40話 先入観を振り払うのは、余程の事がなければ難しい・・・
ガサゴソとこげちゃんの動き回る音で威流は目を覚ます。
顔を洗い、しらがみ様へ朝の挨拶をしてからこげちゃんにも声を掛ける。
いつも通りにガン無視されるが、それでも威流は嬉しかった。
そもそも、毎朝しらがみ様にガン無視されている事を忘れてはならない。
そこいらの木からぶら下がっている赤い果実をもぎ取り、こげちゃんの前に置いてみる。フンフンと匂いだけ嗅いだらプイッと顔を背け、その場から走り去る。
「これはお気に召さないみたいだな」
次に怪しいスカイブルーの果実をもぎ取り、またこげちゃんの前に置いてみる。
フンフンと匂いを嗅いだら「キュッキュッ」と鳴いて齧り付く。
「怪しい色のは食べたぞ!?まさか、美味いのか?」
スカイブルーの果実をもう一つもぎ取り、ちょこっとだけ齧ってみると。
「あっ、甘い!!」
ゲテモノは美味いの法則か!!!
柑橘系の様な爽やかな酸味と深い甘み。朝にピッタリな軽めの食事だ。
意識高い系のOLが果物を朝食にする気持ちを、ちょっとだけ分かる気がした。
本当にちょっとだけ。
「そして、この怪しい果物の果汁は焼き魚に絶対合う!!」
威流はこげちゃんを拾い上げ、海岸で魔石を3個使い焼き魚を取ってくる。
ゲテモノ果実を一つ取ってから渾身の力で握り、搾り汁を焼き魚にぶっかける。
そして、焼き魚に齧りつく。
焼き魚の塩気に酸味と甘みが絶妙に絡み、極上の旨味が口いっぱいに広がる。
「あと、大根おろしと醤油が必要だ!!!」
そんな物がここにあるはずもなく、
異世界に来てしまった事に落胆する威流であった。
「それにしても、美味いことは美味いんだが、見た目がなぁ~」
魚の白い身にスカイブルーの果汁が映える映える。
祭りで食べたブルーハワイのかき氷を彷彿とさせるこのビジュアル。
舌が青くなっている可能性があったのに、鏡が無いのが悔やまれる。
「いいや、慣れたら気にならなくなるし、あまり深く考えるのはやめよう」
焼き魚の残りを平らげている途中にひときれ千切って、こげちゃんに見せてみる。
フンフンと匂いを嗅いだら、凄く嫌そうな顔をして走って逃げていったので、
多分食べないと思う。
「そういえば、赤い魔石の実験しないと」
威流は胸のポケットから赤い魔石を取り出す。
ついでに緑色の指輪も取り出し、穴の大きさを計る為に指に嵌めてみると、
右手の薬指にぴったりサイズだったので、そのまま着けておくことにした。
「そんじゃ、海岸に行くか!!」
走り回るこげちゃんを捕まえて肩に乗せ、海岸へ向かった。
いつもの目印から、白い砂浜の一部が異様に黒ずんでいるところまで歩く。
毎日の大爆発火球の影響で焦げた砂が流されず、環境破壊の痕跡を残す。
この事について威流も気付いてはいたが、
背に腹は代えられないと自分を納得させ、見なかった事にしたかった。
「よし、いつものここでやったるかい!!!」
何かあったら大変なので、こげちゃんはシャツの胸元にお引越しをさせた。
赤い魔石を握り、一通りの魔法をイメージするが反応は無し。
毒霧、重力操作、隕石など、無属性魔法のイメージでも起動はしなかった。
「まさか、回復魔法とかなのかな?」
そうだとしても、回復魔法のイメージはどうすればいいんだ?
活力に溢れるとか活性化するとか、あまり具体性のない感じになってしまう。
やめろ、某栄養ドリンクのイメージがチラついて集中出来ない。
他にも、社名に数字が入った某不動産会社のイメージが邪魔をしてくる。
暫く試行錯誤をしてみるが、結局赤い魔石は起動出来なかった。
これ以上考えても成果は出なそうなので、赤い魔石は胸のポケットに入れて、
何か思いついたら試す事にした。
それにしても、今一番やるべき事を放置し過ぎている。
「今日はこのまま、集落まで行って様子を見てくるか」
こげちゃんを肩に乗せ、集落に向かって歩き出す。
海を見渡すと、相も変わらず ”でかい背ビレ” が水面からはみ出ている。
「あれが居て、漁に出れるのかね?」
どうでもいい事を考えながら歩いていくと、集落付近に辿り着く。
あの恐ろしい殺戮坊主共に見つからない様に少し離れた岩に身を隠し、
都度、集落の状況を確認しながら、そこで時間を潰す。
特に何も起きる事も無く、夕暮れを迎えた。
「また明日来よう」
夕日に照らされながら、威流は池の広場に帰るのであった。




