41話 必死に隠そうとするから、秘密は簡単にバレてしまうのです・・・
威流は、池の広場と集落を行き来する日が続いていた。
異世界に来て大分時間が経ったから、元の世界ではきっと行方不明扱いをされ、
そろそろ威流の捜索願が出されているかもと考えていた。
一方、集落に母親と二人で住む少女リリーは、一人で教会へ向かっていた。
お気に入りの赤いワンピースを着て、元気に歩いている。
教会へ向かう途中で、顔見知りの老婆と出会う。
「おばあちゃん、こんにちは!!」
元気な声で挨拶をするリリー。
「おや、こんにちは。リリーは今日も教会へ行くのかい?」
老婆にそう尋ねられると、リリーは頷き答える。
「今日も神様にお願いしにいくの」
「そうかい、そうかい。気を付けて行くんだよ」
「うん、分かった。またねー」
見送る老婆に手を振りながら、教会への道を進んで行く。
途中で道端に咲く花を眺めたり、木に止まった鳥に話し掛けたりと、
旺盛な好奇心が止められない年頃であった。
リリーが教会に辿り着くとアーク司教が出迎え、教会の中へ通してくれた。
熱心に教会に通う少女に司教が尋ねる。
「今日も神様にお祈りをしにきたのかい?」
少女はいつも明るく振舞っていたが、
教会に来ると決まって目に寂しさが宿る。
「うん。お父さんが早く帰ってきますようにって、神様にお祈りするの」
「そうだね。お父さんが早く帰ってくるといいね」
「お父さんが帰ってきたら、いっぱいお話がしたい」
「きっとお父さんもリリーの話を聞きたいと思っているよ」
司教が少女と話をしているのを、悲しそうに見つめていたマティオン。
少女は祈りを終え、馴染みのマティオンに手を振り教会を出る。
少女が教会から出た事を確認したマティオンは司教の元へ行き、
思い詰めた表情で司教に話し掛ける。
「アーク司教、リリーに本当の事を言わなくても良いのでしょうか・・・」
「マティオン、お前の言いたい事は分かる。
だが、それはお主が決める事では無い」
「ですが、このまま帰らぬ父を待ち続けるなど、あまりにも残酷過ぎます」
「リリーはまだ6歳の子供だ。年端も行かぬ子供に聞かせるのは早過ぎる」
「それは、デイジーがそう決めたからですか!!」
「そうだ。母親の意向を酌んでやらねばなるまい」
アーク司教はマティオンの気持ちは汲みつつも、諭し宥める。
しかし、マティオンは納得のいかぬ面持ちであった。
「・・・司教の命令とあれば従います」
そう言って一礼をしたマティオンは、
露わになりそうな怒りを悟られぬ様、足早にその場を離れる。
腕を組み、壁にもたれ掛かったまま、
マティオンを心配そうに見つめている男がいた。
背中に大剣を携えた、僧侶の”ティキン”であった。
ティキンは司教の横に立ち、マティオンの背を見送りながら詫びる。
「司教、大変申し訳ございません。マティオンの無礼をお赦し下さい」
「良いのだティキン。あやつの気持ちは分かっておる」
「司教のお心遣いに感謝致します」
そう言って、ティキンは司教に向けて深く頭を下げた。
「マティオンは少々潔癖過ぎるのかもしれぬな」
「かもしれません。このままですと司教の命令に背く恐れがございます」
「襲撃の首謀者を捕えずに殺そうとしている事を言っているのか?」
「ご賢察、恐れ入ります」
「まあ、そうであろう。リリーの父親を守れなかった自分が許せんのだ」
「それはマティオンだけのせいでは無いと分かっているはずなのですが・・・」
「教会兵として人々を守れるのは誇り高き務めであると、
あやつはいつも口にしておったな」
「はい。荒くれ者だった自分を赦し導いてくれ、
崇高なる使命を与えてくれた事に感謝していると」
「教会兵がいかに精強であろうとも、時に犠牲が出る事もある。
それが分からぬ男でもあるまいに」
「この村に長く滞在した影響が、悪い方向に出た様に思えます」
「少し馴れ合いが過ぎたようだな・・・」
「もっ、申し訳ございません」
「詫びずともよい。村人の不安を解消するのも大事な務めである」
「ははっ、仰せの通りかと存じます」
「だが、もしマティオンが首謀者を殺そうとした時は、
・・・分かるなティキン」
「はっ、心得ております。このティキンにお任せを」
まだ昼飯前の明るい時間帯に、夜っぽい雰囲気で話す二人であったが、
アーク司教はマティオンの件について、ティキンにしか伝えなかった。
それが一体何を意味するのか。
ただ、他の二人の僧侶は噓が吐けない性格で、
隠し事が苦手なゴリゴリの脳筋タイプだったからかもしれない。




