せず知ってしまった異世界の言葉「かゆい」と「うまい」。
彼が知る限り、この二つの単語が揃った時は破滅への前兆。
肉体は徐々に崩壊し、精神が日に日に狂気に蝕まれていく呪いの言葉。
もしやこの集落には、怪しい研究施設があるのではないか。
下手したらアンデット路線に一直線なのではと不安に駆られる。
威流は波打ち際の砂浜に指で文字を書く。
砂に書いたその文字は、打ち寄せる波に消されていった。
書いた文字は”薬”と”汁”だった。
そして、この村が
”アンブリラ”
という、ちょっと何かを思わせる名前だった事を、
威流が知るのはかなり先のお話。
その後は日が暮れるまで集落の監視を続け、
特に何も無く、池の広場に戻った。
池の広場に戻り、威流は寝床に座り考え事をしている。
あの女の子。
リリーは、また明日も来るのだろうか?
あの子の親が心配して見に来たりしないのだろうか?
今日あった事を親に話したりしているのだろうか?
そんな、とりとめのない事をボーっとしながら考えていた。
そんな威流の前では、こげちゃんが元気よく走り回っている。
走りつかれたのか、こげちゃんは動きを止め、池の縁にお尻を向けていた。
なんとなく威流がその様子を眺めていると、
なにやらこげちゃんがその場で力み始めた。
「こげちゃん!!まさか!?」
そのまさかであった。
お尻から黒くて丸い物がコロコロと池の中に落ちる。
「こらこら、どこでうんこしてんの!?」
威流は急いで池の縁まで駆け寄り、こげちゃんを池から離す。
池の中に転がっていった糞を手で掬い、別の場所に捨てた。
「ここはしらがみ様のお家だから、ここでうんこしちゃ駄目だよ」
こげちゃんに言って聞かせても、当然理解は出来ないよな。
取り敢えず今は他の所で力んでるから、まあいいや。
池の中から白い魚がじっとこちらを見ており、
「ちゃんと世話しろや」と訴えかけている、そんな顔だった。
「すいませんでした。ちゃんと言って聞かせますから」
威流はしらがみ様にお詫びをして、
ちゃんと手を洗ってから眠りについた。




