39話 動物には言葉が通じないと言うが、人間でも言葉が通じない奴はいる・・・
威流は茫然とする。
今日、”森の主”に会う前と会った後での違いは何かと尋ねられたら、
緑色の指輪を持っていたか、持っていなかっただけであると回答するだろう。
「俺は何をしにここへ来たんだっけ?・・・」
肩に乗せたカピバラは元気よく「キューーー」と鳴いていた。
カピバラを両手で顔の前まで持ち上げ、威流は問いかける。
「なんで付いて来ちゃったの?」
カピバラは「キュッ?」と鳴き、首を傾げている。
その姿がとても愛らしく、一緒に居れる事を威流は素直に喜んだ。
この子のお世話は色々大変かもしれないし、いずれ巨大化する不安もある。
だからといってこの幸せは絶対に手放す事は出来ない。
そんな葛藤を何度も行き来し、そのうち威流は”考えるのをやめた”
「まあ、いいか!!今日から一緒だぞ」
威流は嬉しそうにカピバラを肩に乗せ、頭を撫でながら歩き出す。
狼もどきが辺りをうろついていると困るので、急ぎ足で池の広場へ向かう。
「そうだ、名前決めないとね!!」
タマ・・・ポチ・・・エリザベス・・・定春・・・
う~ん、カピバラの名前って案外決めにくいな。
みんなはどうやって名前を決めてるんだ?
”カ・ピバラ” ってのはどうだろうか?
なにかしらの革命を起こされそうで落ち着かないからボツ。
森の主の子供だから ”主の子” ってのはいいんじゃないか!!
いや、目に黒い星が出たら怖いからダメ。
キューって鳴くから ”キュー兵衛” なんて洒落てるかな。
洒落じゃ済まない邪悪な何かを感じる。願いとか魔法とかは間に合ってます。
「う~ん、なかなか決まらないなぁ~」
もっと単純な感じでいいんじゃないか?
見た目で分かる感じが良いから・・・・
「焦げ茶色だから~ ”こげちゃん” 」
大手広告代理店に勤め、色々な業務を経験しているからといって、
”感性が磨き上げられはしない” という事を証明するネーミングセンスであった。
威流は試しに”こげちゃん”と呼んでみるが、
自分の事だと理解していないカピバラにガン無視された。
「そうですよね。知ってました」
予想通りの結果だったのに、威流は精神にダメージを負った。
これは、毎日名前を呼んで脳に刷り込もう。
名前を呼んだら近づいてくるって想像するだけで、
なぜ人はこんなに幸せな気分になるのか。
餌とかはそこら辺に生えてる草食べてるから、多分それで問題無さそう。
ファンシーな色をした果物もあったけど、そういったのも食べるのかな?
先程までの緊張感はどこへやら。
お気楽ムードで森の中を進んで行く威流達であった。
池の広場に帰ってきた威流は、こげちゃんを地面に下ろすと、
こげちゃんは気ままに歩き回り、モリモリとそこいらの草を食べ始めた。
威流もいつも通り海岸に向かおうとすると、
それに気が付いたこげちゃんが走ってついてくる。
威流はしゃがんでこげちゃんに話し掛ける。
「海に行くだけだから、こげちゃんはここで待っててね」
それを聞いたこげちゃんは腕に飛び付き肩までよじ登る。
威流の話をまたガン無視するこげちゃん。
威流はこげちゃんに”伝わっている感”を出しているが、
実際は全く何も伝わってはいない。
仕方が無いので海岸までこげちゃんを連れていく事にした。
黄色の魔石で波打ち際を吹き飛ばした時、こげちゃんはまた糞を漏らした。
その後は、持ち歩く分の魔石の補充をしたり、肩掛け鞄を作り始めたり、
自分の寝床の横に落ち葉を集め、こげちゃんの寝床を作ったりして過ごした。
日も暮れ始め、疲れからついうとうとしてしまう威流。
「今日は魔石も使えないし、集落の監視は明日にしよう」
池の縁で寝てしまっているこげちゃんを手で掴み、今日作った寝床まで運ぶ。
鼻提灯を作ったまま、幸せそうな顔で寝ている。
その様子を見ながら、”森の主”にもらった指輪を思い出す。
ポケットから取り出して、色々な角度から眺めてみるが、
なんの変哲も無い、ただの歪な指輪にしか見えない。
「なにかのご利益があるかも知れないから持っておこう」
緑色の指輪を胸のポケットにしまおうとした時に、指輪が何かにぶつかる。
ポケットに入っている物を出してみると、それは赤い魔石だった。
「そういえば、この赤い魔石だけ起動しなかったんだよな」
明日になったら、また起動実験してみるか。
こいつだけ属性が分からなかったから、もう一度属性のイメージを試してみよう。
赤い魔石を緑色の指輪と一緒に胸のポケットに仕舞い、
威流は眠りについた。




