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38話 現実社会は厳しいと言うが、自然界よりはまだマシだった・・・

「キューーーーーーーーーーーー」


肩に乗った茶色の塊の魂の叫びが森の中に木霊こだまする。

その声を聞いた威流たけるは、再び覚悟を決める。



「大丈夫、必ず守ってあげるから」


そう言ってカピバラの頭を撫で、黄色の魔石を起動しようとした瞬間。



「キャアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーー」


森のどこからともなく響いてくる、甲高く狂気染みた恐ろしい奇声。



「まさか、この声は・・・・・・・・・・」


それは一瞬の出来事だった。

凄まじい地鳴りと共に突如”森の主”が現れ、狼もどきを吹き飛ばしていく。

その姿は、歩兵隊に突っ込む戦車そのものであった。



ここからは、一方的な蹂躙が繰り広げられる。

狼もどき達はターゲットを”森の主”に変え、徒党を組んで襲い掛かる。

だが、その爪や牙をもってしても巨大なカピバラに傷一つ付ける事が出来ない。



何故か襲われている時だけ、カピバラっぽく”ぼーっ”としているのが逆に怖い。

そして「お遊びはもう済んだのか?」と言わんばかりにフンッと鼻を鳴らし、

狼もどき達を見下ろして格の差を見せつける”森の主”。



その後の”森の主”は、その大きな顔面を左右に振り、纏わり付く狼もどきを薙ぎ払い、その巨体から繰り出される突進に吹き飛ばされ、地に転がった者から踏み付けられていく。



分が悪いと感じたのか、生き残った狼もどき達はその場から走り去っていった。



「キャアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーー」


顔を空に向けて雄叫びを上げ、戦いの終わりを告げる”森の主”。

その周りには、いくつもの狼もどきのしかばねが晒される凄惨な現場となった。


威流たけるは黄色の魔石を握ったまま、ただ茫然と立ち尽くしていた。



「本当に死ぬところだった・・・・」


有料番組”動物惑星”で野生動物同士の争いは見た事があるけども、

実際に目の当たりにしてみると、なんて恐ろしい世界なのだろうか。


敵対した相手に容赦など存在しない、ただただ叩き潰すのみ。

自然の中で生きるとは、くも厳しいものなのであろう。



”森の主”はゆっくりと威流たけるの居る方に向き直す、

肩に乗ったカピバラは「キュッキュッ」と鳴いて喜んでいるみたいだった。



威流たけるは肩から小さいカピバラを地面に下ろすと”森の主”目掛けて走り出す。

”森の主”はその場に座り込むと、背中から小さいカピバラが次々と顔を出す。

そして、小さいカピバラ達は背中から飛び降り、走り寄るカピバラを迎え入れる。



「”ぬし”の子供だったのか!?」


その割には気の抜けた顔をしていた気がするが・・・・

取り敢えず良かった、無事に家族の元へ送り届けることが出来た。

しかし、”森の主”に助けられるとは思いもしなかったな。



じゃれ合う子カピバラ達を見て、本来は悶絶ものの威流たけるではあったが、

流石に”森の主”は野生動物。気の抜ける相手では無いので、油断している姿は見せられない。



「俺の役目は、なんとか果たせたか」


あの子を家族の元へ連れて帰れた事に満足をしつつも、

後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にしようとする威流たける



立ち去ろうとする威流たけるの元に駆け寄ってくる一匹の子カピバラ。

何かを訴えているのだろうか「キュッキュッ」と鳴いている。



「そうか、お別れの挨拶に来てくれたのか」


最後に頭でも撫でていくかと思い、威流たけるがしゃがんで手を伸ばす。

すると子カピバラは腕に飛び付き、勝手に肩まで駆け上がる。


「こらこら、どうしたんだ?」


懐いてくれているのは嬉しいけど、その分別れが辛くなる。

けど、もうちょっとだけならいいかな?・・・



肩に乗った子をゆっくりと撫でる威流たけるに”森の主”が近づいて来る。

威流たけるの目の前で止まると、なにやらじーっと子カピバラを見つめている。



近付いてきた母親に子カピバラは「キュッキュッ」と何度も鳴きながら、

必死に何かを伝えている様だった。



子カピバラの必死の訴えを聞いた”森の主”は、突然一度だけ頭を上下に振った。

すると、威流たけるの額に何かがぶつかり地面に落ちる。


「痛っ!!」


威流たけるは地面に落ちた物を拾ってみると、なにやら指輪の様な物だった。

緑色の鉱石を丸く削って穴を開けた子供のおもちゃの様な簡素な造りで、

自然の中で偶然出来たという感じのいびつな形をしていた。



「これを俺にくれるのか?」


当然、”森の主”はその質問に答える事は無く威流たけるの横を過ぎ去り、

静かに森の中へ消えていった。



威流たけるは茶色の塊を肩に乗せたまま、その場に立ち尽くすのであった。

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