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42話 子供は子供らしくあればいい・・・

教会を出たリリーは海岸に向かっていた。



母親には


「教会でお祈りを済ませたら一度戻ってらっしゃい」


と言われていたが、すっかり忘れてしまっている。


海岸で綺麗な貝殻を探すのが大好きなリリーは、

”今日はどんな貝殻が見つかるだろうか”しか頭に無かった。



教会に向かう時はついつい道草を食ってしまっていたが、

海岸への道は脇目も振らずに、どんどん進んで行く。



海岸に着いたリリーは、砂浜にしゃがみ込み貝殻を物色する。

一つ一つを手に取り、色を確かめては砂浜に戻す。



「綺麗な色の大きいのが欲しい」


目ぼしい物が無ければ場所を変えて、目に入った貝殻を手に取る。

夢中になって探し物をしていると、ふと鳥の声が聞こえ立ち上がる。



辺りを見渡しても鳥の姿は見えないが、

少し先の砂浜に、茶色の塊が走り回っているのを見つける。



リリーの興味は見た事も無い不思議な生き物に注がれ、

拾った貝殻を手に持ったまま、遠くからじーっと眺めていた。



すると、茶色の塊を追いかける大人の男が姿を現す。

楽しそうに遊んでいると思ったリリーは、無意識の内に足が動いていた。



足早にそこへ向かっている最中、

手に持っていた貝殻を全て落としてしまっていた。

リリーにとって、ここまで興味を惹かれるものはこの村には無かったのだ。



リリーが近寄っていくと、男が驚いた様子を見せるが、

すぐに優しい表情になり、大きく手を振ってくれた。



その男に父親の姿を重ねていたのだろうか、

リリーは警戒する事も無く、更に近づいていく。



茶色の塊の前にリリーが立つと、顔を上げ首を傾げる。

そんな様子が愛らしく、リリーはしゃがんで茶色の塊を撫でる。



「キュッキュッ」と鳴き、嬉しそうにしている姿にリリーは夢中だった。

撫でながら男の方を見ると、今度は男がリリーの頭を撫でた。



茶色の塊を撫でる少女と、その少女の頭を撫でる男。

ぱっと見ると「なにしてんだこれ?」となりそうだが、

ただただ、みんな幸せな気持ちだった。



男は茶色の塊を拾い上げると、少女の胸元辺りに茶色の塊を持ってくる。

リリーは両腕で茶色の塊を抱え、目を輝かせながら顔を見つめる。



この可愛い茶色の塊を、なんと呼べばいいのか気になりリリーは男に尋ねた。


「この子のお名前はなんて言うの?」


だが、男は困った様子を見せ、何も答えてくれなかった。

不思議に思ったリリーはまた質問をする。


「この子のお名前は決まってないの?」


すると男は慌てた様子で何かを喋っているが、

リリーには何を言っているかが分からなかった。



だが、リリーは以前に父親から聞いた話を思い出していた。



父親のノーランは漁師だった。

ある日、近隣の海に居付いてしまった巨大魚が漁師を襲い、

数人が犠牲となる痛ましい事件が起きた。



漁に出れない漁師達は食い扶持を失う。

当然、ノーランもその中の一人だった。


妻と娘を養う為に、ノーラン達は都市部に出稼ぎに行くしかなかった。


都市部に出て仕事を探し、まとまった金が溜まるまで働いた。

お金が溜まったら村へ戻り、数日過ごしてから都市部へ出ていき、

仕事を探しては働く、そんな日々を繰り返していた。



ノーランは出稼ぎから帰る度、寂しい思いをさせている娘に、

そこで見聞きした”本当は素朴な出来事”を少々大袈裟に話した。



都市部で開催されている大きな祭りや色々な珍しい食べ物、

そこで会った人々の話を、娘はいつも楽しそうに聞いていた。



いくつもの話の中に、遠くの地域から来た人と働いたという話があった。

その人が着ていた服は上下同じ色で、作業に適した動き易い生地で出来ており、

腕や足には長い縦の線の装飾が施されたいた。



その人の話す言葉はこの地域とは違い、聞き慣れない言葉であった為、

何を話しているか分からなくて大変だったと、ノーランは笑いながら話していた。



リリーはそんな楽しかった記憶を思い出した。


「おじさんは遠くから来た人なの?」


リリーはまた問いかけるが、男はまた困った顔をしている。

言葉が分からない事を察したリリーは、胸に抱いた茶色の塊を地面に放す。


「じゃあ、リリーが言葉を教えてあげる」


そう言って、リリーは自分を指差し伝える。


「リリー。私はリリーって言うの」


男は少女が何を伝えているのか理解し、少女を指差し確認する。


「リ、リリー?」


「そう、私はリリー」


伝えたい事を汲み取ってくれた嬉しさは、少女の表情によく現れていた。

すると、今度は男が自分を指差し伝える。


「タケル」


「タケル?おじさんはタケルって言うのね」


男は頷き、微笑んでいる。



ただ言葉の通じない相手の名前が分かっただけ。

そんな些細な事でも、リリーにとっては忘れられない思い出の一つとなった。


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