35話 なぜ人は苦痛に耐えてまで、欲望を満たそうとするのか・・・
ズン、ズンという地響きで威流は意識を取り戻し、飛び起きる。
錆びた蝶番の様に音のする方へぎこちなく首を回す。
そこには腕を組み、足先を上げ下げして地響きを起こしている、
イライラ感満載のヘビーアーマーエルフがおったとさ。
「ははははぁ~、今日は兜も装備してるんですね」
威流は、もう言い訳の言葉すら出てこなかった。
ヘビーアーマーエルフは、自分の目の前の地面を指差し、
威流に無言の圧力を掛けてくる。
すぐさま、威流はスライデイング正座で指定ポジションに着く。
その速さは、足と地面との摩擦で火が起こせそうな勢いであった。
その後はひたすらまくし立てるエルフ大魔神の怒りが収まる迄、
座してただ待つしかなかった。
「チッ!!」
あっ、いつもの舌打ちだ。
言いたい事言い終わったらするのかな?舌打ち・・・
「いや、あの、その、なんか4個目が発動しちゃったんですよね。あははは~」
頭を掻き愛想笑いしつつ、通じない言い訳をする威流。
そして溜め息を吐いたヘビーアーマーエルフは、重々しい右手の籠手を外し落とす。ズーンと音がして地面が割れる。
自分の足に落とされたらと思うと”男の子はこういうの好きなんでしょ”感は吹き飛び、自分の意識まで吹き飛びそうなとんでもない恐怖だった。
するとヘビーアーマーエルフは、有無を言わさず素手で威流の顔面を掴む。
今回は兜で顔が隠れているとはいえ、美人エルフ(魚類)のアイアンクロー。
つるつるすべすべの細い指と何かしらの甘い香りに威流は幸せを感じていた。
だがその幸せは数秒で終わりを迎える。
だんだん指の力が強まり、ミシミシと嫌な音を立て始める。
「いだだだだだだ、ちょっ、ちょっと、ずっ、頭蓋骨が飛び出るーーー!!」
痛みのあまり正座したままもがく威流を他所に、
無情にもそのままの状態を維持するエルフ。
地獄と天国に挟まれた威流は、下手をすればこのまま光になりそうな勢いだった。
だが光を放ったのは威流では無く、エルフの手からであった。
エルフが威流から手を離すと光は弱まり消えていく。
ただ、痛みから解放された威流の胸中には複雑な思いが残ってしまう。
「あと1分、いや、あと2分は耐えられた」という無念が。
魚類に煩悩を発揮し、人には言えない黒歴史を紡ぎ出す威流であった。
手を離したエルフは池の中からいくつかの魔石を拾って威流の前に戻る。
その場にしゃがんで、数個の魔石を威流の前に突き立ててから立ち上がる。
「な、なんでしょうか、これは?」
エルフは魔石を指差している。ただ、それだけだった。
「ヘビーアーマーエルフのドキドキお察しコーナーのお時間ですね・・・・」
考えろ~考えろ~、俺の頭がお飾りでは無いのなら、何か閃け~。
「1,2,3,4,5、5個の魔石がある」
すいませんがエルフ様。ご尊顔を拝謁でき、恐悦至極なのですが、
わざわざ兜を脱いでまで、その”分からんのか?”って顔は止めて下さい。
凄くプレッシャーになります、パワハラ美人上司です・・・
このままでは埒が明かないと感じ取ったエルフは再度池に入り、
大量の魔石を両手に抱え、威流の前に戻ってくる。
それを足元に落とすと、自分を指差してから大量の魔石を指差し、
その後、威流を指差してから突き立てた5個の魔石を指差す。
「あなたはいっぱい。私は5個・・・」
まさか、魔石の使用数制限の話をしているのか?
つまり、俺は魔石を5個使える様になっている!?
「成長している。俺は成長しているんだ!!」
・・・・・何が?
何が成長したら使用数上限が増えるのかさっぱり分からん。
魔石を使い続けていたから、何かが成長したのかもしれんが、
その仕組みが分からなければ、何の実感も湧かないんだけど・・・
「ただ、ヘビーアーマーエルフの言いたい事が分かっただけでもいいや」
5個の魔石を手に取り、エルフに向かって頷く。
威流はきっとエルフも頷いてくれると思い込んでいたが、
彼女の手には既にモーニングのスターが握り締められていた。
「あぁっ!!もう面倒臭くなって、どうでもよくなってませんか?」
威流の言う通り、ヘビーアーマーエルフはもうどうでもよくなっていた。
すぐさま威流の脳天に一撃。
薄れゆく意識の中、毎回あれで殴らないといけないのか、それともあれは趣味なのか。何故、夢の中でも感覚があったのか?と考えずにはいられない威流であった。




