36話 可愛がるだけで、お世話を人任せにしてはいけません・・・
威流が池の縁で目を覚ますと陽の光が差し込んでいた。
以前の様に池の中では、白い魚がじっと動かず威流を見ている。
「しらがみ様、おはようございます」
威流が池の中を覗き込みしらがみ様に朝の挨拶をすると、
白い魚は方向を変え泳いで行ってしまった。
「はぁ~またやってしまった」
予想外の事態ではあったが、魔石の使用回数が増えたのは素直に嬉しい。
それにしても、何かしらの成長する要素があったのか。
あんまり気にしてなかったけど、魚を焼く時に焦がす事もあったし、
魔石の出力自体も上がっているのかもしれないな。
取り敢えず、今日から集落の監視を始めるとするか。
威流は背伸びをしてから石柱に向かい湧き出る水を飲む。
すると石柱の近くに茶色の小さくて丸い塊が転がっており、
地面に生えた草を一心不乱にモリモリと食べていた。
「なにこれ?」
威流はその場から動かずに茶色の塊の様子を伺う。
茶色の塊はちょこまか動き回っては地面に生えている草を食んでいる。
「あれは、小さいカピバラ?」
体長は15センチ程であろうか、手の平サイズの”森の主”であった。
捕まえたい気持ちをぐっと堪えてカピバラの動向を伺う。
カピバラは池に近づき水を飲もうと顔を前に出すと、
何故かしらがみ様が近寄ってくる。
しかし、しらがみ様を特に気にする様子も無く水を飲み始める。
水を飲み終え「キュッ」と可愛い鳴き声を上げ、その場に座り込む。
動物大好きの威流には悶絶ものの動きであった。
この時点で威流は、茶色の塊を飼いたい衝動に駆られていた。
だが、動物を飼う状況では無いのが威流にとってあまりにも切ない。
ましてや異世界の野生動物であれば、なおの事。
「流石に駄目だ。飼い主として責任が果たせない」
動物病院も無ければ、飼育方法も分からない。
しかも、いつかあの巨大な”森の主”になってしまうとなると・・・・
「せめて、今日だけは許して下さい」
素知らぬ振りをしながら威流はカピバラとの距離を詰めていく。
カピバラは徐々に近づいて来る威流を視界に捉えると、突然立ち上がる。
警戒されたと思った威流は一旦動きを止める。
カピバラは威流の足元まで来ると、顔を上に向け「キュッ」と鳴く。
威流はしゃがんでカピバラの頭をゆっくりと優しく撫でる。
目を細め気持ちよさそうにしているカピバラを見ていて、
胸の中は幸せな気持ちでいっぱいだった。
「こんなに警戒心が無いのは、生まれてから間もないからなのかな?」
身体も小さいし、親からはぐれてしまったのかもしれない。
威流は少し悩んでいた。
この子をこのままここに居させても良いのかを。
「”森の主”なら、なんとかしてくれるかもしれないな」
あの場所にまだ居るかは分からないけど、一回行ってみるか。
ただ、誘拐したとか思われたら今度こそ天に召されるかも・・・
けど、この子の親が探してるかもしれないし、ここで1匹ってのも可哀想だ。
親が探すのを諦めたら家族が離れ離れになってしまう。
威流はカピバラを掴み右肩に乗せると「キュッキュッ」と鳴く。
肩にしがみつき、アトラクションに乗った子供みたいに喜んでいる様にも見える。
「よし、家族を探しに行くか!!」
池の広場を出て”森の主”とエンカウントした場所へ向かう。
暫く森の中を進んで行くと、根本から折れた大きな木を見つける。
「これ、主が折った木じゃねーか」
これがあるって事はこの方向は間違ってないな。
改めて見ると、なんて破壊力してんだ”森の主”。
本当に会いに行って大丈夫なのか?
威流の不安を他所に、肩に乗ったカピバラは楽しそうにしている。
「この子の為にも根性見せるしかないか」
威流は時折、カピバラの頭や背を撫でて勇気を奮い立たせていた。
この時、威流とカピバラに狙いを定める存在が居た事にまだ気が付いていなかった。あの時、”森の主”が戦っていた相手の事を・・・




